102 キララ様、素敵!
衝動的に来ちゃったので、そろそろ戻らないといけないらしい黄野くんにうちの小屋の場所を伝えて見送った。
なんというかさすがのチート転移だった。いきなり消えるんじゃなくて、なんというのだろう。テレビのクイズ番組のアハ体験みたいな感じで消えた。
画像の中で少しずつ細部が変わっていくあれみたいな感じだ。これならいきなり消えたり現れたりしても騒がれたりはしないだろう。
ニポポさんも一旦戻るのかとか思っていたら、帰路が短縮されたのは大歓迎なのだそうだ。
なんというか、一日千円だと高校生5人をお腹いっぱい食べさせることもできないのだなと少し落ち込んでしまう。
「米、探すかなぁ」
そう、つぶやく。
以前、ジュドさんから飼料用として米が存在していると聞いた。ただ、飼料に混ざっていると言っていたのでどう探したら良いのかいまいちわからないのだ。
「ん、米なら扱っとるよ」
「え!?」
「鶏でも飼うん?」
新鮮な卵は欲しいからそのうち飼いたい気はするけど、いや、そうじゃなく。
「米、あるん?」
あ、つられた。
「あるよー。ちょっと待っといて」
笑ってそう言うと奥に消えたニポポさんを呆然と見送る。
え、そんな簡単に手に入るものだったの。米。
「これは確かに米。そして鳥の餌」
「そう言うたやん」
ニポポさんが持ってきてくれたもの。そう、それは確かに米だった。ただし籾米だ。指で一つ殻を外してみる。現れた玄米はなんかちょっとでかくて長い。日本のお米とインディカ米の間くらいの形状で大きさが日本のお米の2倍くらいある。
一度炊いて食べてみたいけれど、籾ってどうやって外すんだろう。籾摺りという言葉を聞いたことはあるがやったことがない。
そして、籾がらを外せたとしても、玄米だよね。玄米を炊いたことはあるけれど、圧力鍋だったしなぁ。できれば白米にしたい。
玄米の精米、ってコイン精米機以外でどうやるんだろう。
一升瓶に入れて棒で突くっていうのを見た記憶はあるけれど、ものすごく少量ならともかく、その方法でいっぱい精米するってかなり大変なのではなかろうか。
でもやるしかない。細かいちまちました作業は嫌いではない。なせばなる。
ただ、男子高校生って何合くらい食べるのだろうね……
ちょっと遠い目になりながら、とりあえず一袋買おうとしたら重かった……
30kg以上あるんじゃなかろうか。無理。え、さっきこれニポポさん軽々持ってきたよね。細身なのに力強っ。
配達しよかと言われて少し迷ったけれど、10kgくらいの小分けにしてもらった。これくらいならなんとかいける。
持って帰った米を、さてどうしよう。籾摺りって言葉からするとすり合わせればいいような気もするけれど手でもんでみてもあまり殻が剥がれる気配がない。
もうちょっと力がいりそうだ。
精米の方法だとは思ったけれど、瓶の中に入れて棒で突く。
この方法で、あ、もみ殻外れた。いけそう?
少しずつもみ殻を外して、やっと少しの玄米になった。
これは、かなり果てしない作業になりそうだ……
小麦なら叩いたり手ですり合わせたりしたらすぐに実が出てくるのにどうして米はこんなにがっちりガードされているのか。もっと人に優しくなってほしい。
「帰ってきておったのか」
「今日もカボチャ採れたよ」
畑からキララとミミがカボチャを抱えて帰ってきた。立派な白いカボチャだ。白いカボチャはけっこう日持ちするから良い野菜だよね。美味しいし。コルク状になったヘタが取り頃のサインだ。しばらく寝かしてから食べるとすごく甘い。
マジックで収穫した日付を書いておこう。二週間くらいは寝かせたいよね。
「何をしておったんじゃ?」
手元を覗かれる。
「この籾の殻を外したくて」
まだまだたくさんある籾をうつろな目で示す。
「ほう、こうか?」
キララが手を一振すると、あっという間に籾がもみ殻と玄米に分かれた。
えっ、すごい。なにこれ。
「キララすごい! 素敵! なんて有能なの!」
「なんじゃ。それほどでも、あるな!」
胸を張るキララがこんなに眩しく見えたことはない。キラキラ後光がさして見える。
「キララ様。もしかして、この玄米のうっすらした茶色いところも取れたりします?」
上目遣いで聞いてみる。
「もちろんじゃ!」
ひらりと白く優雅に手が舞い踊る。
その軌跡に見とれているうちに、玄米は艷やかな白米に変貌をとげた。
糠もゲットだ。
すごい、すごすぎる。
「キララ、ありがとう。大好き」
嬉しくて抱きついてしまう。柔らかくていい匂いがする身体をぎゅっと抱きしめて笑う。
「なかまはずれ反対!」
とミミも抱きついて来たので三人で抱き合って笑った。ミミも大好きだよ。
さてと、早速炊いてみよう。
米を研いで、鍋に入れる。水加減は手首くらいで良かったかなぁ。
勘で炊くのは久しぶりだ。
まあ、初めて炊くお米だから、水加減はまた調整だろう。
吸水は一時間くらいした方がいいのかな。30分じゃだめかな……
はじめチョロチョロ中パッパ赤子泣いても蓋取るなという言葉があるけれど、最初のチョロチョロは別にいらないと思う。
私は普通の鍋で炊く時はいつも沸騰するまで中火から強火で炊いて、その後は弱火で12分。あとは10分蒸らしていた。蓋を取らないってところは重要なコツだよね。
かまどだと火力調整が難しい。いい感じに火がついて火力が上がってから鍋をかけた。沸騰したら熾をかき出して弱火にする。
蒸し上がって蓋を開けた時に、泣きたいくらい懐かしいあの炊きたてのお米の匂いが広がった。
艷やかに立ったご飯粒。蟹穴が空いた鍋を十文字に切ってさくっとほぐす。
器にもったごはんを前にいただきますと手を合わす。
私がいつもやるので、キララとミミを同じようにしてくれるようになった。
さて、お味はどうだろう。
食べるとちゃんとご飯だ。甘みも感じる。ただ、少しぱさつきを感じるのと、食感が少しサクッとしている。日本の米ほどの粘りはないように思う。
美味しいけれど、やっぱりちょっと違うな。でもご飯だ。このぱさつきは水分量とかじゃない気がする。
やはりちょっとインディカ米に近いのかもしれない。
でも、そうなると。
うん、このお米ならきっとあれに合う気がする。