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尋問

 シャドウが向かったのは、かつてライザーと拳を合わせた倉庫。

 そこにレスティアを下ろし、手を縛り、武器を没収する。

 そして、額に手を触れて軽く電気を流し、レスティアの意識を覚醒させた。


「ぅ……」


 シャドウは顔を隠したまま、レスティアの首に苦無を当てる。

 マスク越しに、声を低くして言う。


「声を出せば殺す。騒げば殺す。俺の許可なく何かすれば殺す。理解したら目を閉じろ」

「───っ」


 本気の声と理解したのか、レスティアは目を閉じる。


「ゆっくり目を開けろ……そして、俺の質問に答えろ。お前、何をしていた」

「……あなたは、ハンゾウ」


 苦無が、レスティアの首に少し触れて血が出た。


「次に余計なことを言えば殺す。何をしていた」

「っ……あ、あなたを……探していた」

「俺を? 理由を言え」

「……以前、女子の身体測定で見たあなたは……同世代の男子だと思った。ユアン様がハンゾウだと言われているが、従者である私にはわかる。ハンゾウはユアン様のはずがない」

「……続けろ」

「なんの確証もない賭けだった。男子寮に向かって、意味深な明かりを点滅させれば、もしかしたらハンゾウが追ってくるかもしれないと思った。だから……」

「……(チッ)」


 シャドウは舌打ち。

 まんまとレスティアの策にハマった。深読みしすぎたせいで、誘い出されてしまったようだ。

 どうするか───……そう思った時、レスティアが言う。


「は、話を聞いてほしい……」

「…………言え」

「ユアン様だ。第二王子ユアン……ユアン様の様子がおかしいんだ。以前とは別人で、何かをされた。私じゃ手に負えない……だから、あなたを探した」

「……ユアン?」

「ああ。その……以前、指を折られ、医務室送りになったんだが……その時からどうもおかしい」

「どのように」

「わからない。だが、時折情緒不安定になるというか……」

「…………」


 意味不明だった。

 情緒不安定。それだけで、こんなリスクを冒してまで『ハンゾウ』を探すとは。

 シャドウはレスティアの身体を起こす。


「……もっと詳しく話せ。どんなことでもいい。違和感を話せ」

「……気のせいかもしれない。でも見た……ユアン様の目が桃色に輝いたんだ。その目を見てからおかしくなった」

「どこか寄ったり、妙な物を食べたとかは」

「わからない。食事は全て私が管理している。食堂で食べる時も私が毒味しているし……どこかに寄ることもない。でも、おかしいんだ」

「…………」

「以前なら、自分はハンゾウじゃないと言っていたんだが、最近は全く否定しないし、そのことを指摘すると本気で怒る。何度も髪を掻き毟るし、夜中に飛び起きる。医務室に何度も行く……もしかしたら大病を」

「待て」


 ふと、気付いた。


「……医務室?」

「あ、ああ。体調がおかしいんだ、医務室に行って精神安定剤を処方してもらっている。もちろん、私の方で成分を分析して、ちゃんとした薬だと確認はしている」

「……おかしくなったのも、医務室に行ってからか?」

「待て。まさか、学園専属医師を疑っているのか? 学園に関わる者は全て王家が確認している。不審者が紛れ込むなど」


 あり得る。

 そもそも、黄昏旅団は『社会的地位の高い者』に多い。『恋人』のクピドも、グランドアクシス公爵夫人という地位を持っているのだから。

 学園専属医師。まだ、調べていないところだった。

 シャドウは苦無を引き、手の拘束を解いた。


「……信じて、くれるのか?」

「信じる信じないじゃない、情報として価値があるってことだ」

「……私には、頼れる人がいない。そもそも私はユアン様が『頼る』存在なのだ……それなのに、ユアン様の異常に関して何もできない。アルトアイネス騎士爵家の騎士として失格だ……!!」

