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黄昏旅団所属『悪魔』ヴィーネ⑤

 今や人間と呼べなくなるほど肥大化し、無数の触手を生やし暴れ回るロサリン。

 会場内は滅茶苦茶だった。

 料理を乗せたテーブルは砕かれ、クロスは裂かれ、調度品は叩き壊され……だがそれ以上に、得体の知れない『敵』であるロサリンは、魔法を放つ生徒たちの心を削る。

 すでに、上級生や新入生たちの魔法がロサリンを何度も直撃しているが。


「くそ、何故効かない……!!」


 上級生の一人が肩で息をしながら言うと、アリアルが言う。


「決まっている。自己修復だ……見ろ、傷が一瞬で修復されていく」

「そ、そんな……じゃあ、どうすれば」


 シェリアが慄くが、アリアルの表情は変わらない。


「決まっている。再生力も無限ではないはず……奴の修復限界が来るまで、魔法を放つ。防御班!! 一瞬でも障壁を緩めるな!! 攻撃班、魔力が尽きるまで遠距離攻撃!!」


 アリアルが指示をする……が、内心では。


(ヴィーネのヤツ。まさかと思うが……)


 アリアルがクピドを見ると、クピドも小さく頷く。

 嫌な予感がした。


(まさか、私とクピドもまとめて始末する気じゃないだろうな)


 魔法による砲撃は続いていく。


 ◇◇◇◇◇◇


 一方そのころ。

 会場外にあるベンチに座ったヴィーネは、ワインを飲みながら言う。


「ルソルちゃん、リスターちゃん、エルナちゃん。観測の様子は?」


 すると、両手を合わせて『観測魔法』を発動させている三人が言う。


「体温チェック。不自然な物はありません」

「鼓動チェック。こちらも異常なし」

「人員チェック。不自然な介入もありません」

「はいはい。じゃ、ユアンくんはどうかな?」


 ヴィーネは人差し指で頭を突くと、ユアンの声。


(会場内、不審者なし。全員必死ですよ)

「了解。ふふん、さてさて、誰がハンゾウなのかなー?」


 会場内を『ロサリン』で蹂躙させ、ハンゾウの正体をいぶり出す。

 単純明快な作戦だが、ヴィーネはヴ気に入っていた。


「んふふ。悪いねアリアル、クピド……できればさ、きみたちには死んでほしいんだよ。黄昏旅団……前々から、人が多すぎると思ってたんだよねぇ」


 ヴィーネがパチンと指を鳴らした瞬間、会場内を包囲していたクピド、ロサリンの部下である旅団メンバーの絶叫があ響き渡る。

 潜んでいたホムンクルスの触手に食われ、飲み込まれた音だ。

 一気に八人の正規メンバーが消滅してしまった。だが、全てヴィーネの計画通り。


「悪魔、月、星、太陽……そして世界。この世界を照らすのは、私たち五人だけで十分なのさ」


 今はいない『審判』と『女教皇』も、必ず殺す。

 それがヴィーネの、黄昏旅団『悪魔』のヴィーネの計画だった。


 ◇◇◇◇◇◇


 シャドウは、魔法を放ちながらルクレに聞いた。


「どうだ、そろそろ行けるか?」

「はい。いつでも……」


 今、シャドウは忍術を使い、ルクレも偽装のために魔法を使っている。

 生徒や上級生に混ざり、ロサリンに向かって攻撃を仕掛けていた。

 シャドウは攻撃をやめ、周囲を確認する。


「───よし」


 全員の視線がロサリンに向いているのを確認し、遮蔽物に飛び込んだ。

 同時に、ルクレの魔法が発動。


「『氷人形(アイスドール)』」


 それは、人形。

 氷で作成した、シャドウそっくりの《人形》だ。

 魔力を循環させ、呼吸をしているように見せ、心臓の鼓動を再現し、光の屈折を操作して色を付け、あたかもそこに《シャドウ》が存在しているように見せる。

 ヒナタの《変化の術》を見て思いついた魔法。

 だが、あまりにも緻密な魔力操作が必要で、全神経を集中させなくてはならない。

 今、この瞬間も会場内は監視されていると過程。ルクレは全神経を集中し……『氷人形』の鳴らす鼓動を、シャドウの鼓動と完璧に合わせた。

 そして、ヒナタがルクレを支える……あたかも、魔力切れで倒れたように見せかけて。


(シャドウくん、今の私じゃ三十秒が限界……!!)


