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異世界で一日千円分だけ自分が買ったことがあるものを出せる能力でなんとか生き抜きます  作者: 相内 友
第十章 勇者、来襲!

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115 役立つものを育てたい

 勇者たちに貢ぎたい欲がすごいのだけれど、あまりあからさまに能力を使って貢ぐと桃瀬さんが怖い。めっ! て言われてしまいそう。

 どうしたらいいのか考えた結果、能力を極力使わない、使ったことがバレにくい方向性で貢ぐこととしたい。

 つまり、育てた薬草や薬効のある植物を錬金術でポーションにしてもらって渡せばいいのではないかと思いついたわけだ。


 まず、訪ねた先はカエンさんの農場。とても広くてそして手入れが行き届いていて区画整備がすごい。まあ、種を厳密に取ろうと思うと隔離とかも必要だろうから当然か。


「カエンさん、なんかいい感じの薬草の種ください! 上級ポーションに使えそうなやつ」

 いきなりの要求をエルフなカエンさんはふんと鼻で笑った。そんな顔もお美しい。そういえば勇者たちもカエンさんのこの姿を見れるはずだったっけ。多分みんな生エルフを見たら興奮しそうだなぁ。


「あたしの専門は野菜なんだよ」

 そうだった。野菜の交配がお好きでライフワークだった。でも、野菜でもにんにくは元気になるし、野菜と薬草の垣根って結構あいまいではないのか。ハーブ、香辛料系ってほぼ薬草だ。


「とても美味しくて形もちょっと変わっているかぼちゃ、気になりませんか?」

 ちょっとお高いあのかぼちゃの種、ちょっとグレーゾーンな匂いがするんだけど買ったことがあるので出せてしまう。


 本当に飛騨高山で「あのかぼちゃ」って呼ばれていたという細長いあのかぼちゃ。

 本来門外不出なはずで、他の地方に流出しないように他のかぼちゃの花粉をつけて実らして出荷しているという噂のあのかぼちゃ。とある漫画の登場人外物? の名前がついてるかぼちゃの種、何故かネットでは売っているのだよね。


 私は小さめのかぼちゃが好きだ。なぜなら大きいかぼちゃは切りにくいから。以前大きくて立派なかぼちゃに包丁を突き立てたら抜けなくなったのがトラウマで。「抜き差しならぬ」ってこういうこと!? って実感した。


 あれ? この話以前もした? まあいいや、年を取ると同じ話を何回もするようになる。前に話したかどうか忘れちゃうから。いいんだよ。何回でも同じ話をしたいのだ。だってあの抜き差しならなくなったのほんと衝撃だったから。


 なので個人的には、とってもいっぱい成って、大きさも小さめで程よく切りやすくて使いやすい、ほこほこで美味しくて貯蔵性に優れたかぼちゃの種、をおすすめしたいところだ。けれど残念ながらそのかぼちゃはF1種といわれる交配種なので一代雑種で種取りにはむかない。ということはカエンさんを釣るには使えない。名前がとても好きなのに。野菜の種、とりあえず姫とか付きすぎ。そしてだじゃれが好きすぎ問題。


 その点「あのかぼちゃ」は伝統野菜なので私が買った種が本物であれば採種できるはず。そしてあのかぼちゃは細長いからとても切りやすいのだ。そこが私のおすすめポイントだ。かぼちゃの切りやすさ、大切だと思う。


「ほら、とっておきのインサムの種だよ。そっちの種を早くお出し」

 交換成立。カエンさん、人のことは言えないのだけどちょろすぎないかね。ありがたいけど。インサム、初めて聞く名前だけどものすごい薬効のある薬草っぽい。育てるのに時間がかかって根っこを主に使うらしい。上級ポーションの材料ゲット!


