117 蚊取り線香を作ろう
※注 ちょっと虫回です。
あっ、除虫菊の方はとても順調。白くて可愛い花が咲く頃に何回か刈り取ってじっくり乾燥させてある。ただ、問題はどうやってお線香にするか、ということで。
手作りお線香、アロマにハマった時に調べたことがあるのだけれど、なんという名前かは忘れたけどつなぎの粉が必要なんだよね。水で練ると糊みたいに粘りがでてくるなにかの粉。固めればいいだけなら、他のもの、糊かなんかで代用できそうな気はするんだけど。
この問題はかなりあっさり解決した。ハーカセさんに聞いたら「ダーブの木の粉のことですね」ってあっさり。ダーブ粉、錬金ギルドで購入可能だった。そうだね。同じ様に匂いを楽しむ文化があれば、同じようなものが開発されているのだろう。
十分に乾かした除虫菊を粉にする。この小屋に残されていたいろいろの中に薬研を発見した時には興奮してしまった。
昔時代劇で小石川養生所のお医者さんが出てきた時にギーコギコしていたやつ。棒のついた石の車輪みたいなやつを舟形の石の器の上で転がすあれだ。
この石の車輪、あれに似ている。腹筋を鍛えるやつ。私は一回もできずにぺしゃんこになった……
あ、石臼も残されていたのを発掘しでどっちを使うかは悩んだ。けど薬っぽいものを作るならやっぱり薬研だよね。
乾燥した除虫菊を入れ、ギーコギコする。すり潰されて粉になっていく様が面白い。
最初は面白くて夢中になってしまったけれど、これは地味かつ、丁寧さが必要な作業だ。
あまり早くやると熱が発生するので良くなさそう。早く終わらそうと思ってたくさん入れると細かさにばらつきが出る。
欲張らず少量ずつ丁寧にゆっくりやっていく方が、結果的に早く良いものができる。
ものごとってそんなものだよね。
腕が痛くなり、息が荒くなってきた。そしたら、見かねたミミが代わってくれた。
「腕に効くね」
ミミは薬研が気に入ったようだ。丁寧に力強くすりつぶしてくれる。
薬研で粉にした除虫菊をふるいで分ける。
粉が舞い散った。ミミがけほっとなった。そして、キララが可愛くくちゅんっとくしゃみをする。
マスクしてもらっておけば良かった。それにしても。
「キララ、それですっきりするの?」
私のくしゃみは、はっくしょい!! という威勢のよいものなので、信じられないものを見る目でキララを見てしまう。
そんな可愛く、くちゅんってくしゃみをする人、本当にいるんだ。可愛くていいなぁ。私のくしゃみ、あまりにくしゃみが大きいので思わずした後に「あー可愛いくしゃみだった」って言ってしまう。でもキララのくしゃみが可愛くて良かった。私のくしゃみと同じ勢いだったら粉を辺りに撒き散らしてしまうところだった。
粉にした除虫菊と、錬金ギルドで買ってきたダーブ粉を混ぜて、少しずつ水を加えて練る。ねーるねる。練っているとだんだん粘りが出てくる。ひとかたまりになるまで慎重に水を足していく。
いい感じに練れたので後は粘土細工を作るように形を決めていく。お香みたいに三角形にしたり。お線香みたいに棒状にしてみたり。そして、やはり蚊取り線香といえば渦巻きだよね。長く紐状に伸ばしたものを渦巻き型に整えていく。
「綺麗なお団子ができたのじゃ」
丸めたくなる気持ちはよくわかるし、とてもまんまるだけれど、できれば細長くしてほしい。
かといって、ミミのように細い細い紐状にしたものを三つ編みにしなくても良いと思う。昔私も粘土でやったけどさ。
いろいろな形の蚊取り線香が完成。
このまましばらく乾燥させればできあがり、のはずだ。
ダーブ粉がこんなに簡単に手に入るのなら、杉葉線香も作れてしまうね。こちらには仏壇も位牌もないけれどお線香をあげることはできるのかな。
いや、今までだって買えばよかったんだけど。
しばらく乾燥させて多分これで完成した蚊取り線香に試しに火をつけて、くゆる様を見つめる。
細く白く上がる煙がゆっくりと拡散していく。あの独特の匂い。
「くさいのう……」
キララが鼻の頭にシワを寄せている。慣れてないとくさいよね。でもかぎ慣れるとこれが夏の匂いというか、懐かしい匂いになるのだ。なんだか夏休み、お盆のおばあちゃん家を思い出す。
「くさいけど、おもしろいのじゃ」
おもしろがったキララが、いくつか形の違う蚊取り線香に次々火を点けていく。ちょ、待って、そんなに点けたら……
案の定、すごく煙がたちこめてきた。火災警報器があったら鳴る勢いだ。けむい。
そして、あることに気がついた私はすごくあせった。
「ごめん! ミミ!! ミミがいた!!!」
『いるよ?』
ミミ、トカゲじゃん。しまった。除虫菊の殺虫成分はなんだったっけ。ピなんとかだよね。多分ピだ。神経系で昆虫に効くということは爬虫類もヤバい可能性が高い。
「ミミ、苦しくない? 吐き気は?」
慌ててミミを確認するけれど、いつものきゅるりんとした目が可愛いミミだ。元気そう。
あれ、そういえば。粉にしている時にも舞い散ったものをけほけほしてたね。吸い込んでいたよね。
あれ? ってことは?
『忘れてるんだと思うけど、ぼくミミズだよ? 虫じゃないよ?』
え、うん。忘れてけど豊穣ミミズさんだったね。うん。思い出した。
殺虫剤ってミミズには効かない、んだっけ?
そういえば、ミミズには脳がないので効かないとか聞いたことがある、ような……
なら良かった。ほっとした。自分が作ったものでミミが苦しむのを見るのは嫌だ。
でも……。ミミズって脳がない、のか? もしかしてミミは脳みそまで筋肉、なの?
手作り蚊取り線香をヤブ蚊の多いところで炊いてみたら、ものすごい勢いで逃げていくし逃げ遅れた蚊はポトポト落ちていくので効果はある! ようだ。
これは勝てる!
ジルじいにお願いして作ってもらった腰に吊るす蚊取り線香ケースと共に勇者たちにプレゼントした。そしたらびっくりするくらい赤木くんに感謝された。
「サキさん。恩に着る!」
赤木くん、蚊にものすごく好かれるタイプらしい。お主O型だな!? って聞いてみたらやっぱりO型だった。
私はA型なんだけど、あまり刺されない。多分血がまずいんだと思う。赤木くん、この世界にいるかどうかわからないけど、吸血鬼に気をつけてね。話を聞いた感じ、ものすごい勢いで蚊に襲われるみたいだから、そうとう美味しいんだと思う。あと、足の裏をアルコールで拭くといいらしいよ……
どうも赤木くん、蚊だけじゃなくて虫全般に好かれやすいみたいで。森の中だとカナブンみたいなのが飛んできてぶつかられたり、トンボとか蝶々に止まられたり、いろんな虫に這われたりするらしい。
ヘラクレスオオカブトみたいなでっかい甲虫に好かれるのはやぶさかではないらしいのだけど、弊害の方が大きいとのこと。
そして、ここは異世界なので虫型魔物というものがいる。蜂型の魔物に好かれると、そりゃ困るよね。
役立ててほしい!
あ、桃瀬さんもそれなりに喜んでくれたよ。ただ、桃瀬さんは虫愛ずる姫系の虫大丈夫! 可愛い派閥だった。素手で虫を掴めるみたい。強い……。