 ルクレが目で訴える。

 ヒナタは、隣に立つ『シャドウ』が、あまりにも精巧で本物としか思えないことに驚愕。

 

(まさか、これほどとは……) 

 

 驚きつつも、ルクレを支える。

 そしてライザー。彼は三人を見ていない。クラスの誰よりも目だち、注目を集めている。


(頼むぜ、シャドウ!!)


 心の中で、シャドウたちを信頼しながら。

 今、風魔七人は一つの想いを胸に、戦っていた。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 ロサリンの暴走は止まらない。

 さすがのシェリアも魔力が尽きそうになり、ふらふらになりながら杖を手にしていた。

 そんなシェリアを見て、姉セレーナが言う。


「シェリア、下がりなさい!!」

「まだ、まだ……!!」

「シェリア!!」


 セレーナが叫んだ瞬間、触手の一本がシェリアに向かって飛んできた。


「あ───……」


 足が疲労でもつれ、動けない。

 ライザーが気付き舌打ちするが、間に合わない。

 シェリアは瞬間的に目を閉じ……。


「───え」


 身体が一気に移動した。

 そして、ゆっくり目を開けると、そこにいたのは。


「は、ハンゾウ様!!」

「…………」


 ハンゾウ。

 風魔七忍の頭領、アサシンがそこにいた。

 ハンゾウは全神経を集中。自分に注がれる視線を注意深く観察……そして、気付く。


(視線だけじゃない。魔力による監視もある……頼むぞ)


 すると、ラウラが周囲を確認していた。

 魔力による監視なら、ラウラなら見破れる。


(俺はこいつを倒す……師匠、あんたの残した忍術、完成したぜ!!)

「貴様がハンゾウか……!!」

「へえ……」


 アリアル、クピド。二人の視線も集中したのに気づく。

 だが、今は無視。

 シャドウは印を結び、右手を地面に叩き付けた。


「───『口寄せの術』!!」


 シャドウが忍術を発動させると同時に、地面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 そして……魔法陣から現れたのは、巨大なドラゴン。

 風魔七忍の一人、炎竜ヴライヤが召喚された。


『呼んだか、ハンゾウ』

「ああ。説明いるか?」


 ヴライヤの目の前には、巨大で白い不気味な何かが触手をうねらせていた。


「なっ……」

「……嘘」


 アリアル、クピドが驚愕している。

 シャドウは、ヴライヤの頭の上で印を結び、右手をロサリンに向けた。

 ヴライヤが口を開けると、真っ赤な炎が球体となって収束していく。

 シャドウ、ヴライヤの魔力が融合し───一気に放たれた。


「火遁極、『火竜灼熱砲の術』!!」


 極太のレーザービームはロサリンに直撃。

 再生など許すはずもない。ロサリンは蒸発……影も形も残らなかった。

 ヴライヤはジロリとアリアル、クピドを見て言う。


『……ハンゾウ。この二人、常人とは比べ物にならん血の匂いがする。黄昏旅団とやらの一員ではないのか?』

「…………へえ、そうなのか?」

「「ッ!?」」


 竜に睨まれ、指摘され二人の表情が変わる。

 そしてヴライヤが言う。


『今の白い何かと同じ匂いが、外からする……フン、我が食い殺してやろう』

「ああ、逃がすなよ」


 ヴライヤが飛び去った。

 シャドウは、アリアルとクピドに向かって言う。


「お前らが黄昏旅団の一員か……」

「え?」「黄昏旅団?」「な、なにそれ」


 上級生、新入生たちがどよめく。

 シャドウは二人に指を突きつけて言った。


「必ず殺す。それが俺の望みだ」


 そう宣言し、シャドウは煙となって消えるのだった。

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