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実習後

 ダンジョン実習が終わり数日。

 実戦を経験した新入生たちは一皮剥けた。魔獣との戦いはやはり、魔法の練度を遥かに上げる。

 相変わらず、座学と実技を交互にこなしていく学園生活だが、ここに新たに『ダンジョン探索』が加わることになった。

 数度のダンジョン実習を得て、学園側が出す課題をクリアすれば、正式な三等魔法師と認定され、申請すれば最下級ダンジョンに入ることができるようになる。


「あれ? オレらってもう三等魔法師じゃねーの?」


 ある日、広場の隅で昼食のパンを食べながらライザーが言う。

 その問いにはラウラが答えた。


「いちおうは三等認定だけど、それはあくまで便宜上のことらしいよ。いうなれば三等(仮)ってところかな? だから、ちゃんとした試験を受けてようやく認定されるらしいよ」

「へ~」


 ライザーはパンをかじり、牛乳を飲み干す。

 今日のメンツはシャドウ、ラウラ、ヒナタ、ルクレ、ライザー。そしてソニアだ。

 ソニアはラウラが広場でパンをかじることを良しとしなかったが、やむなしと同行したらしい。


「ダンジョンもだけど……もうすぐ『新入生社交界』だね」


 意外にも、ルクレが言う。

 あまり話題を出さないルクレだが、ヴライヤとの戦い以降、少し成長したのか話題を出すようになった。

 正直、社交界に全く興味のないシャドウは言う。


「それ、強制参加なんだよな……めんどくさい」

「サボっちゃだめだよ? あ、そういえば……シャドウくん、ライザーくん、パートナー決めた?」

「「パートナー?」」

「うん。社交界だし、やっぱりパートナーがいないとね。まあ、いなくてもいいんだけど……新入生女子の間では暗黙の了解というか……パートナーの男性を見つけて、一緒にパーティー会場に入るのが習わしっぽいところあるんだよね」


 そういう情報がありがたい……と、シャドウは思う。

 外部協力員として、こういうくだらない情報だろうと何が必要になるかわからない。

 

「ラウラさん。あなたはパートナーがいるのですか?」

「いやー……ユアンくんに誘われちゃって。悩んだけど了承しちゃった。ごめんね、シャドウくん」

「別に謝ることないけど……」

「あ、あの。シャドウくん」

「ん、なんだルクレ」

「その……わ、わたしと、パーティーに行ってくれませんか?」

「俺と? いいけど」


 特に考えもせずに返事をしたシャドウ。だが、ルクレは喜んでいる。

 そして気付いた。ヒナタがシャドウを見ていたことに。


「あ、ヒナタ。その……お前はどうする?」

「……そうですね」

「あ、じゃあオレが行くぜ。どーせ相手なんていねぇだろ」

「……事実ですが非常に癪でムカつきますね」

「んだよそれ!!」


 こうして、シャドウとルクレ、ヒナタとライザーで『学園社交界』に臨むことになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 社交界まで残り数日、シャドウは一人、自室で『印』を結んでいた。


「…………よし」


 また一つ、忍術を完成させたシャドウ。

 そんな時、ヒナタが従者室からドアをノックし、シャドウの部屋へ。


「シャドウ様。これから情報収集に行ってきます」

「ああ。でも……なんだか最近、情報が入ってこないよな」

「ええ。『死神』が死亡し、黄昏旅団も慎重になっているのかもしれません。当面は『恋人』に関する情報だけに絞って情報を集めるつもりです」

「……なあ、ヒナタ」

「はい」

「社交界……何か起きると思うか?」

「……わかりません。『恋人』が何かを起こすのか、それともそれ以外の誰かが何かを起こすのか……以前は魔法を独占する貴族を狙った『デロス』によるテロ事件となりましたが、再び何かを起こすというならば、似たような組織を黄昏旅団が使うということも……それらを含め、国内にあるテロ組織に関する情報も集める予定です」