「…………」

「ハンゾウ……私は、アルトアイネス騎士爵家のレスティア。どうか、ユアン様を助けるために手を貸してほしい。もちろん、私にできることならなんでもする」

「…………お前、何ができる?」

「戦える。ユアン様に何かをした者がわかったら……この手で」


 かなりいい目をした戦士だとわかった。

 実力はライザーと互角程度だろうか。


「…………」

「な、何だ?」


 もし、レスティアを『六人目』として迎えることができたら、風魔七忍も戦力アップにつながる。ヴライヤが加入したと言っても、自由に動けるわけではない。

 学園内で動ける手練れ……レスティアは、ある意味ではクリアしている。


「……医務室で対応した専属医師の名前は」

「え、えっと……ヴィーネ先生だ。特等魔法師で、医師であり薬師で、薬学の研究者でもある。まだ若いけど、実力は確かだ。それと……三学年の何人かを弟子にして、医学を教えているとか」

「わかった。そいつはこっちで調査する。いいか……お前は妙なことをするな。俺のことも、俺に何かを頼んだことも、俺に関わる全てを口外するな。破ったら殺すし、ユアンも殺す」

「っ……」

「……今日は帰れ。いいか、持てる技能を全て使い、誰にも気取られることなく帰れ」

「わ、わかった」

「……追って連絡する」


 シャドウはそう言い、倉庫から出た。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 部屋に戻ると、ヒナタも戻っていた。

 風呂上りなのか、少し火照った表情で、さらに寝巻に着替えている。

 シャドウが戻るなり、従者室からシャドウの部屋に入ってきた。


「シャドウ様。どちらへ?」

「ちょっと情報収集……というか、誘い出された」

「えっ……」

「その辺を話す」


 シャドウも寝巻に着替え、ベッドに座る。

 ヒナタに椅子を勧め、シャドウはレスティアとの会話を説明した。


「専属医師ですか……」

「ああ。ユアン殿下の様子がおかしいらしい。もしかしたら、黄昏旅団が絡んでいるかも」

「なるほど……『恋人』とは別と考えるべきでしょうね」

「ああ。まだ確信はないけど、かなり怪しい」

「……わかりました。私の方でも調べてみます」

「ああ。『死神』でもあったけど、絶対に気付かれるなよ」

「はい。その専属医師は弟子を取っているんですよね……まずはそちらから当たろうと思います」


 話は終わり、シャドウは背伸びする。


「とりあえず、今日はもう寝よう」

「はい。夜伽は……」

「そ、それはなしで」

「……一つ、よろしいでしょうか」


 いつもはここで終わるのだが、ヒナタがストップをかける。


「な、なんだ?」

「……夜伽は、ハンゾウ様から託された最後の修行です。私もハンゾウ様の修行を受けた者として、ハンゾウ様最後の修行は達成したい。シャドウ様……いつ、受けてくれるのですか?」

「いや、そんなこと言われても……まあ、修行だってのはわかる」


 女を知る。

 現に、シャドウはついさっき、レスティアの胸に触れて一瞬だが油断した。もし『女』を知っていれば、そういう動揺はしないのだろうか。

 もし敵が『女』を利用してくるなら……そう考えると、シャドウも「このままではいけない」とも思ってしまう。だが、やはりまだ心の準備ができていない。

 すると、ヒナタが言う。


「私、考えました。いきなり『実戦』ではなく、少しずつ慣れていきましょう」

「な、慣れる?」

「はい。まずはこちらを」


 と、ヒナタは寝巻の前を開けた。

 そこにあったのは、女性の胸。


「ぶっ……ひ、ヒナタ!?」

「目を逸らさずご覧ください。シャドウ様……まずは少しずつ、女体に慣れていきましょう。『実践』は最後ということで」

「う、あ、ああ」


 下着を付けていない素肌。ヒナタは特に恥ずかしがっていない。

 そして一分後。シャドウの顔が真っ赤になり、ようやくヒナタは前を閉じた。


「今日はここまでにしましょう。ではまた明日」

「あ、明日も?」

「はい。毎日続けます」

「……お、おお」


 ヒナタは一礼し、部屋に戻る。

 そしてシャドウは……ある意味『非常に大変』な訓練を受けることになり、赤くなった顔を手でさするのだった。

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