1 巻き込まれて異世界でスキルをなんとかもらいました
一日千円分、今まで自分が買ったことがあるものを出すことができる
それが私がもらった能力。
かなり限定的な能力だ。
目標はなんとか無事に無難にこの異世界で暮らしていくこと、なんだけど、こんなろくなスキルもない状態でどうやったら生活を安定させられるのか……
できれば権力者には関わらず、ひっそり暮らしていきたい!
それが願いだ。
現在地はまあまあ大きい都市に続くらしい街道だ。
ものすごく簡単に今にいたる状況を説明すると、
よくある勇者の異世界召喚に巻き込まれた一般人が私、今井 咲である。
どうやら異世界が危機に瀕しているらしく勇者召喚が行われ、高校生が5人召喚されたその魔法陣の上に、どうも私も居てしまったらしい。
何を言っているのか意味がわからないと思うけれど、とりあえずネット小説を読むのが趣味な私は、
ああ、今流行りのあれですね。
と妙に冷静に受け止めることができた。
魔法陣の端っこにかろうじて引っかかっていた状態で、そのまま異世界のどっかに落っこちそうになっていたところを異世界の神が拾ってくれたようで。
はいはい、ありがち。
この場合、今流行りのやつ、いや、ちょっと前の流行りだと、私の方が能力が良かったり真の勇者や聖女だったりしてトントン拍子にいい感じになるみたいだけど、そういうわけにもいかないみたい。
なんだかよくわからない白い空間で、
キラキラ光る端正な顔をした神様が無駄に良い声で事情を説明し、
「こちらの事情にまきこんでしまって申し訳ない」
と謝ってくれた。
「一応聞きますけれど、元の世界に戻していただけたりとかは」
「それは、できない」
だよね。戻せるならもう戻してるよね。
まあ、戻れたとしても氷河期世代で田舎の家族経営の会社で薄給勤務、両親共に死亡済、かろうじて友達はいるが彼氏なしという状況で、一応生きてはいけていたけれど将来に希望はない生活である。
元の世界に生活に戻れないと聞いてもそこまでの絶望はない。
ただ、ぬくぬくと平和に生きてきた現代日本人が異世界でまともに生きていけるのかというのは、いつもネット小説を読んでいて疑問を抱いていた点だったりする。
「帰れないとなると、こちらの世界で生きていくということになるわけですが、なにかこう援助とかはいただけたりするのでしょうか?」
小首をかしげながら問うと神が答えてくれた。
「召喚された者には、基本的に封印、自動翻訳、適化、ストレージが付与される。その上で希望に沿った能力を一つ授けることになっている。ただ……」
はい。イレギュラーだったため、私に割けるリソースがとっても少ないという事情がぶっちゃけられた。
ほとんどが既に勇者の方でもう使用済みだそうだ。
神が世界に与えていい力の総量は厳密に決められているそうで、それを超えることはできないとのこと。世知辛い。
基本的に付与される能力についてまず聞いてみると、
封印は、世界の瘴気と瘴気から発生した魔王を封印できる能力、なのかな。他にもできることはあるようだけれど。
これが召喚の目的で、なぜかこのスキルは異世界人にしか付与できない、と。
そして能力値は人によるみたいで、封印能力の高い人間を選んで召喚してるっぽい。
私にも付与されているけれど、神様に聞いたところ能力値は低く、成長しても魔王封印は無理だろうと言われた。
自動翻訳は言語が違っても意思疎通ができるってやつ。
喋ることに関しては意識しなくても勝手に切り替わる。
逆に言うと意識しないと勝手に相手の言語に合わせてしゃべってしまう。
読み書きに関してはものすごく集中すればできるってレベルで、ぱっと見た看板を読み取るのは無理で、じっと見ているとわかる、みたいな感じらしい。
辞書を引きつつ読む英語みたいなものかなぁ。
適化は、聞くとどうもこっちの伝染病対策スキルっぽい感じ。
異世界人そのまま送るとすぐに死んじゃう事態が多々発生したのでつけることにしたそうだ。
この世界に適応させて、病気、特に風土病や伝染病にかかりにくくする。異世界のものを食べてもお腹を壊しにくくする的な。身体がこっちで暮らしていくのにいい感じの状態になるのかな。
地味に最重要なスキルだと思う。
ストレージは四畳半くらいの大きさで時間停止付き生きてるものは入れられない。
念じれば出し入れできて、リスト機能もあるそうで、便利そう。
これら基本能力を付与するだけでもうけっこうなリソースを使っているとのこと。
かと言って説明された能力、削るか? って言われても、必要だよね。
あ、これはなくても良いのでは? と思った封印は召喚必要条件になっていて削れないっぽい。残念。
ということで残りのリソースでもらえる能力をどうするか、なのだけど。
「最低限の衣食住をなんとかしたいです」
希望としてはこうなる。
最低限生きていける能力が欲しい。
一番懸念されるのが食生活。現代日本社会の食レベルは高すぎると思う。
「お取り寄せ能力ってなんとかなりませんか?」
色々読んできた中で異世界で持ってたら良いよなと思ったのがネット通販的なやつ。あれがあればかなり便利だと思う。てか日本の食べ物食べられなくなるのつらすぎる。
「お取り寄せ? ああ、なるほど」
軽く頷いた神が答えてくれる。
「できなくはないがリソースの関係でかなり限定をしないと難しい」
できなくはないの!?
