101 カラフルな勇者
黄野くんはやっとなんとか落ち着いたようだ。
私は何も見ていない。男の子が泣く姿なんて見られたくないよね。
だから何もなかった。うん。
そろそろ、話を聞かせてもらいたい。
まずはと思い自己紹介をしてこちらの事情をざっと話すと同情の目で見られた。そうなのだ。こちらは巻き込まれなのである。そして能力が制限つきだ。
「過剰な期待をさせたら申し訳ないから最初に言うけど、だからいっぱいは出せない。ごめんね」
「いえ、そんな……」
もう一度食べられただけでも、とかもごもご言っている。余裕がある時なら出してあげられるからまた食べられるよ。
さて次はそっちの話をとお願いしてみた。しかし、さすが今どきの子だった。自分のことは話せる。けど、個人情報なので他の子のことは詳しくは話せないと言われた。しっかりしている。やっぱり良い子だ。
ただ、完落ちなので黄野くん自身のことは教えてくれた。
コンビニで買物をしていたらいきなり飛ばされて神様とご対面だったらしい。そうだったね。私もコンビニに飲み物を買いに行ったんだった。あの時に同じ店内にいたのだろう。思えばあの時なにもないところでこけそうになって前につんのめった。あの動きが良くなかったのだろうか……
神様いわくあのコンビニにあの後タンクローリーがつっこんで爆発炎上したらしく、高校生五人はその事故で亡くなる運命だと言われたそうだ。本来積んではいけない危険物を積んでいたこと。タンクローリーが老朽化していて衝撃に弱かったこと。運転手さんが人手不足で無理な勤務を重ねていたこと。などが重なって起こった事故で、全国ニュース速報になるほど悲惨な事故だったそうだ。
え、そんなこと、私は聞いてないんだけど。ほんとに? 確かにあの辺りは変に事故が多い場所だけど。そんなに見通しが悪いわけじゃないのになぜか事故が多いゆるいカーブってあるよね。
「映像、見せてもらったんで」
「そうなんだ」
それで詳しいのか。黄野くんの顔色がちょっと悪い。そんな衝撃映像だったのだろう。
私は聞いてない、見せてもらってないってことは、私は死ぬ予定じゃなかったのかな。それともあの神様が面倒くさがって説明を省いたのか。今となってはわからない。
「希望の能力を一つ授けると言われて、俺は神様から転移をもらったんです」
おう? 『俺の考える最強のスキル』で転移を選んだの?
でもなるほど、転移か。それでこんなすぐに、来ちゃった、となったのか。
「多分チートなんだろうけど、それ座標とか移動人数とかは?」
興味本位で聞いてみる。
「自分が行った記憶があるところと、手を繋げば人の記憶でも転移可能で、えっと人数は距離によるけどけっこういける」
かなりな遠距離でも今のところ五人は大丈夫らしい。
なるほどチートだ。他人の記憶でもいけるというあたりテレパスめいた力も内包しているのではなかろうか。
「それでニポポさんと一緒に来たのかー」
ニポポさんの記憶を使ってこの街に転移してきたのだろう。
聞いていくと、転移があればどんな危険があっても逃げられると思っての能力の選択だったらしい。堅実でとても好感が持てる。
「一応聞くけど、その転移で日本に戻れたりは」
黄野くんが力なく首をふる。そりゃ試すよね。ここにいるってことが答えだ。
他の子が授かった能力も気になるけど多分そこは教えてもらえないだろう。
「えっと、人数は五人だよね。名前とか性別も駄目かな?」
どこまでが黄野くんの倫理感に引っかかるのかいまいちわからないけど聞けそうなことを聞いてみよう。
「ええと。とりあえず名字なら。赤木、青井、緑川、が男子、女子が桃瀬」
黄野くんと赤木くん青井くん緑川くん、そして桃瀬ちゃんか。
あ、今ってくんちゃん付けで呼び分けるのってあれかな。みんなさんづけした方がいいのだろうか。
教えてもらった名前、五色そろっていらっしゃる。色的には完全にレンジャーものなのではないか。ここはもしかして日曜朝に放送される世界なのだろうか。
それともたまたまなのか。
昔職場に東西南北が付く人そろって面白かったことがあるので偶然なのかもしれない。同じ苗字がそろうこともある。名前の一文字目まで同じで判子の横に名前の一文字目を書いてもらっても意味がなかったこともある。
「どんな扱いをされているかとかは……」
聞いて良いのだろうか。服装を見る感じ、きちんと仕立てられた体型に合った濃い茶色のズボンとシャツで良いものを着ている。肌の色艶も悪くはない。あ、おでこにニキビがある。けれどとても若くてうらやましいつるんとした肌だ。
「ちゃんとしてもらってる、んだと思う。ただなんか内部で色々あるみたいで」
王城に召喚されて、歓待を受けつつ、騎士に守られながらダンジョンで能力の育成中なのだそうだ。王族関係者は良くしてくれるのだけど、一部有力貴族と王族がなんかピリピリしているらしい。
イケメンの王子様と可愛い王女様がいるそうで、ほうほうと話を聞かせてもらった感じおおむね大事にはされているっぽい。特に女子一人はつらいと思うのですごく大切に懇切丁寧にしてあげてほしい。
「五人はもともと知り合い? 友達?」
「えっと、赤木を除いて図書委員と図書室の常連で…… 赤木は青井の友達でたまに迎えに来てたから顔は知ってて」
あー。察した。図書室にたむろする人種とてもよくわかる。私もそうだったので。
というか。
「梅南高?」
「はい」
だよね。狭い町だし、後輩だよね。あの図書室今もあんな感じなのかなぁ。懐かしい。あのコンビニは梅南高から近い。私が高校生の時にはコンビニなんてなかったけどね……
「黄野くんから見て、他の四人は信頼できる?」
少しだけ考える素振りを見せてからこくりと頷かれた。わかった、じゃあ。
「だったら私も信じる。私の事を伝えて良いから、もうちょっと具体的な情報を聞いても良いか確認してほしい。ただ、できたら王城の人にはまだ内緒にしてほしい」
「わかった。聞いてみる」
うん、よろしく。
「あ、ストレージ。時間停止付き?」
「うん」
みんなそうなのになんで聞くの? って顔をしている。私のストレージはちょっと違うからさ。
でも、だったら。
今日の残り金額が心もとないが、日本人である以上ご飯を食べさせてあげたい。しかし五人分となると……
おにぎりの最安値は業務用のスーパーで買った鮭のおにぎり65円だろうか。そしてインスタントお味噌汁。昔ながらのだし入り味噌にわかめがちょろっと入ったやつなら安く買ったことがあるはずだ。おにぎり5個とインスタント味噌汁5個を出す。
おにぎりを見た黄野くんがまた目をうるませた。
「ごめんね。私の能力だとちょこっとしか出せない。ストレージに入れて持ってって」
「あ、ありがとう、ございます」
渡したそのおにぎりとインスタント味噌汁を宝物のように受け取った黄野くんがストレージにしまいこんだ。