118 歌姫様に感謝を
蚊取り線香を赤木くんに喜んでもらえて良かった!
よって次に私が求道すべきはすばらしきインサムだ。目指せ上級ポーション!
何を変えればいいのか。植える場所か。土なのか。それとも肥料の種類や与え方か。水の量?
毎日ありがとうと声をかけるとか。クラシックを流すとか。あ、電気ショック? ハンマーで叩く?
なんだかキノコ栽培のコツが混じっている気がするけれどやれることはやっていこう。
そうして試行錯誤をして育てあげた可愛いインサムを今日もハーカセさんに見てもらう。
今回のやつは、えっとどうしたんだったかな。確か、土は水はけ重視。堆肥は入れるけど腐葉土系重視で肥料分が多そうなやつは控えめに。肥料は微粉イエスポネックスをメインで薄め薄めを心がけた。ヘキサガーデンも少し使って、電気ショックを適度に与えて、そして、私の歌を聞かせてみた。
ミミにもキララにも大ウケだった。歌は共通言語だからね、うん。伝わるものがあったのだろう。いやでも主に歌詞を聞いて笑っていた気もするが……。
私は最後のコンサートでステージにマイクを置いた歌姫が大好きなのだ。その歌姫の歌の中でも、二股をかけられた女性二人の掛け合いで始まる歌が大好き。主人公が格好いいのだ。四文字熟語のタイトルなやつ。
他の名曲に比べるとそこまで知名度はない気がする歌なんだけど、なぜか大好きでこれなら歌詞を大体覚えている。
母がこの歌姫を好きでラジカセでいつも聞いていた。それを聞いていた私がノートに歌詞を書き出すほどこの曲好きだった。特に最初の掛け合いが好きで好きで。
ものすごい名曲だと思う。この二股男にはひどい目にあってほしい。もっと追い詰められてほしい。相手の女性もちょっとだけ、夏でも踵がガサガサになってストッキングを履く時に困るくらいの不幸はあってもいいんじゃないかと思う。
そうやって育てたこのインサム。かなりの自信作だ。
どうかな、この子のむっちり感、素敵だと思うんだけど。色も白くて私の太ももよりもよっぽどセクシーだと思う! あの歌姫様、あの年齢で酸いも甘いも噛み分けたみたいな壮絶な人生経験に裏打ちされたような色気があったよね。
促成栽培のインサムにあの歌を聞かせることで、かなりな深みと円熟味がプラスされたのではないか。
ほら、あるよね、カレーにコーヒーを入れるとコクが出るみたいな、あれ。
「これは、すごいですね。素晴らしい! 優ランクです! 持ってくるたびに品質が上がっているのもすごい。……そして、この頻度……この量……」
おっ、やった! 優良可の優が出た! ハーカセさんがうっとりしている。やっとハーカセさんを悩殺できてとても達成感がある。ありがとう歌姫様!
「じゃあ、これで素敵な上級ポーションを作ってもらえたり?」
「お任せいただけるならありがたいです!」
こちらも作っていただけたらありがたい。できるだけ高品質なポーションをあの子達に持たせたいから。
私の目が確かならば、ハーカセさんすごく腕が良さそうなのでお任せしたい!!
他に必要な材料は可のインサムと引き換え。作業料も良インサムや可インサムでの支払い可だそうだ。
「いや、むしろインサム払いでお願いしたいのです!」
とハーカセさんに言われた。錬金術師の育成に回したいのだそうだ。
上級ポーションの材料のインサム、需要がかなりありそうだね。
思えば漢方薬の原料もコロナ禍以降不足気味で調達費用が上がっているとかなんとか聞いたような気がする。
お野菜作るより儲かるのかぁって思ったことが……。
「錬金術というのは作らないと上手くならないんです。初級、中級は材料も安く手に入れやすいものが多いのですが、上級ポーションとなると作成回数を稼ぐことが難しく」
「ちなみに失敗すると?」
「腕によります。未熟な者であれば材料はほぼ無駄に……」
そうなのかー。
失敗すると中級とか下級ポーションができることもある。そして、ものすごく失敗するとおどろおどろしいヤバいものができるらしい。
お料理みたいなものなのかな。高級食材の中には美味しく食べるには技術がいるもの、あるよね。
いくら高級食材でも素人が扱うと食べられないものになってしまったりしがち。ふぐとか!
高級牛肉なら素人が焼いても美味いけど、三星シェフに焼き加減を見てもらえればそりぁ最高に美味いだろう。
ということで、三星シェフなハーカセさんに調理をお願いすることとした。おまかせで、最高のポーションをお願い!
「そういえば。サキさん、おもしろいものを作っていらっしゃるようですね」
ついでだしとダーブ粉を買い足していると、にっこり笑顔のハーカセさんに問われた。
「おもしろいもの?」
小首を傾げる。そんな笑えるものを作った記憶はない。
「蚊に刺されなくなるというお香です」
「ああ、蚊取り線香。ハーカセさんも使います?」
なんだ、蚊取り線香のことか。笑える要素はない、と思うけど。蚊取り線香、渡したのはジルじいさんと勇者たちにだけ、なんだけど。ハーカセさんが知っているということは、ジルじいさんから錬金ギルド長のネグさんに情報が流れたのかな。
ばあさんを巡っていろいろあって仲が悪いのじゃないかと思っていたのだけど、そうでもないようで。
ジルじいさんもけっこう蚊に好かれるらしい。蚊取り線香の容器作成に協力してくれたのでお礼にあげたら愛用してくれている。独特の匂いがするし、煙が立つから使っている時に人が来れば、それは何だという話題にはなるだろう。
「ええ、ぜひ」
ハーカセさんにそう言われたので、この後ジルじいさんに持っていこうと思っていた蚊取り線香を少し横流しする。
ふふっ、ハーカセさんも蚊に刺されやすいのかな。刺されたところをツメでバッテンにしているのかもしれないと想像すると笑えてきてしまった。
一応注意書きを。
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