噂のムサシ
「ははははは! 凄い! やはり噂は本当だったのだな!」
宮本武蔵は噂通り、バケモノだった。
白い煙のような息を吐き、ニ本の腕で二本の日本刀を振り回し、もう一本の腕で盾を構えながら、私に向かってくる。
白い目は眼光鋭く、たまにそこからビームのようなものを発射するが、私には通用しない。
「ふははは! 凄いな! しかし、これには到底かなうまい!」
嘲笑いながら、私は現代から持参したピストル、コルト ガバメントM1911を懐から取り出した。45口径の弾丸で水牛でも一発で倒す優れものだ。
ムサシを殺す気で発砲した。
しかしムサシは噂以上だった。三本目の腕に持った盾で銃弾を弾くと、刀に気のようなものを込め、斬撃を飛ばしてきた。
◆ ◇ ◆
2025年の日本は宮本武蔵ブームだった。
とはいってもそれはムサシを賛美するものではなく、むしろ真実の『大したことないムサシ』を暴こうみたいなムーヴメントだった。
『実際には大して強くなかった』『ムサシもただの人間』『現代の剣豪とムサシが戦ったら、スポーツ科学に基づいた現代の剣が勝つに決まっている』『ろくな食べ物を摂っていなかっただろうムサシにパワーがあるとは思えない』『伝説というものは年月に美化され、実際とはかけ離れた超人として描かれるものだ』『大谷翔平のほうが凄い』等、かなりムサシは伝説による美化を解かれていた。
それに対する反動のように『超人ムサシ』を主張する流れも起こった。
『ムサシは腕が三本あって、残りの一本で攻撃を防いでいた』『目からビームが出せた』『跳躍力が凄くて、一瞬で敵の背後に回り込み、素手ではらわたをえぐり出した』『空も飛べた』『一発の攻撃で大地を割れた』『じつは美少女だった』等。
私は噂の真相を確かめるべくタイムワープし、ムサシが最も強かったといわれる頃を訪れた。
◆ ◇ ◆
『超人ムサシ派』の噂のほうが本当だった。
長い桃色の髪を振り乱し、華奢なその美少女は、到底少女の膂力とは思えないパワーで私にいきなり襲いかかってきた。
しかし私も伝説として歴史に名を残すガンマン『ビリー・ザ・キッド』だ。負けているつもりはない。1秒間に36発の弾丸を発射できる早撃ちを見よ! タイムワープも瞬間移動もできる! かわいさでもムサシちゃんに負けてないんだからねっ!