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異世界で一日千円分だけ自分が買ったことがあるものを出せる能力でなんとか生き抜きます  作者: 相内 友
第十章 勇者、来襲!

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112 あの神様への純粋な信仰心

 緑川くんの結界ごとロックタートルの首を一太刀で切り落とした赤木くん。ドダンという音を立ててロックタートルの身体が崩れ落ち砂埃が舞った。

 あっさりと、まずは一匹。


 残された美人亀がそれを見てキューっと悲鳴のような声をあげた。なんだかとてもいたたまれない。しかし魔物なのでそのまま放置しておくわけにも。


「ちょうど良いですね。緑川、奏上が終わり次第結界の解除を」

 桃瀬さんにはあまりこう未亡亀への同情はなさそうだ。良いことだと思う。

 真剣な顔で柏手を打った桃瀬さんが目を閉じる。その目をゆっくりと開き、唇にうっすらと笑みを浮かべた。風もないのにふわりと艶のある黒髪が揺れる。


吐普加美依身多女(とほかみえみため)。掛けまくもかしこきポンポンペインの大神、桃瀬聖が大前に参列みて拝み奉る状を、平らけく安らけく聞こしめせ。もろもろの禍事、我らが痛み苦しみあらんをば、そこなる亀に移し給い、悪しきを降伏せしめ給えとかしこみかしこみ申す」


 あ、私が思いついた神様を試してくれるのは良いんだけど、内容がやばくない? 単にお力をお借りできればと思ったんだけど。


「解」

 奏上が終わるのに合わせて緑川くんが結界を解いた。ロックタートルが激しい怒りと共にこちらに攻撃を仕掛けようとする。しかし……


 空がにわかにかき曇り、ゴロゴロと雷鳴がなる。ものすごいゴロゴロ音だ。そしてその音と共にロックタートルが悶え苦しんだ。苦悩の鳴き声を上げる。あ、痛いけど動けない、もう一歩でも歩くと無理って感じになった。


 これはなんていうか。奏上内容からするに、ありとあらゆる今「神様!」って祈っているお腹が痛い人の痛みの依代にされた感じ? 想像すると、きつすぎるんだけど!


 そう、私が桃瀬さんに思いついて告げた神様は、ポンポンペインの神様だ。ぽんぽんが痛い時に祈る神様だからポンポンペインの神様。


 この名前はどっかで聞いた名前で正式名称というか、本当はなんという神様なのかは知らない。けれど、だれもが皆、あの神様に祈ったことがあるはずだ。


 お腹が痛い時って「神様!」ってなるよね。なんていうかあの祈りほど純粋なものはない気がする。どんなに信仰心がない人でも、あの時だけは神に祈るのではないか。


 だから、どんな神様よりも強い純粋な信仰を集めている神様だと私は思っているのだ。桃瀬さんにそう言ってみたら笑われてしまったのだった。


 けれど、この状況を見るにどうもやはりこの神様、最強な気がする。

 ロックタートルの顔がものすごく苦痛に歪み、たらりたらりと目から脂汗のように濃い涙がとめどなく垂れている。つらそう。


 ドシャーン!!


 そして、激しい光がロックタートルに降り注ぎ、地は揺れ、一拍遅れてゴロゴロと鳴り響く雷鳴がみんなの下腹をビリビリと共鳴させた。


 すごっ!


 けど、やめてほしい。おこぼれ怖い。


「さすが、お姉さまです。これほどの威力とは……」

 桃瀬さんから尊敬の眼差しで見られる。うん。本当にこれほどとは。ロックタートルさんを一撃です。かなりなんていうか見るからに過剰な威力だった。すごい。


 あと、この攻撃に耐えられる動物はそうそういない気がする。胃腸がある限り腹痛と無縁ってことはないよね。


 そう。かなり恐ろしい攻撃技を生み出してしまった気がする。ある意味とても尊厳に関わるので対人攻撃としては最凶最悪だ。どんなに強い男たちでもそこは鍛えられないだろう。


 みんなの顔がやや青い。あの苦痛は思い出すだけでつらい。もし自分だったらと思うと勝手に脂汗が出る。今後、桃瀬さんには絶対に逆らわない。逆らえない。

 こっそりと顔を見合わせた我々の心は一つになった。




 ロックタートルが二匹、仕留められて横たわっている。甲羅もお肉も余す所なく利用できるらしき魔獣。

 問題は私は亀をさばいたことがないということである。

 防具に使えるということは甲羅はすごく固いだろうし。そもそもでかいし!


 あ、でも。

「赤木くん、解体できる?」

「やったことがない」

 うん。日本人で亀をさばいたことがある人ってそんなにいないのでは。しかし、赤木くんの刀があればザックザクに切り刻むことは可能じゃないかと。


「収納に、なんとか入りそうかな? あともう一匹、空いてる人ー?」

 黄野くんが、大きい方のロックタートルに触れた。シュッと一瞬で姿が消える。

 あ、なるほど。入れちゃえばいいのか。自分の収納が自力で運び入れないと駄目なやつなので、眼の前で正しい収納能力の使い方を見て驚いてしまった。

 いいな。


「入る」

 緑川くんの収納に空きがあったのでもう一匹は緑川くんが収納してくれた。


 さて、さっきの音と光もけっこうすごかったから、おかわりが現れる前に帰ろうか……




 自力解体をあきらめたロックタートルは冒険者ギルドに持ち込むことにした。餅は餅屋に。

 マチルダさんはロックタートルと聞いて目を輝かせた。

「腹甲、すごく需要があります。ありがたい素材です」

 なんでも一番需要が高く買取価格が高いのは美容に良い腹の方の甲羅なのだそうだ。


 それを聞いて、素人がさばかなくて良かったと思った。私がさばいたら多分腹の甲羅から刃を入れて腹甲をずたずたにしただろうという自信がある。肉が食えれば良いんでしょって精神で。


「一番美味しいところのお肉は食べたいです!」

 桃瀬さんからは良い笑顔で要望を伝えられている。前から思っていたけど、一番食いしん坊なのって桃瀬さんなのかな。精力もついちゃうみたいだけど、いいのかな。力がつくのは良いことか。


 亀肉、どうやったら美味しく食べられるのだろう……。

 大丈夫、きっとなんとかなる、と思う。


「他は全部買い取りで結構です」

 青井くんが桃瀬さんの要望を補足した。うん、あの大きさのお肉を全部食べるのは無理だと思う。


 ロックタートルさん、どうも生息場所によって甲羅のレアリティが変わるっぽい。鉄鉱山だと、強度もそこそこあって扱いやすくて需要も高い。

 プラチナや金鉱山だとキラキラしていたりするのかな。ちょっと見たい!

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― 新着の感想 ―
ポンポンペインさまに関係無い事まで懺悔しちゃう。 日本人は無宗教だろと言われた時に返すには良い言葉だ。たぶん最大派閥の一角だと思う。
龍の玉に願う有名漫画でも、ピーピーと言うと腹痛で戦意がなくなる薬があったのを思い出しました。まるで戦えなくなってたなあ。
そうそうw ポンポンペインの時は祈る祈る… そんでもって「もうしません…もうしません…ごめんなさい…」と謎の懺悔も繰り返す あの痛みを思うと美亀ちゃんがめちゃくちゃ可哀想(٭°̧̧̧ω°̧̧̧٭)
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