黄昏旅団所属『悪魔』ヴィーネ④
生徒会役員であるセレーナは、目の前にいる『ロサリン』という少女がまともではないとすぐにわかった。そもそも、触手を背中から生やす時点で人間を超えている。
セレーナは二学年。すでに実戦経験を積んでいるが、目の前にいる相手は『未知』だ。
魔力を杖に込めて待機をしていると。
「生徒会役員、不用意に近づくな。遠距離からの攻撃で攻めろ!!」
アリアルの指示。
言われた通り、セレーナを含む生徒会役員たちは、地水火風の魔法を発動させる。
魔法が発射されロサリンを包み込むが……ロサリンは無傷。
さらに触手を生やし、身体が不自然に膨張していく。
「な……何、これ」
もう完全に『人』ではない。
アリアルは舌打ち。
(ヴィーネめ。面倒なことを……)
ヴィーネがどこにいるかわからない。
なので、ここでは『貴族』として対応しなければならない。
「私も出る。そこのお前、新入生たちの避難を」
「は、はい」
セレーナは、未だに唖然としている妹シェリアの元へ。
「シェリア、逃げるわよ」
「お、お姉様……ろ、ロサリンが」
「あれはもう、人間ではありません。さあ、早く」
「……は、はい」
シェリアは、セレーナに手を引かれて逃げ出した。
だが、ここでおかしなことに気付いた。
社交会場の入口は何か所かある。だが……その出口全てが閉ざされていた。
出口の周りに、新入生と上級生が集まり、ドアを開けようとしている。
すると、上級生が舌打ちした。
「鍵を掛けられているなら壊してでも開けられる。でもこれは……壊れない。まさか」
「封印、ですね」
答えたのはクピド。扇を取り出しバッと開き、この場にいる全員に聞こえるように言う。
「魔法による『封印』が施されているようです。どうやら……ここから脱出することは不可能。私たちは完全に閉じ込められたようです」
◇◇◇◇◇◇
シャドウはクピドの話を聞きながら舌打ちしかける。
(最悪だ。この状況で『ハンゾウ』として出たら、俺がいないことがバレる。どうする……)
周りには、慌てている者、落ち着いている者、恐怖している者と多い。
新入生が全員、使用人たち、護衛である上級生たち、そしてクピドや来賓たちと、合計で三百人以上はいる。
三百人。外から監視されていることを考えると、ハンゾウが現れた時点で『誰がいないか』を確認するだろう。
「…………」
(───シャドウ様)
と、ここでヒナタがシャドウに近づいてきた。
シャドウが何を考えているのかすぐにわかったようだ。
(私がシャドウ様に『変化』して誤魔化せば……)
(意味がない。それに、お前がいないことがバレてお前は疑われるし、お前の主である俺も疑われる)
すると、今度はルクレが近づいてきた。
(……あの、シャドウくん。ヒナタさん。その……私、考えがあるん、だけど)
ルクレは、自信なさそうに呟く。
シャドウ、ヒナタがルクレを見ると、緊張しているのがわかった。
「ちっくしょう!! あのバケモノを何とかしねぇと!! おい、オレも戦うぜ!!」
すると、ライザーが叫び注目を集めた。
クピドがため息を吐き、周りの生徒もライザーを止める。
ライザーは一瞬だけシャドウを見る……『注目を集める』と目が語っていた。
『お、おぉぉぉぉ……オオオオオオ』
すると、ロサリンが肥大化。会場の三分の一を占領するほど巨大化し、真っ白な怪物となった。
触手の生えた白い塊……そう表現するのが正しい『生物』だ。
ロサリンの怒号が響き渡り、生徒は怯え、喚く。
魔法が飛んでロサリンに直撃するが、全く効いていない。
「みんな、オレらも魔法ぶっぱなそうぜ!! 少しでもダメージ与えるんだ!!」
ライザーが叫ぶと、シェリアがセレーナを押しのける。
「そうですわね。お姉様、出られないならアレをみんなで倒しましょう!!」
「シェリア……全く、あなたって子は」
ライザー、シェリアの熱意に押されたのか、勇敢に杖を取り出す生徒たち。
いつの間にか、みんなで戦うという雰囲気になっていた。
ルクレは言う。
「シャドウくん。あの怪物……どのくらいの時間で倒せる?」
「…………十秒」
「え、そ、それだけ?」
「ああ。新術で一気に倒せる……と、思う」
「……わかった。じゃあ、わたしの作戦」
ルクレがボソボソと作戦を伝えると、シャドウとヒナタは驚いていた。
「お、お前……そんなことできるようになったのか?」
「まだ完璧じゃないけど、短時間なら……」
「……ふふ。驚きですね。シャドウ様、どうしますか?」
「それでいく。ルクレ、任せるぞ」
「はい」
作戦が決まり、三人は頷く。
そして、ライザーが叫んだ。
「みんな、やるぜ!! 新入生社交界を台無しにした報いを、あのバケモノにぶつけるぞ!!」
「「「「「おおー!!」」」」
「全く、あなたが目立たないでくださいな!!」
シェリアが対抗して杖を抜く。
セレーナも杖を抜き、クピドも仕方なしにと杖を抜く。
シャドウは、機会を狙った。
◇◇◇◇◇◇
周りが戦う気になっていたのを見ていたラウラは気付いた。
(……え、ユアンくん)
ユアンの魔力が、妙だった。
魔力を見分ける目を持つことは、黄昏旅団ですら知らないこと。
だからこそ……ラウラだけが気付いた。
(な、なんで? なんで……あの怪物と同じ魔力を)
ロサリンとユアンの魔力の色が、全く同じだった。
これまで、魔力を見間違えたことはない。
間違いなく、同じだった。
そして、ロサリンから伸びた魔力の『パス』がユアンに繋がっている。ユアンだけじゃなく、他にもパスが伸びており……会場内にいる上級生三人と繋がっていた。
ユアンを含めた四人は、同じ魔力の色をしていた。
(う、嘘……ま、まさか)
それぞれが魔力を送り込むと、ロサリンの触手が増えたり、自在に動く。
ラウラにはそれが、四人でロサリンを操作しているように見えた。
(ゆ、ユアンくん……まさか、黄昏旅団)
ドクンと心臓が高鳴り、ラウラはユアンを直視できなかった。
(つ、伝えなきゃ)
「ラウラさん」
「ッ、な、なに?」
「安心して。きっと助かるから」
ユアンは、まるで人形のような硬い笑みを浮かべるのだった。