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黄昏旅団所属『死神』ラムエルテ④

 ラウラが連れて来られたのは、窓のない黒い『部屋』だった。

 黒いローブの男がラウラから手を離す。ラウラは床に倒れるが、すぐに身体を起こしてラムエルテを睨んだ……が、ラムエルテは接近し顔を近づける。

 眼前にいるのに、ラムエルテの顔は『影』になって見えなかった。


「ふむ、恐怖はゼロ。敵意が半分、困惑が半分といったところですか……アナタ、ハンゾウの正体を知っていますね? 知っているからこそ、助けが来ると確信している」

「……その声、その魔力……どこかで」

「む? ほう……『魔水晶の眼』を持つのですね。その眼、我らの組織でも持つ者はいません。実に興味深い……ククク」

「……っ」


 顔を近づけられる。

 すると、周囲の壁から『黒いモヤ』が伸び、ラウラの四肢を拘束した。


「うっ……!?」

「人間はある程度、痛みに抗うことが可能です。身体が防衛反応を起こし、痛みを感じる神経を遮断する……そうなるともう、痛みでは屈服させることはできない」

「……」

「ですが……『快楽』は別です。人間はね、快楽に抗うことはできないんですよ。特に、若い身体だとなおさらだ」

「な、何を……」


 ラムエルテの手には、透明な液体の入った小瓶があった。


「我らの組織に所属する『正義(ジャスティス)』が作った特別製の媚薬です。これを使うと、犬も猫も魔獣も人間も、メスである限り発情し、壊れ狂う……フフフ、試してみましょうか? ああ、情報を引き出した後は道具として死ぬまで『遊具』となるよう手配しますのでご安心を」

「っ……」

「いい顔だ……おお、恐怖が混ざりましたね。ふふ、乱れる自分を想像してごらんなさい。楽しい、楽しい、快楽に溺れた姿を……」


 ラムエルテが小瓶の蓋を開け、薬品を一滴指に垂らす。


「ああ、ちなみにこの薬……男性には何の効果もないのですよ。ふふ、残念でしたね」

「……」

「さて、問いましょう……ハンゾウの正体は? 名前、学年、性別などわかることをお話ください」

「……」

「ふふ、私に情報を漏らさぬよう、一切の言葉を発しないつもりですね。本当に優秀な子供だ」

「……」

「では───その身体に聞くことにしましょうか」


 ラムエルテは、薬品が付着した指をラウラに向ける。

 ラウラは息を飲み顔を反らすが、『影』が顔を無理やり押さえ、そして口を無理やり空けさせる。


「あ、ぎ……」

「さぁ、この指が口に入るまで時間があります……あなたが知ることをお話ください」

「……っ」


 それでも、ラウラは喋らない。

 眼に涙を貯め、眉を吊り上げ……決して屈しないとラムエルテを睨む。

 ラムエルテは、背中がゾクゾクするのを感じた。

 壊したい。この気丈な娘を徹底的に、とにかくメチャクチャにしたい。

 震える衝動を押さえ、ラムエルテは膝が震えないよう我慢しつつ、人差し指をラウラの口に入れようとして───……。


 ◇◇◇◇◇◇


「お前、本当に馬鹿だな」


 ◇◇◇◇◇◇


 スパン!! と、天井を突き破って現れたシャドウが、ラムエルテの人差し指を『夢幻』で切断した。

 切断された指が床を転がると、黒いモヤとなって消滅する。

 同時に、ラウラを拘束していた影も消え、解放された。

 力の抜けたラウラをルクレが慌てて支え、二人を守るように苦無を両手に持ちヒナタが前に出る。


「おやおやおやおや……これはこれは、実に面白い」


 ラムエルテは切断された指を見る。すると、黒い靄が指の代わりとなり、そのまま黒い指として固定され、何事もなかったように動かした。

 そして、シャドウを見て口元を歪ませる。


「お久しぶりです、ハンゾウ……いえ、二代目ハンゾウ」

「…………」


 シャドウは『夢幻』を構え、ヒナタを見る。


「よくここがわかりましたね。第七訓練場で廃棄された休憩所なんて、新入生はもちろん、在校生ですら知りえないはずですが……ふむ、方法は不明ですが、その娘を何らかの方法で探知したと考えるのが普通でしょうな」

