105 勇者の能力
「えっと、チャーハンもあるんだけど、厳しいかな? 無理だったら持って帰ってくれたらいいし。細切りのフライドポテトも、ちょっとやめといた方がいいかな」
まだネギと卵と焼き豚のシンプルチャーハンと、カレーチャーハンとサフランライスを利用したパエリア風チャーハンがあるんだけど。あのお米、チャーハンにするのもすごく美味しくて。でもカレーでごはんが足りなかったらあれだから、様子を見てごはんの残量を見つつ後半で出そうと思って。
追加のフライドポテトは細切りだから端っこがカリカリ系だよ。皮付きのも美味いけど細切りも美味いよね。
カレーチャーハンがあると聞いて歓声をあげる桃瀬さん。
カリカリ系ポテトに目を輝かせる黄野くん。
二人が食べたいと言ってくれたので一応持ってきた。
赤木くんがすごく真剣な顔をしている。戦いを前にした武士のような厳しい顔。いや君、一番ガタイが良いからいくらでもいけそうな感じなのに。そんな悲壮な顔でチャーハンに挑まなくても。
青井くんの顔にもちょっと縦線が入っている気がする。メガネをクイってする回数が増えた。
緑川くんはなんだかブツブツ口の中で呟いている。「に、逃げちゃ駄目だ……」って聞こえてきた気がするけど聞き間違いかな。チャーハンは逃げないよ?
この三人背が高いので、そして赤木くんがとてもガッチリしていたので、足りるかなって心配したのだ。
私にも一応良識があるので、一度に机の上にみっちり並べるようなことはしなかったんだけど。
ほら、ケーキをワンホール食べてみたいと夢みたいに思うけど、実際ワンホールを食べようとしたら視覚効果でなかなか全然食べれなかったからね。若くて、ピースケーキなら次々いけていたころだったのに、あれは衝撃だった。
あくまで少しずつ順番に出して、減ったら追加スタイルで提供。各自のペースで食べたいものを食べたいだけ食べてくれたらいいんだよ。って思っていたのだけど、それでもちょっとやりすぎたようだ。
赤木くん、青井くん、緑川くんという、私が思っていた、よく食べそうランキングの順番で撃沈していった。
そ、そんな無理しなくても。ごめん。ごめんって。
その後もりもり食べていた黄野くんと桃瀬さんも、黄野くんが皿いっぱいのフライドポテトを食べて終了。「もう流し込めない!」とのこと。
「満足です。ごちそうさまでした」
桃瀬さんは締めのカレーを上品に食べきってから手を合わせて笑顔で言ってくれた。いい笑顔だ。
かくして勇者は打倒され、結果、私に子分が五人できました。
いや、子分扱いするのはどうかと思うのだけど。
おなかいっぱい食べさせたら懐いてくれてしまったのだ。
おなかが落ち着いて屍が復活してから、いろいろとぶっちゃけた話を聞かせてもらった。
えっと勇者たちの中で、一番背が高くてがっちりしているのが赤木 比呂くん。
なんとなくイメージ的に赤木くんがリーダー格なのかと思っていたのだけど。
「こいつは真っ先に『何でも切れる魔法の刀を出せるようにしてくれ』って欲望のままに言った馬鹿ですよ」
リーダーなんてとてもとても、と眼鏡をくいっとする青井くんに容赦のない解説をされた赤木くんはその大きな身体を縮こませた。
「すまん。考えなしだった」
赤木くんは高校では剣道部所属。少年漫画が好きで、刀を使う強い登場人物が好きで、そして蒟蒻も魔法もなんでも切れる刀が欲しいと常々思っていたそうな。なんていうか、わかりやすい欲望だよね。
あの神様が即「よかろう」とか言って能力を付加してくれたそうで、出し入れ自在というか、念じると腰になんでも切れる大小の刀が鞘付き帯付きで出現する謎仕様だそうだ。
何を着ていても容赦なく腰に黒帯が出現する。
ここに出てくれとサーベルホルダーをつけていても帯ごと出てくるらしい。
ある意味親切設計なのだろうか。
その刀は本当に何でもスパッと切れて攻撃力はバツグンだ!
最強主人公、目指せるのではないか。
赤木くんは止められなかったけれど、その場で「みんな、わかっていますよね?」と能力のすり合わせを相談する時間を取ったのが図書委員長の桃瀬さんで。
つまり、リーダーは桃瀬 聖さんのようだ。
神様に聞いてみると、
「全ての魔法が使える大魔法使い」
みたいな職業を願うのは神様に却下されたのだそうだ。
あくまでスキルというか能力、ある意味一点特化が条件らしい。
そして想いが力になる的なことを神様に言われたそうな。ほう、なんかそこら辺もニチアサっぽいね。
赤木くんが能力を攻撃力に全振りしてしまったので、あとのメンバーが能力をどうするのかを協議した結果。
防御力も必要だということで「と、閉じこもるのは得意だから」と緑川 元樹くんが結界能力を取得。
緑川くん、なんというか、見た目がすごく図書室常連なんだよね。背が高いんだけど痩せてて猫背で髪が目にかかるくらい長くてちょっとぼさぼさで、ぼそっと喋る。すごく親近感がある。声がね、低くて良い声なのでもっとしゃべってほしい。
召喚された国で何かあっても逃げ出せるように黄野くんが転移能力。
「俺、気配を消して逃げるのが上手いんです」
そうやって面倒事を避けてきたようだ。ドッジボールで最後まで生き残るタイプだそうで、ああ、わかる。と思った。
最初の方で当たっておけばいいのに、別に運動神経が良いわけじゃないのに最後まで生き残る人、いるよね。
そして、親が神職な桃瀬さんは信仰に裏打ちされた聖魔法を選択した、と。
「回復手段の確保は当然ですね」
あのご神木がある神社の娘さんだったのね。お寺もあるよね、あそこ。なるほど良いところのお嬢さんっぽいわけだ。
青井 真司くんは家が剣道の道場をやっていて、赤木くんとはご近所で父親同士が親友なので自然と親しくなったそうな。赤木くんは青井くん家の道場に通っていたわけだね。
待って、青井って名前で剣道。よく地元新聞に載っていたあの家では? 四人くらい子どもがいて、いつも大会で優勝とかそんな感じの記事。
「ああ、それは兄と弟たちですよ……」
と言われた。ごめん。なんか地雷を踏んだ気がする。
友達の赤木くんが攻撃特化になってしまったので、攻撃能力はあきらめて相手の弱点までを見通す鑑定能力を壊れない盗られない眼鏡としてそこにつけたのだと。
「もともと色々な情報を精査するのは得意なので。あと眼鏡がないのは死活問題」
そういえば、図書室たむろ系なのに眼鏡率低いね。
すっごいバランスがとれていて良いのではないか。