110 感動の再会
「刀を投げる?」
そんなことは想像もしたことがなかったという顔を赤木くんがしている。眉間のシワが深い。まあ普通の刀だったら自分の武器を投げてしまうのは悪手だよね。でもそれ、チートな刀で出したり消したりできる特別製だから。
刀って近接武器だから、もうちょっと中長距離に対応してくれたら戦い方に幅ができる。戦いにおいて一番良いのは相手の射程外から攻撃することだと思う。
「打刀だと抵抗あるなら脇差しもあるんだし」
刀は武士の魂だ! みたいな信念があるのかもしれない。だとすると脇差しでも抵抗あるかな。
けど、やれることは幅広い方が良いと思う。ほら、人気漫画でも刀を投げてるやつあったと思う。赤木くんも読んでいるんじゃないかな。
「いざとなったら脇差しを借りることは考えてたけど、投げる、か」
青井くんが眼鏡を押さえて考え込んだ。借りる気はあったんだ。それもいい手だよね。
そして、やはり剣道の腕はそれなりにあるのか。小さい頃から稽古はしていただろうから。
「お前にならこっちを貸す」
赤木くんが打刀の柄を軽く叩いた。大きい方を貸してもいいくらい青井くんの腕は良いってこと? となると青井家のほかの兄弟の才能がすごいのか。青井くんの自己評価が低いのか。どっちなのかな。
まあ何か投げるなら、投げるように特化したものを緑川くんの結界で作るという方法もある。けれど、なんでも切れる刀なら確実にダメージが入ると思う。
当たりさえすれば何でも切れるんだから、対象がどれだけ硬かろうとすごい勢いでぶっ刺さるはずだ。消して出して鞘から抜きなおすまでのリロード時間が無防備になってしまうのがちょいと問題だけどね。
そして。
「黄野くんの転移能力がとてもすごくてこのパーティの肝だよね」
この勇者御一行の中で、どう考えても一番重要なのは黄野くんの能力だ。
黄野くんがいるからこそ、勇者たちはいつでもどこへでも逃げ出せる。
それをわかっていれば王族等はヘタな扱いはできない。最強の牽制能力だ。
あと、野営をしなくてよいのとても有能。すごいアドバンテージだと思う。疲れを宿で癒せるって最高では?
なんならご飯も落ち着いた場所で食べられるわけで。補充もできるし忘れ物も怖くない。よくぞ転移能力を選んだと黄野くんを褒め称えたい。
「いつでもサキさんのところに行けるから!」
それが一番有用な使い方だと黄野くんが茶化すように笑う。
「攻撃力もすごいよね。転移能力うらやましい」
そう言った私に黄野くんが笑みを深めた。
これはわかってる顔だね。
転移先に危険な場所を選べば、転移させた相手を行動不能にすることができるだろう。あと、転移が失敗して部分転移になっちゃったらダメージすごいよね。
単純にそこの岩を敵の頭上に転移させるのも良いだろう。
あーほんと、みんなチートが過ぎる。
あ、そうだ。
桃瀬さんを指でちょいちょいと呼ぶ。
警戒心もなく近寄ってきた桃瀬さんの耳に内緒で囁く。
私が思う、人にもっとも純粋に願いを託されている神様。
「えっ!?」
くすぐったかったのか肩を震わせた桃瀬さんが吹き出した。
「機会があったら試してみてほしい」
そんな笑わなくても。信仰が力になるというのなら私は真剣にあの神様が最強だと思う。
「そうだ。黄野くん。マッチをあのとんがった岩のあたりに転移させることってできる?」
ついでに思いついたので言ってみる。
「もちろん」
頼もしいお応え。にんまりと笑う。
「私にもちょこっとだけぶっそうな攻撃力があるから、見せておくね」
みんなの能力を検証及び考察させてもらったので、こちらもちゃんと情報は開示しておかないと。
マッチを取り出し黄野くんに渡す。
「黄野くん、合図をしたらマッチに火をつけてあのとんがった岩のあたりにお願い」
久しぶりすぎて、どのくらい出せばいいのか悩む。まあちょこっとでいいか。吹き出し花火くらいな感じでバフンとなるくらいで。
だいぶ離れたとんがった岩の上あたりにふんわりとガソリンを出して、合図をする。
ちょっと格好をつけて手で銃の形をつくってバキューンと。
黄野くんがマッチをシュッと擦った。そのマッチが瞬時に消える。
そして、世界は一瞬、閃光と轟音に包まれた。
えええぇ!?
かなり離れていたのに衝撃波がすごかった。ちょこっとしか出してないのに!
結界、張り直しておいてもらえばよかった……
「すっげぇ」
赤木くんに輝く瞳で見つめられる。男の子ってこういうのが好きだよね。でもこれは失敗なので……
「間に合わなかった」
緑川くん、結界張ろうとはしてくれたんだね。一瞬だったから。ほんとごめん。
「サキさん、最高」
黄野くんが笑ってくれているけれど、私はその背後にいる方が、ちょっと恐ろしい。
「サーキーさん?」
桃瀬さんにいつもと違う、力を込めた声で呼びかけられる。怖い。目が怖い。そしてお姉さま呼びはできればやめて欲しいと思っていたけれど、今じゃない気がする。
呼称が変わるって怖い。とても可愛い顔なのに怖い。
「いや、前ためした時はこんなちょっとでこんな爆発は起きなかった!」
言い訳をする。もしかしなくてもこの千円リピートの能力、一応少しずつ向上しているのだろうか。出せる金額が変わるとかじゃなくて、地味にふわっと出した時の細かくなり具合が上手になるとかそういう方向性で。地味に進化を……。
「何をしたのかはだいたい想像がつきますが、それ黄野くんと緑川がいないと自爆技ですよね?」
「はい……」
考えなしでした。みんなの能力があまりにすごかったので興奮してしまっていた。黄野くんがいれば私の能力もうまく使えるかもって思ったのだけど、やはり爆発規模を制御できない爆発は危険すぎる。
本当に、最後の最後の自爆技くらいにしか、使いようがないなぁ。
「普段は塩胡椒を少々、ふりかけてます。今後もその方向性で善処します」
目潰しに。それが私の攻撃力。しょぼい。つらい。
「なるほど。地味だけど効果的ですね」
青井くんに頷かれた。目はほとんどの生物の弱点だからね。
「胡椒はいいですけど、爆発物は危険です!」
「はい」
反省します。
そうやって、桃瀬さんに叱られた後。
赤木くんの刀の投擲を試してみようかと話していた時に、微妙に地響きを感じた。
なんだか重量があるものが遠くから迫ってきているような、そんな……
たらりと、汗が垂れる。
さっきの爆発、けっこうな音と光でしたね。そして、このあたりは。
地響きのする方向を振り返る。まだまだ距離はあるけれど、あの遠くに見えるのは。
お久しぶりです。ロックタートルさん……




