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外部協力員

 ラムエルテの討伐から数日。

 学園は未だに、襲撃事件の調査で休校。シャドウは自室で怪我を癒しつつベッドで寝転んでいた。

 本来なら『次の獲物』を探す必要があるのだが……全く、何も手がかりがない。

 すると、部屋のドアがノック。従者室からなのでヒナタとルクレが入ってきた。


「シャドウ様。包帯を交換します」

「ああ、頼む」

「あう……」


 シャドウが上着を脱ぐと、ルクレが顔を赤くしてそっぽ向いてしまう。

 どうも『異性の肌』を見るのに抵抗があるようだ。ヒナタはともかくシャドウも同様なので何も言えないのだが。

 ルクレは言う。


「し、シャドウくんも医務室行ければいいんだけどね……」

「怪我の追求されたら面倒だし、仕方ないよ」

「ご安心ください。医師までとはいきませんが、私も医療の心得がありますので。怪我や病気の判別、薬草の調合、簡単な手術でしたら行えます」

「今更だが、お前ホントに万能だよな……」


 関心するシャドウ。

 ヒナタはあらゆる分野に精通しており、頼りになる。


「ですが……暗殺術では、シャドウ様の足元にも及びません。旅団との戦いは全て、お任せすることに」

「いいよ。師匠もそのために俺を……」


 それだけではないとシャドウは思い、言葉を途中で切った。

 そして、ルクレに言う。


「ルクレ。お前の方はどうだ?」

「え?」

「魔法だよ魔法。『氷』の魔法……使えるようになったか?」

「えっと……コップのお水を離れた位置でも凍らせるくらいはできるけど、威力を上げると狙いが上手く定まらなくて」

「そればかりは感覚だよなあ……俺もよくわからんし」


 ルクレの魔法式は『氷』だ。

 魔法式を刻んだばかりであり、しかも六属性に当てはまらない『氷』属性なので扱いに難儀している。今は『風魔七忍』の一員ではあるが、修行やヒナタの手伝いが主な仕事だ。

 だが、シャドウは言う。


「でも、寮の襲撃事件では魔法を使ったよな」

「う、うん。思わず……ちゃんとできてよかったよ」

「ああ、この調子で頼む」

「う、うん。あ……」

「ん、どうした?」

「……その。実家からお手紙があったの。近く、家に帰らないといけなくなったんだ」

「家に?」

「うん。ブリトラ侯爵家……帰りたくないな。上級生のお兄様、お姉様も帰るし、私も行かないわけにはいかなくて」


 ルクレは俯く……本当に嫌なのだろう。

 シャドウは言う。


「とりあえず、用事済ませて早く帰ってきなよ。俺もヒナタも学園にいるし」

「ええ。教師の話では、あと数日は休校らしいです」


 ヒナタはいつの間にか情報を手に入れていた。

 この話の翌日、ルクレは実家に戻った。

 シャドウの怪我もヒナタの薬草でよくなり、ようやく動けるようになる。

 動けるようになり、情報収集をしようと部屋を出ようとした時だった。

 ドアがノックされ、声が聞こえてくる。


『あの、シャドウくん……いる?』

「───!!」


 ラウラだった。

 部屋にいたヒナタと目配せし、ヒナタは気配を殺し部屋の隅へ。

 シャドウもリストブレードを確認。ドアを開ける。


「き、来ちゃった……あの、お話いいかな?」

「……どうぞ」

「あ、一人だよ。ソニアはまだ怪我が良くならなくて。魔法医師の治癒魔法で骨はくっついたけど、明日までは安静にって」

「どうぞ」


 どうでもいい話を聞き流し、ラウラを部屋に入れた。

 そして、椅子を勧めるとラウラは座り、シャドウはベッドに座る……ラウラは、背後のヒナタに気付いていない。ヒナタならいつでも首を狩れる。


「で、用事は?」

「あはは……やっぱり警戒するよね」

「ああ。こうして会うのでさえリスクだ。お前はアルマス王国のお姫様。しかも学園は二度も襲撃を受けている……アルマス王国からお前の知らない護衛が来て、お前の周囲を常に警戒してても不思議じゃない。もしそいつらが俺らの邪魔になるなら消さなくちゃいけない」

「……」

「わかるか。お前と会うのは学園の中だけ。それ以外では俺らの邪魔するな。お前が俺らに何を求めているか知らんが、こっちはもうお前のことを『監視対象』としか見ていない……お前が今から何を言うか知らんが、どんな言葉ならべても意味はないぞ」

