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ルクレの苦悩

 ある日、ルクレは一人で第一訓練場にいた。

 シャドウ、ヒナタはいない。ライザーもいない。

 ヒナタにもらった『魔法訓練のメニュー』を手に、一人で座って瞑想する。

 瞑想。体内にある魔術回路に魔力を流し、ゆっくり全身に循環させる。

 ただ座っているだけのように見えるが、眼を閉じ、魔力を頭のてっぺんから足のつま先まで、静かに循環させつづける作業は、慣れれば眠ってもできる訓練法だ。


「…………」


 ルクレは、シャドウとヒナタに出会い、新しい『魔法式』を刻んでからずっと、毎日この訓練をするようにと言われた。

 ルクレの魔力はシャドウと同じくとにかく『濃い』のだ。

 サラサラの水ではなく、ドロドロのマグマのような魔力は、ただ魔術回路を循環させるだけでも苦労する……この瞑想は、魔力を循環させ続けることで、ドロドロの魔力でも回路を通りやすくし、さらに魔術回路の拡張にもなる訓練でもあった。


「や、ルクレちゃーん」

「あ……」


 すると、眼を閉じて瞑想していたルクレの前に、以前からルクレにちょっかいを出し続けているクラスメイトの女子と、その取り巻きが現れた。

 名前は知らないルクレ。だが、女子は楽しそうに言う。


「あれ~? いつもの男爵様はいないのかな?」

「きょ、今日は用事あるって言ったから……」

「ふーん。じゃあ、一緒に訓練しない~?」


 訓練のお誘い。

 だが、その目は悪意に満ちていた。

 以前からずっと、ルクレを馬鹿にし続ける女子。何が許せないのか、何が気に入らないのか、ルクレには全く理解できない。

 ルクレは、曖昧に笑おうとして───気付いた。


(……わたし、何も変わってない)


 地水火風光闇にない『氷』の魔法式を手に入れても。

 シャドウたちと会い、少しは自信が持てても。

 一人では、何もできない。他人の顔色を窺い、逃げようと言い訳を考えている。

 そんな卑屈な自分がたまらなく嫌で……ルクレは、大嫌いだった。

 

「あ、ルクレちゃーん!! ごめんね、待った?」

「……え?」


 そんな時、ルクレに声を掛けたのは、ラウラだった。

 待ったも何も、ルクレは約束なんてしていない。

 ラウラは当たり前のようにルクレの手を取ると、女子に言う。


「ごめんね~、ルクレちゃん、私と約束してたの。何か用事あった?」

「っ……アルマス王国のお姫様」

「そうだよ? 私、お姫様なんだ。で……何か用事あった?」

「……別に。行くわよ」


 そう言って、女子はルクレから離れて行った。

 ぽかんとラウラを見るルクレは、はっとして言う。


「あ、あの。ありがとうございます……」

「気にしないで。用事があるのはホントだからさ」

「え?」

「ね、ちょっとお話しない?」


 こうして、ルクレはラウラと一緒に『お話』することになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 二人は着替え、地下ショッピングモールにある喫茶店へ。

