109 お鍋が作れる?
やったことがないなら、やってみれば良い。
ということで、食事後、懐かしの廃坑山にやってきた。
ここなら爆発しても問題ない例の場所だ。
今日はロックタートルさん出ないといいなぁ。
適当な石の周りに緑川くんが結界を張る。人が一人ちょうど入れるくらいのお手頃な大きさだ。
「わかりやすいように、物理で、色」
ぼそりと小さい声で解説された。おお、なるほど半透明に緑色で半球状に結界が張られている。
「触っても良い?」
頷かれたので遠慮なく、触る。
本当に物理的に触れる。コツンコツと叩いてみた感触としてはそんなに強そうな感じはしない。
色といい、叩いた感じといい、プラスチックみたい。
「色が変えられるってことは質感も変えられたりとか?」
考え込んだ緑川くんが、プラ結界の隣にメタリックな金属光沢の結界を張った。
すごい! ピカピカすぎて周りの景色が映り込むくらいのミラー感。これをうまく使えばカーブミラーのように死角をなくせるのではないか。そんな使い方はしないか。
でもこの結界だと中から外が見えないから不安だね。多分この中に入るってメインディッシュになったみたいな気持ちになりそうな気がする。たまに高級なレストランでお皿に銀のボウルみたいなやつを被せているのを見るよね。
「みんなにも」
そう言った緑川くんは私達を覆うように大きめの透明度が高い結界を張ってくれた。
赤木くんの頭上にも傘みたいな盾みたいな結界が浮遊した状態で出現した。
さすがチート結界。なんかいろいろな種類と形態の結界があるみたいですごい。
「やるか」
緑川くんの結界の準備が整ったのを見た赤木くんの腰に刀が出現する。聞いていた通り、黒い帯に差し込まれた大小二本の刀だ。洋装に出てくるとなんというか、やはりやや違和感があるね。カルチャーセンターでの帯刀のお試しっぽい感じというか。
鯉口を切り、抜いた刀を正眼に構える赤木くん。ギラリと光る刀は美しいけれど少し怖い。身体が大きくてとても鍛えていて体幹がしっかりしているのが素人目でもわかる。ピンと伸ばされた背筋が凛々しい。
「いざ、尋常に」
すごい速さで振り下ろされた刀は緑色の結界で一瞬止まったように見えた。しかしそのまま刃は結界に食い込んで、両断した。結界は消え、中にあった石と勢い余ったのか地面までが切れている。
「あら」
あっさりと優劣が決定してしまった。爆発等もなかったね。もうちょっと拮抗していろいろ起こるのかと思っていたよ。
もう一度、金属光沢の結界に赤木くんが刀を振り下ろす。今度はさっきほど力を込めていなかったのか。少し手加減をしたのだろうか。
金属光沢の結界は数瞬持ちこたえた。そこで、赤木くんが力を込めたのだろう。少し硬いものを切るように刀はそのままゆっくりと結界を両断した。
ふむ。なんでも切れるチート刀とチート結界ではなんでも切れる刀の方が強いようだ。
いやでも緑川くんいっぱい結界を出していたから数も関係あったりしそう?
「負けた……」
ちょっと悔しげな緑川くん。だけど私的に気になるのが。
「緑川くん、あの赤木くんに出してた結界は形が違ってた。変形も自在だったり?」
頷かれる。
「え、じゃあお鍋が作れる?」
えっ!? って顔をみんなにされたけど、金属で形が自在ならお鍋とかフライパンとかお皿とかコップとか。そう思っていたら口に出していたらしい。緑川くんは言われたとおりに作ってくれた。
目の前に作り出されたそれらの精巧さに驚く。おたまとスプーンとフォークとナイフまで。
「すごい! 便利!」
って、ナイフ!?
「これは、新たな攻撃手段になりそうですね」
桃瀬さんがとても上品に口の端をつり上げた。なんだか笑顔が怖いよ。
何でも切れる刀には負けるとはいえ、チートな防御力の結界が武器の形にできるとなると、かなりの硬度なのではなかろうか。
というか。
「物理結界で大きさが変えられるのなら、攻撃手段としてそれだけですごいのでは?」
敵を結界でくるんだ状態で結界を小さくしていけば、ぷちってなる気がする。
ならなくても結界で敵を無力化しておいて、赤木くんが結界ごと切ればいいのではないか。
そう言ってみる。
「えぐいこと言いますね。しかし結界は中からは容易く出れるのでは? 転移はできた記憶が」
青井くんにつっこまれた。黄野くんそうなの?