「……気を付けろよ」

「はい。ですが……こういうことに関して、私はシャドウ様より遥かに優秀ですので」


 ヒナタはクスっと笑い、部屋から出て行った。

 シャドウは窓の近くに移動し、空を見る。

 星が瞬き、月明かりがとても綺麗な空だった。


「…………ん?」


 そして、気付いた。

 シャドウの部屋から見えたのは、小さな光。

 手元を照らす程度の光が、学生寮の裏で輝き、消えた。


「…………こんな真夜中に?」


 普段なら、もう就寝している時間だ。

 学園内に明かりはあるが、学生寮の裏は雑木林になっており、何かあるわけじゃない。

 ヒナタではない。そもそも、ヒナタが夜に明かりを灯すような真似を、するわけがない。


「…………」


 こんな夜に、明かりを灯り、雑木林に踏み込む。

 あまりにも馬鹿だった。敵であるならあまりにも愚か。

 夜中に光を灯すリスクを考えていない。それか……そうすることが目的。

 深読みしすぎだろうか。まるで、わざと、一瞬だけ明かりを灯したよう見えた。


「…………まさか」


 誘っている。

 普通なら「気のせいか……」で終わり、そのままカーテンを閉めてベッドに入るだろう。

 だが、シャドウはアサシンだ。

 もう眠気は消え、明かりの先に何があるかしか気にならない。


「…………」


 シャドウは声を出さず、アサシン衣装に着替える。

 そして、油を塗って音が出ないようにした窓を開け、音もなく外へ飛び出す。

 近くの木に飛び乗り、明かりが見えた方へ進む……そして。


(……いる)


 雑木林のど真ん中。木陰に何かがいる。

 間違いなく潜伏している。

 シャドウは手裏剣を手に、そして仕込みブレードを展開。


(───チャンス)


 月が雲で隠れ、暗闇となる。

 こんな時間に『かくれんぼ』をするような奴がまともではない……と考え、手裏剣を投擲。同時に何者かの背後に回るため木々の枝を飛び回る。

 何者かは、飛んできた手裏剣をなんと素手で叩き落とす。だが、叩き落とした時すでに、シャドウは何者かの背後に回り、一瞬で木から飛び降りて何者かの首にブレードを突きつけた。


(───……動くな)

「ッ……」

(妙な動きをすれば斬る)

「お、お待ちっ」


 声を出した瞬間、シャドウは何者かの口に丸めた布を詰め込んだ。

 そして、身体の向きを変えて胸に手を添える……少し動けば仕込みブレードが飛び出し、心臓を貫けるようにしたのだが。


(……う、この感触)


 何者かは、女だった。

 決してやましい気持ちで胸に触れたわけではない。だが、まだ『女』を知らないシャドウに、異性の柔らかさはある意味で『毒』だった。

 そして、シャドウは空いた手でブレードを伸縮させ、見せつける。


(動けば心臓に刃が食い込む……お前は、何者だ)


 すると……雲で隠れていた月が見え、少しだけ明るくなった。

 その顔には、見覚えがあった。


(こ、こいつ……!?)


 それは女……いや、少女。

 見覚えがあるなんてものではない。少女はユアンの従者であるレスティア・アルトアイネスだった。

 アルトアイネス騎士爵家の少女が、なぜこのような真似を。

 シャドウは驚きを出さず、レスティアの口に入れた布を取る。


「っぷは……あ、あの」

(……)


 シャドウは一瞬で印を結び、右人差し指でレスティアの額を突いた。

 すると、バチンと一瞬だけ紫電が飛び、レスティアが気を失う。

 その場に崩れ落ちるレスティアをシャドウは支えた。


「…………あーもう、どうしよ」


 とりあえず……シャドウはレスティアを抱え、音もなくその場から消えるのだった。

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はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!
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お読みいただき有難うございます!
最強スキル『忍術』で始めるアサシン教団生活
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