127 秋話 柿と猿 上
畑の柿の木が実った。柿は成り年と裏年がある。今年は多分成り年なのだろう。たたわに実ったオレンジの実。枝がたわむほど豊作だ。畑と共に入手したこの柿は少し小ぶりの柿だった。形は筆柿っていうんだっけ? 筆先みたいなやつ。平たくなくて縦長の柿だ。
柿って色づくまではあまり存在感がないよね。秋になって実がオレンジになると、えっ!? こんなに成ってたっけ? ってなる。
朝の光を受けてつやつやとオレンジ色に光る柿。いい色だねぇ。
たくさん成ったので、とりあえず一カゴ分収穫して、一個試しに剥いて食べてみたら、これがもう渋かった! しぶってなる、口がぎゅってなる。顔ごとぎゅっとなるくらい渋い。ぺぺっ!
私の真似をして切り分けた実を同時に口に入れたミミとキララもングッとなっている。
だから私が味見をするって言ったのに。十中八九渋柿だろうと予想はできたので。
「ざらざらするのじゃー」
涙目になったキララが言うけど、うん。口の中がなんかねっとりザラザラだよね。
「しびえた……」
ミミが可愛い舌を出した。いったん口内についたタンニンは長く居座る。どうしようもない。
三人で渋い顔を見合わせる。その互いの顔を見て笑ってしまった。本当に顔がね、どうしようもなくこう歪んでいる。てか、キララは多分わかっていたよね、こうなること。でも知識と体験は別だろうから、こんな壮絶な味がするとは思っていなかったのだろう。
これは完全なる渋柿だ。だよねぇ。甘柿ってかなり奇跡の植物だ。柿は基本的に渋いもの。そして、実は渋柿の方が甘みは強かったりする。渋みで味がわからないだけで、糖分が多いのは渋柿だ。
さてと、渋い柿の処理方法はどうだったかな。
アルコールで拭いて袋に入れて置いておくか、干し柿か。
うちでは手っ取り早くアルコール処理して食べていたけれど、たくさんもらった時には干し柿も作ったことはある。面倒だけど面倒なんだけど、干し柿美味しいよね。買うと高いし! いや、あの手間ひまを考えるとお値段は納得なのだけど。
柿好きにもいろいろ派閥がある。固いのじゃないと駄目派とジュクジュクが至高派と。私はどっちもいけるけど、やや固いの派閥だ。でも柔らかい柿を凍らしたやつ好き。美味い。
「とりあえず、アルコール処理しよっか」
「これ、食べるの?」
ミミに言われるけど、食べますとも! 柿は美味しいから。
アルコールは錬金ギルドで買ってきた度数が高いやつがまだあったはずだ。家ではホワイトリカーでやっていた。
千円リピートでゴミ袋を1枚出して木箱にかけた。布と小さい容器にアルコールも準備。
「私が詰めるから、柿を拭くのと、こうヘタをこれに漬けるのをやってくれる?」
柿を拭いて傷がないか確かめる係と、アルコールにヘタをつける作業を分担してもらう。
そうして渡された柿を傷がつかないように慎重に袋につめていく。ヘタは上が良いんだったか、ヘタ同士をくっつけた方が良いんだったか、渋抜きの作法にも諸説ありすぎてよくわからない。私は大雑把なので、その時の気分だ! みっちり詰めれば問題ないよ。多分。
箱いっぱいになったら、ゴミ袋をぎゅっと縛る。
これで一週間くらい置いておけば良い、はず。温かいところの方が早く渋が抜けるらしいから日の当たるところに出しておこう。
お次は、干し柿だけど、干し柿にするには収穫の時から気をつけた方が楽だ。
軸がないと吊るしにくいから。
竹串をぶっ刺す方法もあるけど、数があるとやってられないよね。
「キララー、キララ様、この柿の収穫、軸をTの字に切るってできる?」
空中にTの字を描きながら聞く。イメージは伝わるだろう。
「まかせるのじゃ!」
頼もしいキララ様に収穫してもらった柿、綺麗にTの字が残っていて完璧だ。干し柿にするにはこれを、そう、これの皮を剥かないといけない……。
美味しいものを食べるには手間暇が必要だ。ここで頼りになるのはピーラー。それも武田印のやつ。ピーラーなんて百均のでいいでしょ、そう思っていた私が買ってみたら「なんでもっと早く買わなかったんだ!!」ってなったやつ。
ステンレスでちょっと斜めになっていてとても使いやすい。切れ味がすごい。人参の皮を剥いたら人参がテカテカに輝いたので驚いた。光っとる! って言っちゃった。
お値段も千円以内で買えちゃうので、千円リピートに余裕がある時に買っておいたやつだ。
だって、使い勝手が良いのだ。こっちにはピーラーないんだよ。なので買って後悔はない。料理に手を抜くタイプなので便利道具に弱い。
柿の皮を剥くのはおしりからヘタに向ってやるのがやりやすい。これ、葡萄もそうだよね。剥きやすそうだと思って軸を取った穴から剥くと剥きにくい。おしりから剥くと途切れにくくて剥きやすいのだ。
ついでに柿のヘタのぴろっとしたところもハサミで切り取っておくと腐りにくい。このヘタ、しゃっくりを止める漢方になると聞いたことがあるけれど、飲んだことはない。
「むいて、どうするのの?」
「皮をむいて、紐につけて、茹でてから干すよ」
「じゃあお湯がいるね」
ミミがお湯の準備をしてくれる。火をつけるのは自分の仕事だと思っているのだろう。とても助かる。そしてご飯を炊いたりするのは私よりも上手くなってしまった。料理の腕が抜かれるのは時間の問題な気がする。
紐がいるんだけど、干し柿の重量に耐える丈夫な縄状の紐、あいにくと買い置きがない。
荷造り紐、出しちゃっていいかな。紐だし。
出した紐のよってある、ねじってあるところをくいっと開いてそこに柿の軸を通していく。
キララに手伝ってもらったけど、この作業、けっこう楽しい。縛るより断然楽だし。
紐に吊るされていく柿。
「キララ、そんな厳密に等間隔じゃなくてもいいから」
これくらい、と前ならえのような手の形で幅を確認しながら慎重に柿を取り付けていくキララに助言する。
「いや、綺麗にやりたいのじゃ」
謎の美意識が発動しているようだ。そこはもうおまかせしよう。
ミミが沸かしてくれたお湯に、吊るした柿をくぐらせていく。これをそのまま軒下に吊るせば良い。
あ、でも念には念を入れてアルコール消毒もしておいた方がいいかな。アルコール余ってるし。
どれくらい乾燥させたらいいかなぁ。途中でもみもみしないとね。
すだれのように吊るされた柿を見て満足。キララが厳密に等間隔に並べてくれたのでとても見映えが良い。
キララが、うむうむと腕組みで頷いている。綺麗だね。
まだ柿は成っているから、少しずつこのすだれを増やしていこう。いっぺんにやると疲れるからね。
柿を見ていると思い出すことがある。
柿が成ると、猿がね、いつもやってきていたのだ。




