124 アクセサリーを作ろう!
親方に作ってもらった道具が嬉しくてたまらない。
革の道具入れに綺麗に収まっている道具を眺めてニヤニヤしてしまうし、寝る時にも手放したくなくて近くに置いて寝た。ニッパーという刃物もあるから危ないと言えば危ないけど、でも、ね。
「幸せそうな良い顔をしておるの」
ってキララに言われたけど自覚はある。だって自分専用の工具だよ。これは興奮する。
さて、何を作ろうか。
平ヤットコを握って考える。
とはいっても私は留め方をあまり覚えていない。
アクセサリーを自作する場合、Tピンや9ピンという金具というか端の処理をしてある針金をよく使う。
のだけれど、私はワイヤーワークが好きで、というかいろんなピンを揃えるのが面倒で全部ワイヤーでなんとかすれば良いのでは? という脳筋的な力技で作っていた。
それこそ、チェーンがないなら小さいビーズをつなげてチェーンっぽくすればいいのでは? という感じに。
親方が見せてくれたワイヤーの中で一番扱い慣れていた#28の細さに近いワイヤー。このワイヤーで千円リピートで出した天然石ビーズをメガネ留めという技法で繋いでいく。眼鏡みたいに両端に輪っかができるからメガネ留めっていうのかな?
私が好んで買っていたのは直径2mmという極小サイズの天然石だ。
中でもマルチカラーのトルマリンはとてもお買い得で一連買えば様々な色が手に入る。
とてもお買い得だった時に買ったので一粒2円くらい。
大体20粒くらいでブレスレット、60粒くらいでネックレスが作れる。
テンションが高いので200円分出してみた。まあ極小なので100粒あってもほんのちょこっとだ。じゃまにならなくて良いよね。こぼすと捜索活動が地獄だけど……。
「キラキラできれいだね」
ミミが言う。うん。ミミの尻尾みたいにいろんな色だよ。石って綺麗だよね。
キラキラしたものは心に良い! とても良い。心の中の幼女が喜んでいる。天然石は眺めているだけでテンションが上がるのだ。良いものだ。
このいろいろな色のトルマリン。まず、ちまちまと大体の色ごとに分けていく。そして、色の順番に並べ替える。
トルマリンは本当にいろんな色があるのでグラデーションにすると楽しいのだ。
この作業、昔やった色彩パズルを思い出す。色相を並べ替えていくやつ。そうやってパズルのように虹色に並べたビーズを一つずつ繋いでいく。
平ヤットコで直角に曲げたワイヤーに丸ヤットコをあてがってリングを作って根本にワイヤーを巻き付けてニッパーで切る。切った端を平ヤットコで押さえて刺さらないように処理。
ビーズを入れてもう一方の端っこも輪っかを作る。その輪っかに新しく作った輪をつなげていく地道な作業。この地味な作業がたまらない。
地道に、一つずつ、丁寧に。時間はかかるけれど、やればやっただけ目に見える成果が残る作業はとても楽しい。手が覚えている作業をしていると頭がだんだんクリアになっていく気がする。そして、老眼じゃないってこんなに作業が楽なんだ! 見える、見えるぞ。切断面の尖りが見えるので最後の処理がしやすくて感動。
メガネ留めで留めると、ピンワークと違って細いワイヤーでも強度が出る、と言う。
けれどそれは良い面と悪い面があって。チェーン状のアクセサリーというのは強くて切れないとそれはそれで危ないのだ。繊細で壊れやすいアクセサリーはその壊れやすさでつけている人の身を守っているのだと思う。
私が使っているワイヤーは細すぎるので、多分大きな力がかかればねじって強度が弱まったところから千切れるだろう。それで良い。それが良い。
夢中で無言で作業をする私を、キララもミミもそっと見守ってくれていたようだ。
いつの間にか、そこそこの長さのチェーン状に連なったトルマリン。
キラキラと光る粒がワイヤーで留められたそれに引き輪をつけてブレスレットにした。
作るのが楽しい。正直、自分でつけるのかと言われるとどうでも良かったりする。
ひたすら繋いでいくこの作業が楽しいのだ。
キララが欲しがってくれたので、だったらと思ってあと2つ作ってミミと自分とおそろいにしてみた。
まだ作り足りないので、ブルーのトルマリンの粒を集めてちまちまとつなぐ。んん、ちょっと粒が足りないな。色合い的に、アクアマリンが欲しい。ミックスベリルなら買ったことがあるから少し出してみよう。あああ、モルガナイトが多い。ヘリオドールも。もう一回。おっしゃ、アクアマリンも出てきた。これで作れる。
ルーナの瞳が青いのでそれをイメージして作ってみた。
キラキラしているから、まあおもちゃにはなるだろう。
残ったトルマリンはピンク系が多く、モルガナイトもあるのでピンク系のグラデーションも作れそうだな。ひたすら作業を続けて凝り固まった肩を回して腕を伸ばす。
ああ、楽しかった。
キラキラのブルーグラデーションのブレスレットはルーナによく似合った。
「ありがとう。サキさん。宝物にする!」
と言うそっちの方が宝物のような言葉をいただけたのでとても嬉しい。
相変わらずとても可愛いルーナは最近ちょっと背が伸びたのだという。つま先立ちになって大きくなったことを示すルーナが可愛すぎて笑ってしまう。
こちらの世界でも柱に成長記録をつけることをするようで、確かに柱に書かれた線が新しい。
懐かしいな。私の家の柱にもクレヨンで名前が書いてあった。従姉と背比べをして書き込んだのだ。子どもが書いたのでひらがなで、一文字は左右が反転していた。鏡文字、なぜか書くよね、子どもって。
ルーナが健やかに大きくなりますように。そう願う。
そんな風にルーナのことばかり考えていたからだろうか。可愛い姿が脳裏に焼き付いていたからか。
夜、寝ようとした時に、ルーナの声が聞こえた気がした。
『サキさん。大好き。おやすみなさい』




