128 秋話 柿と猿 中
「柿といえば猿!」
思い出して力強く言う。
「な、なんじゃ」
「さる?」
いやほら、柿を猿に取られたら嫌だ。猿にはこういろいろなんていうか複雑な思いがあってだね……
「少し、猿について語らせてほしい」
語るモードに入る。
「この感じ、前にもあったのう……」
「『へー。そうなんだー』の準備、いる?」
なにやらミミとキララが仲良くひそひそ話しているが了承は得られたと思っていいかな。いいよね。
語ろう。
猿、それは農作物の敵だ。トマトやとうもろこしやかぼちゃを食べるのでとても困るのだ。しかもやつらは賢いので覚える。餌場と認識すると毎年やってくる。親が子どもに伝える。
思えば昔から猿はいたのだけど、どんどんなんていうか被害が増えていた気がする。
小さいころからいた。裏の畑のとうもろこしを盗られたことあるし、ギャーギャー言っていたの記憶にある。
そういえば、子どもに「お前はうちの子じゃないんだ」っていうの、流行りがあったのかな。けっこう同年代で言われたことがある友人が多い。
多くは、地元の川で拾われた話が多く、バリエーションとして橋の下とかがある。海とかも。
大体川なんだけど。友人から聞いたのも川が多い。それもかなりリアルな知っている近所のそこの川の名前を言われる。めっちゃ土地勘あるので、あそこで!? っとなる。
そして、私が言われたのは「動物園で猿山の猿の子と取り替えてきた」というそれちょっとどうなのという話だった。
ゆえに、うちの裏の庭の小さな畑に猿が来ると「お前の本当のお母さんかもしれない」と言われて育ったんだけど、それどうよ。
「どうよと言われてものう……」
「木登り上手だったの?」
ええ、そりゃあもう。上手だった。昔の子ども、今思うととても危ない遊びをしていた。裏山に毎日登って、山の上から下まで落ち葉の滑り台を段ボール一枚で滑り降りたりしていた。秘密基地は作るし、木登りもする。木に登って木の枝を揺すると、少し離れた木が揺れる。
昔は挨拶をすれば猿も挨拶をしてくれるんだと思ってやっていたけど、今思うとあれは縄張りを荒らされて怒っていたんだろうな……。
近年は猿の出没も激しくなり、ご近所では部屋の中まで入られた話もよく聞く、というかうちも網戸は破られた。たまたま家にいたので物音に驚いたら、網戸を破ってこんにちはしかけた猿と遭遇したりね……。
うちの裏の家には柿の木があったので、しかも甘い柿がなる木があったので秋になると猿が来るのはよくあることだった。うちの屋根、通り道になっているのでとてもうるさい。通るとどんどんいうのですぐわかる。
子猿連れの時も多くて、小さい子猿は可愛いのだけど、手のひらに乗りそうな子猿を連れている時もあって、その小ささ、産んだばっかりじゃないの!? こんなところに連れてきて大丈夫!? と思う。ちょっと心配する。
通るだけならまだいいんだけど、網戸を破ったり雨樋を壊されたりすると困る。網戸はまあ網を張り替えればいいのだけど、賢いんだから破らずにちゃんと開けて欲しい。隣の家の玄関は開けるくせに。そして、雨樋を壊された日には……。困るんだよね。ほんと。
屋根の上の雨樋がね、多分蹴っ飛ばされて、ピロってあっちを向いてしまったのだ。これ直さないとなの? ってなった。
しかも、天気予報が次の日雨の時だよ!
ということではしごをかけて屋根に登った。登ったけど高いの怖いよ。そういえば私は高所恐怖症気味なんだよ。ジェットコースターも怖い人間だ。
ジェットコースター、乗ったらもう仕方ないのに、だんだんと高いところに登っていくあの時に「なんで乗っちゃったかなぁ……」って絶望するタイプ。
あの降りる時の内臓がひゅんって浮く感覚、ううううってなるよね。思い出してううってなった。
「ジェットコースターってなんじゃ?」
「なんか怖い乗り物のイメージつたわってきているね。ふじやま?」
なんとか向こうを向いた雨樋をこっちにむけてつなげてみたけど、これ割れてるねぇ、どうしようかってなった。
こんな時にはダクトテープですよ、奥さん。銀色のダクトテープさえあればなんとかなる。そういうものだ。アメリカあたりで作られた映画のダクトテープの万能感といったらない。
宇宙空間でも大活躍するあれ。そのダクトテープを持っていって、こうくるくると、いや、まって高いところでの作業怖い。無理ってなって。一旦降りた。
テープを程よい長さに切って両肩に貼り付ける。これで高所でハサミを使わなくて良い。賢い私。そうやってなんとか応急処置をした。応急処置ができちゃうと、本職に修理をお願いするのおっくうになるよね……。
本当はちゃんとメンテナンスしないと家ってすぐに傷むのだけど。でもほら、ダクトテープだし、大丈夫じゃないかなって。
「旦那様。語っているところ、悪いのじゃが……」
「うん、なんかあれ……」
語りに夢中になっていた私の肩をキララがトントンと叩いてから柿の木を指さした。
あ、これは……噂をすればってやつ?
もふもふした茶色の塊が柿の木にいる。えっ、いっぱいいる。
「パシモンキーじゃな」
猿、来ちゃった!!
とっさに100均で買った火薬銃を検索して購入、110円。そして火薬も110円だ。
昔懐かし8連になっている火薬。
運動会のスタートの銃と言ったほうがわかりやすいだろうか。
火薬をセットして引き金を引く。
パァーン!
という破裂音が鳴り響いた。
もう一発。
大きな音と火薬の匂い。この火薬の匂い臭いけれどクセになるんだよね。
少しだけいい匂いだと感じる。
大きな音に驚いたのだろう。大方の猿は逃げた。だが、逃げずに固まっている猿がいた。子猿だ。親に置いていかれたのだろうか。
もう一発鳴らして追いやろうとしたのだけど。限界だったのだろう。音に驚いた子猿がころりと柿の木から落ちた。
えっ、ちょっとまって!
慌てる。そんな、そんなつもりはなかった。逃げてくれたらそれで。
駆け寄って様子を見る。ふかふかのそれこそ手に乗るような小さな子猿だ。目を回して気絶している。一応身体を確認したけれど、出血とかはなさそう。打ち身はあるかもだけど。
「この子、どうしたらいいの……」
「怪我はないようじゃから、寝かしておいたらそのうち去るじゃろう」
「さるだけに!」
いやでもこんな小さくてふわふわな子を放置するのは心が痛む。
箱に布でもつめて簡易ベッドを作って少し看護するべきか。
しばらく様子を見ていると、子猿は目を覚ました。
逃げるでもなく大きな潤んだ目でこちらを見上げる。
うっ、かわいい。どうしてこう動物の子どもというのはとんでもなく可愛い造形をしているのだろうか。
小さな手をこちらに伸ばすので思わずこちらも手を伸ばす。
きゅっと腕を抱き込まれてしまった。
ダクトテープで思い出した話、
「映画を見ていたら急にお花をつみに行きたくなってしまった話」
をエッセイとして書きました。
もしよろしければそっちも読んでいただけると嬉しいです。