「高温と日光が苦手だから日陰で水はけが良い場所が必要だよ。ちょいと気難しいからね」

 ほう、おひさまが苦手系なのか。育てるの大変そう。水はけは高畝にしたらなんとかなるかな。

「詳しくはあの聖樹の子に聞くといい」

 キララに聞けばなんとかなる、といいな。


「こっちもとっておきの南瓜なので、一つる一果、一株三果まで。できたら一株一果、人工授粉推奨」

 あとなんだったっけ。棚はあった方がいいとは思うけど。


「わかったよ。ぜいたくな南瓜だね」

 うん、けっこう繊細で育てにくいんだよね。まあ伝統野菜、そんなところがある。土地に合えば強いけれど、けっこう気ままだ。特にこの、あのかぼちゃは味を重視するなら一株に一個で我慢しておけと言われる。ただ、育てていると成ったら成っただけ嬉しくて育ててしまうものだけどね。そうすると味が落ちるのだそうだ。




 畑に帰ってきて、インサムをまく場所を探す。

 うん。日陰が必要だというのなら、まくべきはここだろうと思った。

 そう、畑でキララの樹の木陰になる場所だ。ここ以上にふさわしい場所はあるまい。特別な場所だ。このあたりならキララが面倒をよくよくみてくれることだろうし。


「ミミ、キララ、来れる?」

 そっと呼んでみる。ミミもキララも基本的に好きな時に好きなようにしている。キララは本体に戻っている時もある。ミミも畑だけじゃなく別の土を耕しに行っていくことも多い。


 つながりがあるので呼べば聞こえるらしいので、必要があれば呼びかける。


「なんじゃ?」

 キララがキララの樹から現れた。あ、やっぱりここにいたのね。寝てたのかな。目がとろんとしている。


「インサムっていう薬草の種をここにまいていい?」

 キララの樹の影になるあたりを指差す。

 んんん、と少し斜め上を見るような仕草をしたキララ。知識がダウンロードされているっぽい。


「良い。が、インサムならもっとちゃんとした日除けがいるぞ」

 キララの樹だけだと時間によっては影が動いて日が当たってしまう。シートか何かで日除けを作ったほうが良いっぽい。

「別に多少吸われるのは問題ないからかまわぬが」

 えっと、今吸われるって言った?


「何か吸われるの?」

「我と共に生きるものをインサムも必要とする、らしい」

 植物と共に生きるもの? もうちょっと詳しく。

「根っこに良い菌類がいて、それをインサムも必要とするのじゃ」


 あ、わかった。根粒菌的なやつか。ほほー。そういえば昔、ネジバナがいっぱい咲いている芝生のグラウンドのところからネジバナを掘って鉢に植えたけれどうまくは育たなかったな。ネジバナはラン科なので、土にネジバナに合う根粒菌が必要なのだそうだ。芝生があると根粒菌が増えやすくてそれで芝生のグラウンドにはよく生えていたのだろう。


『よばれた!』

 遅れてミミも到着。今日はトカゲ姿だ。手を差し出すとしゅるしゅると肩に登ってくれた。かわいい。指でつんつんしてしまう。


「あと、わらわは今梅じゃからのう。松竹梅の順番で相性が良い」

 松の木の根粒菌が一番いいのかー。でも聖樹な梅の根粒菌もスペシャルな気がする。

「松の木かー」

 松の木、種類によっては松の実がとれるかな。美味しいし栄養価が高いよね。松の実。長靴いっぱい食べたい気持ちになるやつ。


『松の木、いるの?』

 さっきまで松の木がある森で耕していたらしいミミが持ってこようか? と提案してくれる。それも良いなぁ。


「とりあえず、松の生えてるあたりの土を持ってくることってできる?」

 ミミに頼んでみた。


『まかせて! いっぱい取ってくる』

 ついでなので本当に松の木も植えちゃおうか。松葉サイダーとかやってみたいこともあるし。


 あと、役立ちそうなものも植えよう。虫除け需要はありそうだからとりあえず除虫菊まいてみようか。キク科なのでとても整ったかわいい花が咲く。子どもに花を描いてというと描いてくれる花のような花だ。真ん中に丸を描いて花びらを楕円形でいっぱい描くあれね。

 蚊取り線香の原料、と言った方がわかりやすい。

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― 新着の感想 ―
カボチャの抜き差しならぬ状態は哀しいですよね。 身が詰まったおいしいカボチャでこそなりがちなのがより悲しい。 包丁を入れる前にレンチンするとよいと聞きますが、どっちにしろ丸ごと一個買うのは大変にリスキ…
あのカボですね。種、うちでは育たなかったけど 知人で本格畑やってる人に分けたらカボになって 帰って来ました。 あと、バターってつくやつや、ニンジ●カボチャって 通称で手に入れた(鶴●?)やつも。 都会…
松葉サイダーはそのままお酒にもなるからいいなぁ
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