てか今、思考を読みました?
できるのなら、お取り寄せ能力一択で。
「想像しているネット通販形式そのままは無理がある。そなたを通じての取り寄せなのでそなたが知らないものは取り寄せできない。これが欲しいという指定が必要だろう。値段もそなたが買ったことがある値段となる」
買ったことがあるものを念じたら買ったことがある値段で取り寄せってこと?
まあ、知らないものは取り寄せできないってのはわかる気がする。
「また、こちらの通貨での購入も難しい」
んん? 日本円でしか買えないということ?
それって??
中空を見るような仕草をしていた神様がすっと目をこちらに戻した。
「あちらの世界での貯金と、土地建物家財等を換算した800万円ほどが上限か」
「800万円……」
おおう。両親から相続した田舎の土地建物思ってたより高め?
田舎だからそんな値段で売れるはずないんだけど。山とかただ同然のはずなんだけど。
ってかこれは固定資産税評価額かな。
でもそれだけあればいろいろ買えて、こっちで儲けたりできるのでは?
「さらに、一日に使用できるのは1000円程度。ここまで制限をかければ可能だろう」
一日千円?
この条件はかなり厳しくない?
いやでも食費だと思えばいける??
一日千円だと一ヶ月三万円くらい
うん、いけなくもないけれど、お米とか買ったら千円超えない?
「えっと、1000円を超えるものが買いたい場合はどうしたら?」
「g単位で買えばよかろう」
量り売り対応なんだ!?
でも、
「分けられないものってありますよね」
衣食住の衣に着目して聞いてみる。1000円以内の服、ないこともないけど難しいよね。袖だけとかパーツごとに買って縫えって言われてもハードルが高すぎる。
「この1000円、積み立てておいてお買い物ってできませんか?」
一度に買えないなら貯まってから買えば良い! って考えたのだけど。
積み立ててから買うのはできないけれど、えーと、2980円のスカートが欲しいと念じて3日後に取り寄せはできるだろうとのこと。
これ、うっかり100万円の指輪が欲しいと念じちゃったら年単位でスキルが使えなくなるやつでは? そんな高い指輪買ったことないですけど!
あ、物が来る前ならキャンセル可能なのね、でも充当しちゃったお金は戻らないと。
わかりました。じゃあもうスキルはそれで!
あと相談なんですけど、
「基本付与されるストレージの能力っていじれますか?」
住をなんとかしたい。
「どのように?」
お、いけます?
「四畳半あったら、最悪そこで寝れないかと思いまして。時間停止ってリソースかなり食いそうだと思うんですけど、それを外して生物は私のみ入れるようにできませんか?」
色々交渉した結果、
大きさ2畳、出し入れが手動な物置タイプで念じると扉が出現するおもしろストレージということになった。
出し入れが手動っていうのはそのまんまの意味で、本来は出し入れは念じたらできるし、リスト機能とかもあるらしいんだけどそこのリソースは全部削った!
扉や中身を視認できるのも入れるのも私だけで、私が中に入っている間、私は他の人には認識できないみたい。いきなりすっと消えていきなり現れる感じになる、のかな。
時間停止と大きさを犠牲にしたけど後悔はない。
これで最低限の衣食住はなんとかなる、よね?