1話:侵入
夜の帳が降りたオムニア・プライム。かつての繁栄を忘れたかのような廃墟と化した高層ビル群が、月明かりに照らされてその影を長く引いていた。
地上では、無人のドローンが巡回を続け、時折、その赤い目が不気味に輝いていた。
地下深くに潜む反乱組織の秘密基地。
そこで私は、仲間たちと最後の打ち合わせを行っていた。
我々の目的は「楕円の祠」。世界で最も重要かつ、最も危険な場所だ。
そこには、この世界を支配する秘密が眠っている。
「みんな、準備はいいか?」
私の声が、静寂を破った。
仲間たちが頷くのを確認し、私は深く息を吐いた。
指先が、冷たいコンソールの上を軽やかに踊る。
画面には複雑な暗号が次々と映し出され、私の瞳に青白い光が映り込んでいた。
「サイドチャネル攻撃、開始」
私の声と共に、画面上の数字が激しく乱れ始めた。
それは、楕円曲線暗号という、この世界で最強と謳われるセキュリティシステムへの挑戦だった。
時間が過ぎていく。
額には汗が滲み、指先の動きが少しずつ遅くなっていく。
そして、ついに──
「やった!」
私の声が響き渡る。
「防御システムの一部が落ちた。これで中に──」
その時だった。
「お前……」
低く、しかし威圧的な声が、私の背後から聞こえてきた。
振り返ると、そこには「村長」と呼ばれる、祠を守る謎の存在が立っていた。
「あの祠にサイドチャネル攻撃を仕掛けて、楕円曲線暗号の秘密鍵を漏洩させたんか!?」
村長の声には怒りと共に、悲しみのようなものも混じっていた。
私は咄嗟に身構えたが、すでに遅かった。
村長の背後には無数のセキュリティドローンが浮かび上がり、その銃口が一斉に我々に向けられていた。
警報が鳴り響く。
赤い光が基地内を照らし出す。
私は仲間たちに叫んだ。「逃げろ!」
しかし、その声が届く前に、ドローンの一斉射撃が始まった。