「……ご、ごめん」


 ラウラは謝った。

 善人ぶるつもりはない。学園に来たのは『黄昏旅団の潰滅』のため。仲良しごっこをするつもりなんて毛頭ない。

 シャドウはため息を吐く。


「……で、要件は?」

「あのね……わ、私も、仲間に入れてくれないかな」

「却下」


 即答だった。

 そう言いだす可能性は考えていたので、言葉がスラスラ出た。


「メリットがない。お前は誰からも愛されてるお姫様だ。俺やヒナタ、実家から冷遇されているルクレとは立場が違う」

「……」

「次に言うのは『バラされたくなければ仲間に入れろ』か? その場合、こっちも遠慮しない」


 すると、ヒナタがラウラの腕を掴み、口を無理やり開けた。


「ぁっ……」

「時間差で、証拠も残さずに心臓だけを停止させる毒薬の調合も可能です。この丸薬を飲めば、きっちり一日後に死亡します。睡眠薬も合わせてありますので、突如倒れたあなたは眠るように、静かに息を引き取るという算段です」


 ヒナタが取り出した丸薬を見て、ラウラは顔を青くする。

 シャドウは言う。


「わかったろ。学園以外で、俺たちに関わるな。学園では同じクラス委員として付き合ってくれ」


 ヒナタが手を離すと、ラウラは俯く。

 別世界……深く実感しているようだ。

 事実を知るまで、何の遠慮もなく部屋に遊びに来ていたラウラだったが、今ではこの部屋が暗殺組織の拠点であり、いつでも自分を殺せる人間が二人もいる。

 ラウラは言う。


「……私、思ったんだ」

「……?」

「シャドウくんがすごく気になった理由。最初は、私を助けてくれた魔力の人で、ちゃんとお礼を言いたかったの。でも……シャドウくんと接しているうちに、シャドウくんは常に一歩引いたような、人との付き合いをしない人だって」

「……」

「だから、私がもっと仲良くなろうって思ったの。見ず知らずの私を助けてくれたシャドウくんは優しい人だから……だから、もっと楽しいことしたいって。学園で素敵な思い出を作ってほしいって」

「……」

「いけないことなのかな。私は、シャドウくんにも学園生活を楽しんでほしいだけなの。暗殺者でも……楽しく生きることって、ダメなのかな」

「───……っ」


 ◇◇◇◇◇◇


『いいかシャドウ。人生は一度きりなんだ。思いっきり楽しめよ』


 ◇◇◇◇◇◇


 かつて、修行の合間にハンゾウが言った言葉が胸に蘇る。

 シャドウの顔色が変わったのを、ラウラは見逃さなかった。


「シャドウくん。私はシャドウくんたちの抱えている物の大きさはわからない。どれだけ辛くても、大事なことだから頑張ると思う……でも、学園にいる時は、私の友達として付き合ってほしいの。私と一緒にいる時、シャドウくんが心から笑えるように、頑張るから」

「…………ッ」

「仲間に───……ううん、私と友達になってください」


 ラウラはそっと、シャドウに手を差し伸べた。

 その手は悪意などない。純粋な優しさしか感じない。

 ヒナタも動揺したのか、少しだけ手が震えていた。


「…………」

「…………シャドウくん」

「───……わかったよ」


 シャドウはラウラの手を取り、握手した。

 殺し合いするより厄介な相手。シャドウは負けた気分になった。

 まだ子供。だからこそ、シャドウは負け惜しみのように言う。


「外部協力員だ」

「へ?」

「お前は俺たちの外部協力員になれ。お姫様のお前でしかわからないこともあるだろ。そういう情報を提供してくれ……対価は支払う」

「…………」

「あと、お前の従者の女騎士、そいつには何も言うなよ。ああいう堅そうなのは隠し事できないタイプだし、お前の意思と関係なく俺らのことをアルマス王国に話す。俺たちのことを話すのはこの部屋だけ。いいな。遵守しろよ」

「う、うん!! あ、でも情報って何すればいいの?」

「お前が気になったこと何でもだ。なんでも」

「なんでも……あ、そういえば。シャドウくんが頑張ってみんなを助けたのに、なんかユアンくんのおかげってことになってるの!! もう、ユアンくんもその気になってるしさー」

「どうでもいい。あと、俺のこと匂わせるようなこと言うなよ」


 こうして、風魔七忍の『外部協力員』として、アルマス王国第一王女ラウラが仲間になった。

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