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異世界で一日千円分だけ自分が買ったことがあるものを出せる能力でなんとか生き抜きます  作者: 相内 友
第十章 勇者、来襲!

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123 細工道具ゲット!

秋話栗話が入ったので前回までのあらすじ


勇者たちを支援するために、

インサムを育てて上級ポーションをゲットして、

蚊取り線香も作ったら、大量生産することに……。

そのための型作りにドワーフな親方をハーカセさんに紹介された。


あ、蚊取り線香立てと、持ち運び用の容器もいるよね。相談しとこう。

「これは誰が?」

 見本にと思って出した、私用の持ち運び用の腰につける蚊取り線香ケースを見たドンガン親方が言う。


 えっと、これは私が無理を言ってジルじいに作ってもらったやつ。

「わしゃ、こういうのは本職じゃないぞ……」って言われたけどその割にノリノリで作ってくれた。蓋の透かしが除虫菊の形になっていて可愛いのだ。


「魔道具職人のジルさんに」

「奴か……」

 え、なんかジルじいの知り合いっぽい。てかジルじい有名すぎではないか? それとも職人の世界が思ったより狭いのか? まさか親方もばあさん関係者だったりしないよね?


「ふん。金具付けが甘いな」

 あ、それは使っていてちょっと思った。一箇所じゃなくて二箇所留められると嬉しい。けどこれでも実用性は十分なのだけど。


「そっちは?」

 こっちは私が小屋で使うのにゼムクリップの針金を折り曲げて適当に作った簡易的なスタンドだ。あと、ダブルクリップを二つ組み合わせて立てたりしている。


「簡易スタンド。けどもっといい感じのやつを作ってほしくて。セットにしたいので」

 そう、蚊取り線香に付属しているようなやつ。あれがいいと思う。

 これまた絵を描いてみるけど、記憶があやふやだ。ツノみたいなのをこう折って立てる感じしか覚えてない!


 火鼠の皮衣じゃないけど、あのじか置きしても燃えない白いふわふわしたやつ、あれは材料なんだったのだろう。短時間だけ使いたい場合は折ってあれに置いて燃やしたり、全部アルミで出来た洗濯ばさみを止めたいところに挟んで消えるようにしていたのだけど。


 ものがないとスタンドの必要性もわからないだろうと渦巻形の蚊取り線香を見せ、簡易針金スタンドにつけてみる。ちょっと宙に浮いて火が消えなければそれでいい。


「ほう。これは」

 簡易だけど、蚊取り線香を立てるくらいならこれでも十分に用は足りる。けどなんだかねぇ。

「いいじゃねぇか」

 え、これでいいの? そんな……。

「こういうシンプルなやつほど奥が深い。それに一個ありゃあいいんだからセットにする必要はねぇな」

 言いながら私の簡易針金スタンドが親方の手で調整された。平ヤットコを操る動き素敵。あっという間に形よく使いやすい絶妙な姿に変える。魔法みたいだ。


 言われてみればそれはそう。

 蚊取り線香を買うと新しいやつが溜まりがちだけど前のがあるから別にいらないことが多かった。

 けど大量に必要だとセットで付いてくるんだよね。そっち買う方が安かったりするから。


 そっか。別にセット売りする必要はないんだ。言われてみて気づく。セットになっているのが当然な気がしてたけど。自分の常識は物が豊富な日本の常識なのだなと思う。


 まあでもこれはありがちだ。洗剤やシャンプーを買う時も、詰め替えよりも本体を買った方が安いこと、よくあった。グラム単位で計算すると、あれ? こっちの方が安い? ってなるやつ。本来、詰替えの方が安くなるはずだよね。なんで余計なものがついている方が安いのだろう。不思議だ。


 親方に相談して、蚊取り線香とスタンドは別売りということに。簡易なスタンドと少し凝ったスタンドを用意して買う人に選んでもらう方式に決定。うん。それが良いよね。


「あ、一応こっちも簡易スタンドで」

 ダブルクリップスタンドも一応見せておくか、と見せたら親方の目の色が変わった。


「おま、これは……。板バネか? こんな使い方」

 ああああ、忘れてた。ダブルクリップはこっそり使うリストに入っていたんだったっけか。


 でもこんな見たらわかる機構にそこまでの価値はないと思うのだ。色ガラスの製法とかならともかく。てか自分が目立つのはあれだけど便利なものは使いたいから別の人、親方に広めてもらえばいいのではないか。だってこの人ハーカセさんお墨付きだし。口がかたくて信頼できる、んだよね。

 私がみた感じもとても職人らしくて、ずるいことをするようには見えない。


 親方に、これはうちの故郷では一般的に使われていて自分の発明じゃないこと。特許とか面倒くさいことにはできれば関わりたくないこと。でも使いたいので親方に丸投げしちゃいたいことを伝える。


 そしたら、親方に頭を抱えられた。

「訳ありだとは聞いていたがとんでもないな……」

 ハーカセのやつ覚えてやがれ、ってつぶやいている。あっ、追加でゼムクリップと目玉クリップとアルミの洗濯バサミ、渡して良い? 挟むつながりで。アルミの洗濯バサミは蚊取り線香を使う時に便利だし。


 親方は、ものすごく複雑そうな顔をしていた。けど形状と機構と細工の精度に好奇心が抑えられないみたいだ。分解してくれていいよ。もう一個ずつ渡そうか?

