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黄昏旅団所属『死神』ラムエルテ②

 シャドウは内心、本気で焦っていた。


(くそ!! 先手を打たれた。影世界? 影? 外が暗い……夜じゃない。魔法による何かが寮を覆った? 自分を倒せば解除される? ラムエルテはどこかにいる? クラスメイト……今は一学年が揃って領内待機。一人一人が標的になっている。俺だけじゃカバーできない。ヒナタ、ルクレ……ダメだ、無理だ!!)

「シャドウくん」


 と、冷や汗を流しているシャドウに、ラウラが言う。


「状況を把握しないと。見て、外」

「あ、ああ」


 落ち着いていた。

 この落ち着き、とても十六歳の子供ではない。

 ヒナタは改めてラウラを警戒。とりあえず、シャドウは窓に近づく。


「窓は……開くな。外は……黒い。でも、夜の闇というよりは、黒いモヤみたいなのが寮全体を覆っている……のか?」

「さすがに触るのは危険かと……」

「わかってる。問題は、このモヤが魔法によるもので、ラムエルテとかいうヤツ(・・・・・・)が仕掛けた何かってことだ」


 一応、ラムエルテの名を始めて知ったように言う。

 ラウラも近づき、影をジッと見た。


「魔法、だね。この魔力の色(・・・・・・)は、どこかで見た記憶あるかも」

「……魔力の、色?」

「うん」


 猛烈に嫌な予感がしたシャドウは、思わず目を開いてラウラを見る。

 そして、シャドウにだけ聞こえるような声で、ポソッと言った。


「わたし、生まれつき『魔水晶の瞳(マクォーツアイ)』……魔力を色で判別することができる目を持っているの。このことは、わたしと死んだお母様しか知らない……ふふ、シャドウくんで三人目だね」

「なっ……」

「だから、知ってるの。授業で見たシャドウくんの魔力と、ハンゾウの魔力。全く同じだったから」


 完全に、シャドウは油断していた。

 魔水晶の瞳。魔力を判別することのできる目。

 数世代に一人出るという異能。師であるハンゾウから聞いていたが、『出会う確率はゼロに近い』と言っていたし、ハンゾウの残した手紙にも黄昏旅団のメンバーに魔水晶の瞳を持つ者がいるとは書かれていなかった。


「シャドウくんのこと、ずっと気になってた。少し前……クオルデン王国からアルマス王国に戻る途中、盗賊たちの死体があった。最初は同士討ちか何かってソニアが言ってたんだけど……そこに残っていた魔力がシャドウくんと同じだと思ったの」

「…………」

「それで、シャドウくんに聞こうと思ってお話したんだけど……あの襲撃で、やっぱりそうなんだな、って」

「…………」


 もう、誤魔化せない。

 後ろを確認すると、ヒナタがルクレと一緒にソニアと話をし、ヒナタが小さく頷くのが見えた。どうやら、ソニアを引き付けているようだ。

 シャドウは小さく息を吐く。


「それで、目的は」


 自然と、敵対するような声になった。

 ラウラは慌てて手を振る。


「ち、違うの。わたしはただ、助けてくれたお礼がしたかっただけなの」

「……悪いが、俺のことを知った以上、お前もこれから監視下に置く」

「ま、待って。おねがい、そういうのじゃないの。シャドウくんがどんな目的があるのか気にはなるけど……でも、助けてくれた恩人に変わりはないの」

「何も知らなければ、お前とは友達でいれた。でも、もう無理だ。俺、ヒナタの目的の邪魔となる可能性は潰しておきたい」

「えっと……」

「お前が敵に捕まって拷問を受け、俺の正体が『ハンゾウ』だって漏らす可能性がある時点で、お前はもう友達じゃない。俺の監視対象だ。俺に関する情報を流した時点で始末しなくちゃいけない」

「……そっか」

「忘れろとは言わない。これからは言動に気を付けるんだな」


 シャドウは窓を閉じ、ラウラに言う。


「今は、この状況を打破することが優先だ。それと……この敵、ラムエルテがお前に対して『ハンゾウ』についての情報を引き出そうとした時、お前を殺す」

「……シャドウくん」


 シャドウは冷たい目でルクレを見据え、窓から離れるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 少し経過すると、寮内の廊下で騒ぎ声がした。


「ハンゾウ!! 出てこいや!!」

「お前の責任だ!!」「くそ、なんでこんな!!」

「敵はどこだ!!」「正々堂々勝負しろ!!」


 恐怖し叫ぶ者、この事態を収拾し『英雄』を目指す者、責任をハンゾウに取らせるため捜索する者……それらが動き出したのである。

 そんな中、聞き覚えのある声が。


「ハンゾウ様~!! あなたのシェリアがここに!! どうか姿をお見せになってぇ~!!」


 シェリアの声。

 シャドウはその甘ったるい猫なで声に怖気がしたが、ラウラが「あはは」と笑ってシャドウを見る。そして、ドアを開けると同時に、ドアの前を通ろうとしていたシェリアを引っ張り込んだ。