「……思い出した。あなた、司書のゲルニカ先生……ですね?」


 ラウラが思い出したように言うと、ラムエルテはフードを外して素顔を晒す。

 その顔は、シャドウたちの知る司書長……二学年の担任の一人、ゲルニカだった。


「正解です。いやはや、その眼は便利ですな……ですが忠告です。魔力はもともと視認できるような物ではありません。今はともかく、長期にわたり仕様を続けると後遺症が出る恐れがありますよ」

「……っ」

「さて。私の正体を知られたからには、あなたがた四人を逃がすわけにはいきません……まあ、二代目ハンゾウを殺すのは決定事項なので、ハナから逃がすつもりなんてありませんがねぇ」

「……お喋り野郎が」


 シャドウはボソッと言う。

 すると、両足がいきなり『黒い鎖』に絡まれ、動けなくなった。


「ッ!?」

「お忘れですか? この部屋には私の魔法……『影』の魔法式によって作られた『黒霧(ダークミスト)』で満たされています」


 ゲルニカ……ラムエルテはフードを再び被ると、床にズブズブと吸い込まれて行く。


「光りあるところに闇はあり。日の当たる場所に影はあり……」


 ラムエルテは両手に草刈りで使うような『鎌』を持つ。

 シャドウは印を結び、ヒナタたち近くの壁に手を向けた。


「火遁、『火閃槍の術』!!」


 火の槍が壁を突き破り巨大な穴が開く。

 その意図を察したヒナタが頷き、ルクレとラウラを担いで一気に飛び込んだ。

 穴が黒霧によって修復され、室内はシャドウ、ラムエルテの二人だけになる。


「最優先は俺か……」

『ふふふ。すでにあの子共たちにはマーキングしてあるので……ではでは二代目ハンゾウ、楽しみましょうか』


 室内に響く声。

 シャドウは両足を拘束している鎖を『夢幻』で斬り、高速で印を結ぶ。


「氷遁、『氷足場の術』」


 床一面を厚い氷で覆うが、十秒経たないうちに氷が『黒霧』に浸食され消えた。


「チッ……」

「無駄ですね」


 すると、背後に現れたラムエルテが鎌を振るう。

 シャドウは何とか躱すが、壁や地面から伸びた『鎖』がシャドウの両手両足に絡みつく。

 そして、背後に現れたラムエルテが、動けないシャドウの背中を鎌で抉った。


「ぐっぁ!?」

「ふむ。二代目ハンゾウの血も普通に赤いのですね……味はどうでしょうか」


 ラムエルテが鎌をペロペロ舐め、舌に付いた血を咀嚼するよう口をモゴモゴさせる。


「うーむ……実に濃厚」


 両手が拘束され印が結べない。

 シャドウは手首を反らしてリストブレードを展開。同時に、飛び出した刃が影の鎖を断ち切った。

 片腕が自由になるが、すぐに別な鎖が腕に絡みつく。


(くそ!! こいつの腹の中で戦ってるようなモンだ。まずは脱出しないと!!)

「申し訳ないですが……あなたは逃がしませんので」


 シャドウの考えが読まれたのか、飛んでくる鎖の数が増えていく。

 シャドウは冷静に、痛みを堪えつつ分析した。


(黒い鎖。こいつの魔法式は『影』……こいつ自身、この黒い影の中を移動できる。だが鎖の強度は大したことがないのが救い……さっき火遁で燃やしたけど、熱には弱い)


