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107 小話 得体のしれないすっぱい甘酒っぽいもの

 勇者たちに故郷の味の食べ物を食べさせる。

 今は私がいるからなんとかなるけれど。もしも私が何らかの要因でいなくなる可能性。それを考えるとなんとかこっちにあるもので日本食を作れるように、なんとかならないものだろうか。 


 現代の和食、日本食を作るのに必要なもの。

 それは出汁にさしすせその砂糖と塩とお酢と醤油と味噌、そしてお酒とみりんだと思う。


 このうち、わりかし安価に出せるのは塩とお砂糖。塩はもちろんお砂糖も黒糖寄りで良ければこっちでも買えるので問題ない。

 出汁も海産物かきのこが手に入ればなんとかなる気がする。


 お酢は、アルコールが酸っぱくなればいいわけなので、風味を考慮しなければこっちもある。その中でできるだけくせのないやつを選べば良いだろう。


 ただ、醤油と味噌とみりんとお酒については、こちらで入手するのはかなり難易度が高いと思う。

 麹菌が必要で、工程がけっこう複雑だよね。


 この世界のどこかに日本と同じような国があってそこに麹があれば入手可能かもしれないけれど、今のところ見かけたことがない。ニポポさんに聞いてみたら首をかしげていた。探してみるとは言ってくれたので期待している。けど、難しそうな予感。


 自作できればじゃぶじゃぶ使えるし、その方法を誰かに伝えられれば良いのだけれど、多分難しい。それでも。

 麹、確か塩麹ブームの時に買ったことがあるはず。と思って履歴を見る。


 米麹 300g 338円。


 よし、あった。

 これがあればなんとかなるのではないか。テレビで見たお酒作りの麹を仕込んでいた場面を思い返す。ごはんに麹をぱらぱらかけていたよね。

 あとは、うーん。

 まあ、とりあえず。

「ミミお願い。ちょっと早いけどご飯を炊いて欲しいー」

「わかった」


 あの会の準備もろもろで、うちの子たちはご飯を炊けるようになってしまった。

 あれ? 炊くんじゃなくて蒸すんだったっけ?

 似たようなもんだよね。でも一応。

「お水ちょっと捨てて、固めでお願い」

「チャーハンにするの?」

 固めだとそう思うよね。


「それも良いね。でもちょっと違うことにも使いたいから」

「今度は何を食べさせてくれるのじゃ?」

 麹は食べ物、だろうか?

「んー、直接食べるものじゃない、んだよね」



 ご飯を炊いてもらっている間に手順を思い出して、必要なものを準備しよう。

 確かごはんに麹をまぜこんで、包んで保温していた、気がする。


 ということは、包むものと、保温するものがいる。


 ビニール袋じゃだめかな。少量ならいいよね。

 保温、保温。冬に苗作りをするのに種を発芽させる時は種まきプラグを発泡スチロールに入れて、カイロを布に包んで入れたりしたけど。


 ペットボトル湯たんぽを入れたりとか。

 あとは、こたつに入れたり、お風呂場の残り湯に浮かべたり?


 他には、発酵するまで服のポケットに入れて体温で保温ってのをやっていた。

 少しお試しするなら、腹巻きに入れて体温が手軽かなぁ。体温なら一定だし。


 考えている間に、ミミが手早くご飯を炊いてくれている。後はもうちょっと蒸らすだけだね。

 ありがとう。


 手を洗って、使う道具も洗って拭いて一応アルコールを掛けて。


 お試しなので米麹を50円分を買ってみる。白くてぱらぱらの米麹。

 乾燥米麹だね。


 ミミが炊いてくれたご飯はそろそろいい感じな気がする。


 炊きたてご飯を1合分くらい少し冷ましたものに混ぜ込んで。

 きれいな布で包んで。

 ビニール袋に入れて、腹巻きの中に入れてみる。なんだかお腹がぽっこりだ。


「何かが産まれそうじゃな」

「いい子に育つといいんだけど」

 お腹を撫でる。まだ体温より温かいので暑いよこれ。

 この季節に腹巻きも暑い。

 室温では無理だろうか……。

 室温だと流石に低いかなぁ。直射日光にあてるのはよくなさそうな気がするし。

 暑いのは我慢しよう。





 そうやって一日ほど慈しんで育ててみた米麹。はてさて、どうなっているだろう。


 期待に胸を膨らませて開けてみた。

 そしたら。


 プーンと香るのはやや酸っぱい匂い。アルコール臭も少しある気がする。そしてなんだか全体的に黄色っぽくてべちゃっとしている。腐敗臭はないんだけど。


 これは、なんというか。

 以前酒造りをテレビで見た時の映像を思い出す。白くてふわふわしたものが米粒を覆うのではなかったのだろうか。

 あれとこれ、どう考えても違うものな気がする。

 これじゃあなんていうか、失敗した甘酒もどきだよ。


「これ、食べられるの?」

 くんっと匂いを嗅いだミミが鼻にシワを寄せて聞いてきた。

「これは、ちょっと、自信がない」

 一応、味見、してみるべきだろうか。それと、このまま突き進むかどうかを決めないといけない。


 キララが、匙をつっこんでその匙を舐めた。

 悩んでいたので反応が遅れた。

「キララ、ぺっしなさい!」

 言ってももう遅い。

 うげげという顔をしたキララ。

「酸っぱい……のじゃ……」


 やはり、乳酸菌か雑菌が繁殖したっぽい。キララ、大丈夫かな。腐敗臭はしてなかったから乳酸菌だと思うけど。


 発酵食品、やっぱり難しいなぁ。


 米を蒸した方が良いのか?

 温度が悪いのか?

 保温時間か?

 それとも布に雑菌がついていた?


 そもそも、乾燥してパラパラになった状態の米麹に麹菌は生き残っているのか、という問題もある。製造過程にもよるけど、殺菌されている可能性もあるよね。味噌とか作るのに必要なのは基本麹菌が作ったアミラーゼ酵素なんだから、死菌でも問題ないだろうし。

 麹菌ってか弱いと聞いたことがある。とある吸血鬼くらい繊細だとかなんとか。全滅はしてないにしても、心地よい環境をうまく整えてあげないと増えにくいんだろうなぁ。


 もし、米麹作りに成功したとしても。

 その後の作成方法、ざっくりと味噌くらいしかわからないしな。

 醤油は味噌を絞ればなんとかなるのだろうか。


 日本酒は米麹で米を糖化してから別に酵母がいるよね。酒粕をつっこめばどうにかなるのかなぁ。

 みりんは前も考えてみたけど、何も思いつかないので、さっぱり製法をしらないのだと思う。酒税法が絡むんだから日本酒の仲間なのかな。


 これは無理だなと早々にあきらめる。

 適当にやって、もし麹菌以外の菌を増殖させてしまうと、毒が怖い。


 勇者たちに一応聞いてみるけど、作り方を正確に知ってる子、いるかなぁ?


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― 新着の感想 ―
異世界の菌大丈夫?いや、異世界食材食べてて今更ですな(笑) 菌に回復魔法でトライ&エラー出来るなら、何かしらできそうな?
日本酒や酒粕の麹菌を使おうと思ったら、 生日本酒、生酒粕など熱処理をしていない商品になります。 どちらもかなりお酒好きのご家庭でないとあまり買う機会が無い商品だとは思います。
千円リピート毎日使うと寿命より早く使い切っちゃうからこの世界で日本食の調味料とか生産出来るようにしたいですよね。 次回以降の召喚勇者が感謝する日が来るかも…。
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