103 一人じゃ無理だ
「ポテチとポップコーンとおにぎりとお味噌汁、本当に本当にありがとうございます。何でも話すのでできたら一度会ってお話したいのだけどどうでしょうか?」という伝言を持って小屋に現れた黄野くん。
ミミとキララにびっくりしていた。ごめん、そこまでは話してなかった。
「えっと、ミミとキララは私の使い魔? 家族みたいなものだから何を話しても大丈夫」
紹介しながらそう言うとほっとした表情をした。
「はじめましてなのじゃ」
「いらっしゃいませ?」
「はじめまして。おじゃまします」
黄野くんは礼儀正しくてやっぱりいい子だと思う。
「みんなすごくすごく喜んでた。もちろん俺も。サキさん本当にありがとう」
「良かった。どういたしまして」
勇者たちに会って話してみたいのはこちらもだ。日時を決めよう。
勇者たちの都合もあり、私にも考えていることがあって、三日後のお昼前くらいに小屋に来る予定になった。
それから、すごくとても忙しかった。
高校生五人、うち四人は男子ってどれくらい食べるのだろう?
高校生男子、恐ろしいくらい食べるという噂は聞いたことがある。外食に行く前に食パン一斤食べさせてから行く、みたいな話も聞いたことある。
もしも余ったとしても相手は時間停止のストレージ持ちだ。全力でいくべきだろう。
キララに精米してもらったお米、半分以下になってしまったので4kgないだろう。
一合150gとして一升は1.5kg。二升で3kg、ぎりぎりかも。
もう一回買いに行った方がいいかもしれない。
えっと、カレーを作って、ご飯を炊いて、炒飯も作って。
肉もいるよね。唐揚げ? 鶏肉どっさり必要?
揚げ物をするならカレーに夏野菜の素揚げを添えたい。
チーズトッピングも良いよね。
あ、フライドポテト。ジャガイモでお腹を膨らましてもらおう。
ジャガイモなら肉じゃがもありか。
夏野菜のサラダにマヨネーズをかけて。
トウモロコシと枝豆も茹でておく?
ってこれ一人じゃ無理では……
ミミとキララに手伝ってもらうにしても、それでも。
なんで私のストレージには時間停止がないんだろう。私が削ったからだね。知っている。今さら後悔しても遅い。
少し考えたけれど、素直に人に頼ることにした。
料理ならやっぱりマーサさんだよね。ルーナの力もちょっと借りたい。
あと、小屋だと手狭だしハーカセさんにでも頼んでどこか借りた方がいいのだろうか。
カレーの仕込みや肉じゃがの仕込みはラリーさんのところもパン窯を借りて。あ、カレーパンと甘い豆パンも都合してほしい。
チーズやあとこっちでも少し珍しい材料、ニポポさんにお願いしてもいいものだろうか。マーサ牛のお肉手に入るならカレーに入れたい。
ジュドさんの家に行ってまず頼む。
「マーサさん力を貸してください。あとルーナにもちょっと助けてほしくって」
「あら、いいわよ」
「いいよ!」
マーサさんとルーナは即答してくれた。ジュドさんは私の顔を見て何かを察したのかため息をついた。
「本人がいいと言うならいいんだが、何をやろうとしているのかは聞かせてもらおうか……」
「えっと、お料理を、その、同郷のものに……」
「同郷?」
ジュドさんの緑の目が細まる。しどろもどろに説明をする。
あれ? そういえば私マーサさんにはちゃんと事情を説明していなかった気がしなくもない。なんかもうすっかり話した気でいた。というかもういろいろバレているような気はとてもするけれど……
改めてマーサさんに話す。
勇者たちのことと、お腹いっぱい食べさせてあげたいこと。場所をどうするかはまだ未定なことも話す。
「あら、そうなのね。それじゃあ美味しいものをたくさん作らないと。作り方はサキさんが教えてくれるのよね。手伝うわ」
マーサさんの反応がなんというかとても、さらりと受け入れられてしまった。
「私にとってサキさんは、ルーナちゃんを元気にしてくれた人だから。それ以外のことはどうでもいいのよ」
マーサさんが笑う。
「そうだな」
そう言って、ジュドさんも口元を緩めた。お、なんかわからないけど圧が減った。
「場所はうちを使うといい」
「えっと」
「使え」
「はい」
「わたしは何を手伝えるの?」
ルーナがキラキラしたお目々で言ってくれる。
あ、ルーナにはちょっと花を咲かせて増やして欲しいのだ。
カレー用のご飯、サフランライスにできたらすごく良いと思って。
もっとも高価な香辛料と言われるサフランは、実はお花の雌しべである。
サフランは球根植物で、クロッカスみたいな可愛い紫のお花だ。
香辛料としてのサフランを買ったことはないのだけれど、サフランの球根は買ったことがあった。
ホームセンターの球根売り場でもう花が咲きそうになっているサフランの球根が割引ビックリ価格の10個入り100円だったのだ。
サフランの球根、とても強いので植え付けずに室内に転がしておくだけで花が咲く。びっくり植物だ。売り場で網を突き抜けて蕾が膨らんでいた。あまりにも可哀想で「うちに来るかい?」と声を掛けて買って帰った。蕾を潰しそうだったのでそのまま手に持って。
半分はそのまま咲かせ、半分を土に植えたら球根とても増えた。花が咲く大きさの球根にするのは日本の気候だと少し難しい。翌年咲いたのは少しだったけれど、分球力はすごいから増やすのは簡単だ。
ルーナなら大量生産も可能だろう。
力強い協力者を得て、あちこちにいろいろ頼みに行って。食材を調達して。
そして。
一生懸命計算する。食材はこちらのものでなんとかするとしても、今日と明日の千円でできるだけ必要になると思われる調味料を買っておきたい。
カレールー
醤油
お酒
砂糖
みりん
片栗粉
小麦粉
中華だし
マヨネーズ
あたりが必要だろうか。
最安値で買えるけれど、結構とてもギリギリだ。