「そういえば、俺の転移、中からは出れたけど、入れなかったよね」
「向きが、ある」
ほうほう。結界に向きがあるのか。
緑川くんそこ、詳しく!
ぼそりと要点のみの緑川くんの解説をなんとか解読するに、結界には種類があって両面と片面があるっぽい。片面の方が早く楽に張れるのでいつも使っているのは片面。
というか両面結界は片面結界を貼り合わせる感覚なのだそうだ。
結界の向き、クッキングペーパーの裏表みたいなものだろうか。それともマジックミラー?
とにかく、いつも張っている結界は中にいる人を外から守るものなので、外からのものは弾くけれど、中のものが出るのは自由なのだそうだ。え、あの硬さで中からは通り抜けできるの?
高性能の雨合羽の、耐水性ばっちりだけど透湿性もすごいよ! みたいな感じ?
つまり、その結界だと黄野くんの転移は出れるけれど入れない。
結界の表面? を内側に向けて張ると、黄野くんは入れるけど出れない、となるみたい。
おもしろいな。ってことはチート結界とチート転移だと、チート結界が勝つのか。
「今のところ、赤木くん>緑川くん>黄野くん?」
赤木くんの能力で転移能力は切りようがないので赤木VS黄野くん検証は無理だけど。
「そういえば。能力の鑑定、みんなのはできなかった……」
おっ、青井くんから新たな証言。
ってことは青井くんの鑑定能力はメンバーの能力には効かないのか。詳しくわかると使いやすいのにね。
暫定、赤木くん>緑川くん>黄野くん>青井くん?
ここで桃瀬さんがどこに入るのか知りたいけれど。検証しようにも。
「桃瀬さんに攻撃力はないよね……」
聖魔法って多分回復系統だよね。
「ありますよ?」
あるの!?
「神様のお力をお借りするので。回復、バフ、結界、攻撃、それなりにどれでもいけます」
桃瀬さんすごい。え、最強は桃瀬さん!?
頼る神様によってご利益? 効力が違うそうで。そういえば「信仰に裏打ちされた聖魔法」だったね。
「じゃあ、あの神様に祈るの?」
あの神様、多分こっちの神さまなのだろうけどなんていうのだろう。
「もちろん試してみました」
こちらで信仰されている創造神、たぶんあの神様はカファーン神というらしい。
「ただ、なんというか、あまりその……」
え、あまり信仰されてないの? あの神様。
圧倒的に日本の神様に祈った方が良い結果が出るのだそうだ。
あーもしかして単純に人口? 日本の人口一億二千万人くらいだっけ? 単純に知名度だけを考えると、異世界の神様より人口と教育で日本の神様の方が知名度が高い可能性。
それとも桃瀬さんの信仰度合いが影響しているのか。どっちもだったり?
とりあえず今のところ天照大神に祈るのがいい感じらしい。そりゃあ知名度はばっちりだし、最高神だからつよつよでしょう。
ということで、桃瀬さんが気合を入れて神棚拝詞を唱えて張った結界。見るからに神聖な気配の清らかキラキラ結界は、黄野くんが出入り自由で、赤木くんにあっさり切られた。
あれ? 天照大神様?
攻撃技としては「雷を少々……」というので緑川くんの結界に落としてもらったところ結界の勝利。
あれれ? 桃瀬さん最強説が覆された。
検証の結果。能力的には、赤木くん>緑川くん>黄野くん>桃瀬さん>青井くんっぽい。
この順番になにか覚えは?
「あの神様に能力を願った順番ですね」
「ということはこの眼鏡」
なるほど。ああ、そうだね。その不壊の眼鏡、多分他の四人の能力で壊される可能性が高いと思う。
そして、私に残されていたリソースが少しだった理由も透けて見えた。
リソースが少しだけ残っているっていう状態。考えてみるとちょっとおかしい。私なら残った分最後の人に注いじゃう。予算は全部使わないと来期つかなかったりするからね。
あの神様、リソースを五等分して、二人目からちょっとずつ削ったのだろう。全く同じリソースを割いた矛盾する能力がぶつかった時の対消滅大爆発対策かなんかで。結果、少しだけリソースを残すことになったのではないか。
つまり、赤木くんの能力がやっぱり最強か。
「赤木くんの能力。なんでも切れて、念じれば出てきて、念じれば消えるってことは投げた後に消して出し直せば投げ放題だよね」
また「えっ!?」って顔をみんなにされた。おかしなことを言ってるつもりはないのだけど。