 ショッピングモールの外れにある中規模の喫茶店だ。人も少なく、個室もある喫茶店は、静かに読書をしたいときや、内緒話をするのにぴったりである。

 二人は個室を借り、お茶とケーキを食べていた。


「あの……ラウラ、さん。従者さんは」

「あ、ソニア? ソニアなら私の用事でお出かけしてる。だから大丈夫だよ」

「そ、そう」

「そういうルクレちゃんは? 従者、いないの?」

「その……わたしは一人で入学したの。従者、付けてもらえなくて」

「そうなんだ。大変だねえ」

「……ううん。ブリトラ侯爵家でも、ずっと一人でやってきたから」


 ブリトラ侯爵家では、メイドもいなかった。

 着替えや身の回りの世話など、全部一人でやってきた。

 だから、特に気にしてもいない。


「あの……お話、って? まさか、シャドウくんたちのこと……」

「まあね。ルクレちゃん、なんでシャドウくんたちの仲間になったのかな、って」

「───……それは」


 シャドウが、手を差し伸べてくれた。

 『氷』の魔法式をくれた。

 魔法を使える自分になりたかった。でも、その手は暗殺者の手だった。


「……シャドウくんが、わたしに新しい力をくれたんです」

「シャドウくんが?」

「はい。わたし、落ちこぼれで……シャドウくんに助けられて。引き返すこともできたけど、わたしはわたしのために、シャドウくんの手を取って……暗殺者になりました」

「……アサシン教団だよね」

「はい。でもわたし、こ、ころしとか……」

「わかってる。なんとなくわかった。シャドウくん、ルクレちゃんのこと放って置けなかったんだね」

「……」


 シャドウの境遇は知っている。

 ハーフィンクス家の落ちこぼれ。魔術回路を持たない世界最高の魔力を持つ少年。

 魔術回路がなければ魔法は使えない。シャドウはただ、最高の魔力を持つだけで、魔法を一切使えない落ちこぼれだった。

 でも、シャドウは自分の運命を切り開いた。


「きっとシャドウくん。ルクレちゃんにも自分みたいに未来を掴んでほしい、そう思ったのかも」

「……でもわたし、もう引き返せない道にいます」

「そうだね。その中で、ルクレちゃんの道を見つけて欲しい……って、これはさすがに考え過ぎかな」

「……あの、わたしに何が言いたいんですか?」


 ほんの少しだけ、ルクレは警戒していた。

 もしかすると、話しやすい……取り込みやすい自分を狙っているのでは、と。

 すると、ラウラは言う。


「私、ルクレちゃんが羨ましいんだ」

「……え」

「シャドウくん。ルクレちゃんのこと、大事に思ってるから」

「わ、わたしを、大事に?」

「うん。私の勝手な想像だけど……きっとシャドウくん、黄昏旅団の仕事は全部自分でやって、ルクレちゃんにはあまり関わらせないつもりじゃないかな」

「……ど、どうして」

「だって、暗殺者の世界に引き込んだこと、責任感じてそうだし。だから、ルクレちゃんにはシャドウくんたちの『普通』の傍にいてもらって、魔法の訓練をさせて、全部終わったら自由にすると思う」


 普通。

 つまり、学園生活を送るために、ルクレには傍にいてもらう。

 暗殺者としてではなく、いつでも日の当たる世界に帰せるように。


「勝手な想像だけどね。でも……きっと、そんな気がする」

「……あ」

「ルクレちゃん。自分が役に立たないとか、使えないとかで考え込む必要ないと思う。ルクレちゃんは今をしっかり頑張れば、きっとシャドウくんたちは満足すると思う」

「……ラウラさん。どうして」

「倉庫でライザーくんたちと話してる時、ルクレちゃんずっと考えこんでる気がしたから。だから、私なりの意見を伝えたくて」

「…………変な人ですね」

「や、やっぱりそう思う? あはは……」

「ふふ……でも、ありがとうございます」


 ルクレは笑った。

 そんな時だった。ドアがノックされ、給仕の女性がカップに新しいお茶を注ぐ。


「……外で我々のことを話すのはよろしくありませんね」

「「っ!!」」


 すると、給仕の女性がいつの間にかヒナタに代わっていた。

 変化の術。これにはルクレも驚いていた。


「あ、いや、その……ご、ごめんね?」

「ラウラさん。あなたは、協力者として口が軽いですね。今後このようなことがあれば」

「わ、わかった、わかったから!! もう言わない!! じゃ!!」


 ラウラは逃げ出した。

 ヒナタはため息を吐き、ルクレを見る。


「ルクレ様。あなたがどう思っても、ラウラさんが何を言っても……あなたはもう、風魔七忍の一員です。それを恥じることも、後悔することも許しません」

「……うん」

「立派になれとは言いません。ですが……もう少し、胸を張りなさい」

「え?」

「シャドウ様はずっと、あなたのことを心配しています。あなたの元気がないことに気付き、ラウラさんに様子を見るようにお願いしたのですから」

「……え?」

「あの倉庫でルクレ様の様子がおかしいことに、ラウラさんよりも先に気付きましたよ」

「……っ」


 ヒナタはそう言い、お茶のおかわりを注いだ。


「ルクレ様。お茶を飲んだら、また瞑想の修行です。今度は私も付き合いますので」

「……うん」


 ルクレはお茶を飲み干し、立ち上がる。

 一人前には程遠い。でも……自分を心配してくれる人たちのために頑張ろうと、ルクレは胸を張るのだった。

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