「この精度で作れるやつがなんでこんな雑な仕事を……」

 それは多分大量生産品だから、だね……



 しかし、これで、細工が超絶上手い親方に伝ができてしまった。

 これはあれやこれやを頼んでも良いというフラグだろうか。いや、お代はちゃんと払うけれど。


 あっ、そういえば欲しいものがあったのだった。

「親方、さっき使っていた素晴らしく使いやすそうな平ヤットコ、どこにいけば手に入るのか教えてください」

 ものすごく繊細な動きが可能でめちゃくちゃ使いやすそうな平ヤットコ。欲しい。

 できれば丸ヤットコとニッパーも欲しい。ついでに目打ちも欲しい。


「ん? 細工道具が要るのか?」

 なんだかちょっと得意げな顔をした親方が聞いてくれる。


「できるだけ先が細いやつが欲しくて。丸ヤットコとニッパーもあると嬉しくて。わがままを言うと目打ちと細い銅線に金メッキか銀メッキしたワイヤーも欲しい……」

 欲望がダダ漏れだ。


「手ぇ見せろ」

 言われて差し出した手を両手で探られる。

「ちっちぇえなぁ。握りも小さくしねぇと扱いづらいな、こりゃ。先が細かいってどのくらい細いのが要るんだ」


 先、どのくらい細かったかな。形から入るタイプなので最初の道具を揃える時にそこそこ評判の良いものを買ったので。千円では買えないやつを。あ、そうだ。

「先端はその針金くらい……」

 だった気がする。ゼムクリップの針金って直径1ミリくらい?


「わかった。揃えといてやる。1週間後にまた来な」

 やったー! 道具があればアクセサリーが作れる。ちまちま小さな天然石でめがね留めをひたすら作るのが好きなのだ。


 自分でつけるとかじゃなくてあの作業が好き。精神統一になるというか、無心でできる細かいことって楽しいよね。眠れない夜にひたすらちまちま作業をするとすっきりする。


 私にはできないのだけど、編み物が好きな人も多分こんな気持ちなんじゃなかろうかと思う。編み物、できる人うらやましい。なんであの編み図が読み解けるのか、私には本当にさっぱりわからないのだ。緻密に模様を編み込める人、すごすぎる。


 秋になると市民展示会が公民館でやっていて、作品を展示している人がいるけれど、口をぽかんと開けてしまうほど素晴らしい腕の方がいらっしゃる。大作すぎるやつを見るとほんと感心する。




 こうして手に入れた細工道具。ものすごく使いやすくてびっくりした。手に馴染む大きさで開閉もスムーズ。細かい作業が本当にやりやすい。手の延長の様に操れる。すごい。

 柄にさり気なく模様が入っているのも可愛くて一目で気に入った。ってこのDの刻印。え、まさか。


 ジルじいが使っている道具を見せてもらった時に見たことがあるような。そして「もう手に入らないんじゃ」って言ってなかったっけか……。


 お代は払ったけど、なんかこれはとてもお安く良いものを手に入れてしまった感が強い。

 でも、大事に使おうと思う。


 あ、留め具も欲しいと渡した見本の引き輪とかナスカンとかカニカンを見て、親方が本当に腕で頭を覆ってしまった。

 アクセサリーパーツって、ほんと細かいし、なにがどうなっているのかよくわからない……。


 無理そうならマンテルでもいいんだけど、いまいちあの輪っかとT字の留め具、私は使いづらくて……。


 特許の件は、表の名前はドンガン他一名という形で匿名で、権利は入れるようにするとのこと。別にいいのに。そこをちゃんとしないと駄目だって、それが条件だったので仕方ない。私の名前が出ないならそれで良いと思う。

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― 新着の感想 ―
あー…そっかぁ。 勇者召喚で異世界文化はある程度入り込んでる世界でも、恐ろしく発達した化学工業技術の世界の庶民の贅沢趣味品の廉価版って手に入る訳がないかぁ。 バトルに役立たず、命にも関わらない、生活用…
ラジペンとニッパはきほんだよな
親方の心労が酷そうなのでオーパーツを纏めて見せるのはやめて差し上げて
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