 火遁なら勝機はある。

 だが、印を結ぶチャンスがない。

 シャドウは背中がズキズキするのを堪え、チャンスを待つ。

 いつの間にか、全身に鎖が絡みつき、身体中に鎌による切り傷が刻まれていた。

 血だらけになり呼吸も荒い。痛みで気を失いそうになるが、シャドウは堪える。

 一つだけ思いついた作戦……その実行のために、今は耐える。


「フフフ……さあ、どうしますか? 手がないなら終わりにしますが」

「……ふん。なめるなよ」


 シャドウは笑った。

 すると、壁の『黒霧』から現れたラムエルテが、シャドウに近づく。

 

「強がっても身体は限界のようで。フフ、その出血では意識も朦朧としているでしょう?」

「…………」

「では、殺す前に……お顔を拝見」


 ラムエルテが手を伸ばし、シャドウのフードを外し、マスクを剥いだ。

 露わになる素顔を見て、ラムエルテが首を傾げる。


「ああ、キミでしたか……覚えていますよ、シャドウくんでしたか。アルマス王国の男爵でしたねぇ」

「…………」

「ふふ、いい目をしている。さてさて、ハンゾウとの繋がりも気になりますが──」


 ◇◇◇◇◇◇


 次の瞬間、シャドウは口に含んでいた『毒霧』をラムエルテの顔に噴射した。


 ◇◇◇◇◇◇


「っづぅ、ァァァァァッ!?」


 ラムエルテの顔が、目が焼けた。

 顔を押さえ、目を押さえ、ラムエルテが悶絶する。

 黒霧が消え、シャドウの拘束も消える。


「はぁ、はぁ……賭けだった」


 シャドウも限界が近かった。

 何とか意識を保つために、普段は敵相手に必要のない会話をする。


「お前ならきっと、殺す前に俺の正体を確かめるため近づくと思ってた。案の定だった……お前に拘束される前に口の中に丸薬を仕込んで、唾液と混ぜて溶かしていた。知ってるか? これは、師匠が作った毒のレシピを、仲間が改良した毒だ。皮膚に付けば皮膚が溶け、目に付けば眼球が焼ける猛毒。俺は事前に解毒剤を飲んでいたから何ともないけどな……」


 シャドウは「ペッ」と口の中に残った毒を吐き出す。

 そして、室内の『黒霧』が不安定になり、消えかけていることに気付いた。


「お前も、もう魔法を維持する余裕がない。今こそ───師匠の願いを叶える時!!」


 シャドウは印を結ぶ。

 十二の形から成る『十二支印』を組み合わせ、九つから成る『九字護法印』を合わせることにより、魔法式の代替となる『忍道二十一印』を結ぶ。

 地水火風光闇雷の七属性だけじゃない。印と属性を組み合わせることで、シャドウはさらにオリジナルの属性を生み出した。

 

「寅、寅、辰、臨、闘───火、火、風、雷」


 シャドウは手をラムエルテに向ける。

 すると、掌に火球が現れ、風の力で増幅され、さらに雷を帯びる。


「嵐遁、『雷火旋風(らいかせんぷう)の術』!!」

「ッぎぇぁぁァァァァァァ───ッ!?」


 熱を雷を帯びた竜巻が、ラムエルテに直撃。

 身体が燃え、電撃を浴びたラムエルテが吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。そして、壁を突き破り演習場の木々に激突した。

 それでも、ラムエルテは生きていた。

 ボロボロになりつつも、身体を起こし手に『黒霧』を生み出そうとしている。だが、モヤが現れるだけで完全な霧にならなかった。

 そして、シャドウがゆっくりと近づいて来る……リストブレード展開し、ラムエルテの傍まで来た。

 ラムエルテは諦めたのか……靄を消し、ニヤリと笑う。


「ああ……私の負けですね。眼も見えず、身体が動かない。くはは……何ともまあ、つまらない最後です」

「…………」


 シャドウは無言で、ラムエルテの首にブレードを刺す。

 

「コぁ……ぁ」

「……さよなら、先生」

「……ぁ」


 焼けて真っ白になった眼は、しっかりシャドウを見据え……どこか嬉しそうに笑った。

 黄昏旅団所属『死神』ラムエルテ。

 その最後は暗殺者としてなのか、教師であり司書としてなのか……それは、シャドウにもわからなかった。

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