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黄昏旅団所属『悪魔』ヴィーネ②

 社交界専用の建物、もといパーティー会場はかなりの広さだった。

 それだけじゃない。学園関係者だろうか、男女の使用人も壁に並んでおり、さらにはドレス姿の女性が数名、生徒たちを待っていた。

 ライザーの空気が一瞬だけ変わったのを、シャドウ、ルクレ、ヒナタは気付いた。

 そして、ヒナタが言う。


「あそこにいるのがアリアル夫人。そして……その隣にいるのが」

「……クピド。オレの義母だ」


 ライザーが言う。

 ライザーの本当の母親を殺した、黄昏旅団『恋人』にして、ハンゾウの元弟子。

 シャドウは小さく言う。


「アリアル夫人……あっちも警戒しないとな」


 改めて、周囲を警戒する。

 生徒全員が会場に入るとドアが閉まり、アリアルが言う。


「新入生諸君。まずは入学おめでとう……今日は授業の一環として、毎年恒例である『新入生社交界』を開催する。礼儀作法に始まり、パーティーに関する知識を覚えてもらう」


 授業の説明が始まった……そう、あくまで社交界は授業なのだ。

 

「こちらは、グランドアクシス公爵夫人。今日の補佐をしてもらう。いいか、何度も言うがこれは授業の一環だ。きちんと学び、貴族であり魔法師であることを自覚するように」


 すると、使用人たちがグラスを配り始める。

 中身は果実水。乾杯をするようだ。

 シャドウたちもグラスを受け取り、アリアルがグラスを掲げた。


「それでは、乾杯」


 こうして、新入生社交界が始まった。


 ◇◇◇◇◇◇


 始まったはいいが、何をすればいいのか……と、社交界が初めてな男女は困惑する。

 だが、シェリアやラウラなどは慣れているのか、飲み物を飲んだり、近くの生徒とおしゃべりをする。

 意外にも、ルクレは緊張していないようだ。


「お前、大丈夫か?」

「うん。社交界……こういうパーティーには、何度か参加したことあるから」


 シェリアは、自分の派閥の女子を集めて自慢話、ラウラも友達と楽しそうに話している。

 ラウラの隣にはユアン。そして騎士のような礼服を着たレスティア。楽しそうに会話に混ざっているが、レスティアの表情は晴れなかった。

 そして、ライザー。


「……お久しぶりです。義母上」

「久しぶり。どう、学園には馴染めたかしら?」

「……なんとか」


 クピドと話をしている。

 ここでシャドウが近づくのは不自然。ライザーとヒナタに任せ、シャドウとルクレはテーブルに近づくフリをして、アリアルの元へ近付く。

 すると、テーブルに近づいたとたん、アリアルの方から近づいてきた。


「緊張しているか、クサナギ男爵」

「え、ええまあ……」

「ははは。若くして爵位を継承したと聞いたが、こういうパーティーには参加したことがないようだな」

「は、はい。クサナギ男爵は、社交界には参加しない方でしたので」

 

 余計なことは言えない……シャドウは曖昧に笑う。

 ルクレも、ボロを出さないよう笑うだけだった。


「どうした、緊張……だけではないな。何か不安でもあるのか? 表情がこわばっているぞ」


 シャドウは冷や汗が流れた……アリアル、勘がいいと。

 緊張だけじゃない心の動きを察知された気がした。


「い、いえ……その、こういうイベントだと、また何か起きるんじゃないかと不安で」

「ああ、身体測定の時みたいにか。今回は大丈夫だろう。二学年の優秀な生徒たちと、準特等級の魔法師が何名か護衛に回っている。『デロス』のような組織では手が出せんよ」

「よかった……」

「とりあえず、今は社交界を楽しむといい。ああ、授業の一環だから、相応しくない行動を取れば指摘させてもらうからな」


 そう言い、アリアルは別のところへ。

 シャドウ、ルクレは深く息を吐く。


「び、びっくりしました……」

「ああ。俺も……でも、今回は何も起きないかもな。護衛はちゃんといるみたいだ」

「安心ですね……ほっ」


 ルクレが胸をなで下ろすると、お腹がグ~ッと鳴る。


「…………」

「~~~っ!! え、えと」

「メシ、食うか」

「……はい」


 シャドウとルクレは、近くのテーブルにあった食事に手を伸ばし始めた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ライザーは、俯いていた。


「あらあら、どうしたのかしら? せっかくの再会なのだから、お顔を上げて?」

「……はい」


 知っているのだ。

 ライザーが兄姉にいたぶられてここまで強くなったことも。そして指示を出したのが目の前にいる義母であることも、ライザーが知っているということを。

 知っていれば、間違いなく恨まれる。だが、義母クピドはわかっていて、ライザーを愛するようなそぶりを見せている。

 クピドにとってライザーは、いてもいなくてもいい存在。

 グランドアクシス公爵家の夫人と言う立場の付属品であり、退屈凌ぎのオモチャ程度。

 だから、久しぶりに見るオモチャを見て、少しだけ機嫌がいい。


「お小遣いは足りている? その礼服とっても素敵。そちらの子は? 可愛い子ねぇ」

「…………」

(……押さえてください)


 ヒナタは視線だけでライザーに言う。緊張しているフリをしているが、クピドはヒナタにもずっとなめまわすような視線を送っていた。

 ただ者じゃない。目の前にいるのは、黄昏旅団『恋人』のクピド。

 シャドウは気取られないようにしているが、間近にいるヒナタはそれどころじゃない。


「あなた、お名前は?」

「……ヒナタと申します。クサナギ男爵の、従者でして」

「クサナギ男爵? ああ、アルマス王国の貴族だったかしら。若くして爵位を受け継いだ子がいるって聞いたけれど」

「……義母上。そろそろ失礼します。友人たちと友好を深めたいので」

「あらそう? ふふ、じゃあ楽しんでいらっしゃい」


 ライザーは一礼、ヒナタとその場を去る。


「……よく耐えましたね」

「殺してやりたいぜ。今でも……」


 ライザーは歯を食いしばり、拳を強く握るのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 パーティー会場の隅では、ヴィーネが退屈そうにしていた。

 急病人などが出た場合に備えて医師であるヴィーネが待機しているのだが……今は違う。


「聞こえるかな、ルソルちゃん」

(はい、先生)

「リスターちゃん、エルナちゃん」

((はい、先生))


 どこからか聞こえてくるのは、可愛い三人の弟子。

 そして、もう一人。


「ユアンくん」

(はい、先生)

「ホムンクルス、馴染んだかな?」

(はい。完璧です)

「うんうん。じゃあ……あと少ししたら、始めよっか」


 まもなく始まる。

 黄昏旅団所属『悪魔』ヴィーネの、最悪な『お遊び』が。

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