「きゃあ!? な、何を……って、あなた」

「シェリアちゃん、そんな叫んでもハンゾウは来ないって。それより、この状況をみんなで何とかしなきゃ!! 私たちクラス委員で!!」

「はあ? って……まさかここ」

「……俺の部屋だよ」

「……うう、初めての異性の部屋が、血の繋がっていないお兄ちゃんの部屋なんて!!」

「うるさい。というかお前、廊下で馬鹿みたいに騒ぐな」

「はあああ!? バカですって!? あなた、ハンゾウ様を呼ぶ私を馬鹿と!? ふん!! わたくしの婚約者を侮辱するような発言は、わたくしへの挑戦と捉えますからね!!」

「……頭痛してきた」


 シャドウは今日一番のデカため息を吐く。

 ラウラは苦笑して言う。


「あとは、ユアンくんがいればだけど……」

「殿下は寮にいませんわよ。指の骨折で医務室に泊まっていますわ」

「そっかー……じゃあ、ここにいる五人で何とかしなきゃ、だね!!」


 気合を入れるラウラ。シェリアは半眼でラウラを見て、つまらなそうに言う。


「悪いけど、勝手にやってくださる? わたくしはハンゾウ様をお迎えするために着替えて参りますわ。ふふ、新しい下着を用意した甲斐があったわ!!」


 シャドウは吐き気がした。血は繋がっていないが、こんなにも馬鹿な妹だとは思っていなかった。

 するとラウラ。


「ふふふ、シェリアちゃん……ハンゾウ様を待つなら、ただおめかしして待つより、ハンゾウ様の役に立つよう頑張って待つ方がよくない?」

「……む」

「ハンゾウ様もきっと喜ぶよ? この事態を何とかするのはハンゾウ様には楽勝だけど、その手助けをすればハンゾウ様はシェリアちゃんのこと見直す……ううん、惚れ直すんじゃないかな?」

「───!!」


 シェリアはフッと微笑み、髪をぱさっとかき上げた。


「いいでしょう。リーダーはこのわたくしが務めますわ!! さあ、敵を倒しますわよ!!」

(こいつマジの馬鹿だ)


 シェリアには多少の恨みはあったが……今はその恨みが消え、どこか憎めない馬鹿と思えるようになったシャドウであった。


 ◇◇◇◇◇◇


 状況確認。

 現在、男子寮と女子寮の周辺に漆黒のモヤがまとわりついている。

 生徒何人かが魔法でモヤを攻撃したが、全て弾かれた。

 土属性の魔法師が地面を掘っての脱出を試みたが、少し地面を掘ると地面からもモヤが現れた。

 そして領内に、黒いフードを被った何者かが現れ、煙のように消え去った。


「以上、私が集めた情報です」


 シェリアが協力することになってから三十分。

 ヒナタが「すぐ戻ります」と出て戻ってくると、これだけの情報を持ってきた。  

 ルクレが興奮したように言う。


「ひ、ヒナタちゃん、すごい……!!」

「生徒たちに話を聞いただけですよ」


 情報収集にかけて、ヒナタの右に出る者はいない。

 ヒナタを仕込んだハンゾウですら、その情報収集能力に驚いていた。


「問題は、教師が誰もいないことです。今の状況では、生徒同士の内乱に発展しかねません……誰か、この状況を打破することのできる者が必要かと」

「それなら「私がやるよ」……は?」


 シェリアが立とうとしたが、ラウラが立つ。


「本当なら、第二王子のユアンくんがいればいいんだけどね。私はアルマス王国の王女だけど、いちおうは王族だしね。私が、みんなをまとめてみる」

「む、むむぅ……理にかなっていますが、ちょっと癪ですわね」

「ソニア。手を貸しなさい」

「はっ!! お嬢……いえ、姫様は私が守ります」


 ソニアが跪き、騎士としての顔になる。

 

「では、私は引き続き情報収集をします。ルクレ、あなたも手伝ってください」

「わ、わたしも?」

「一人では難しいこともあるので。では……」


 ヒナタはルクレを連れ、シャドウに会釈して出て行った。

 その会釈には「ラムエルテをお願いします」という意味も込められている。

 

「じゃあ私も行くね。生徒は……中央食堂に集めるから。シャドウくんたちも後から来て」

「ああ、わかった」


 ラウラ、ソニアも部屋を出ようとして……ラウラはシャドウを見た。


「私、精一杯頑張るから。シャドウくん……信じて(・・・)

「…………」


 それだけ言い、ラウラは部屋を出るのだった。

 残されたのは、シャドウとシェリア。

 シェリアはシャドウをチラッと見て、からかうように言う。


「ふふん。お兄ちゃん、お姫様と何かあったのかしら?」

「……まあな。というか、お兄ちゃんって言うな」

「ふん、誰をどう呼ぼうとわたくしの勝手。血は半分しか繋がっていないけど、あなたは私の兄なんだから……魔法を使えるようになったのなら、ハーフィンクス家に戻れるよう、わたくしが口添えしてもいいのですよ?」

「…………」


 言ったことを後悔するような、そんな声だった。

 でも、シェリアは言った。その言葉は間違いなく、シャドウを気遣ったような言い方だ。

 シャドウは笑った。


「ははっ……悪いけど、ハーフィンクス家に未練はない。そもそも知ってるのか? 俺は追放されたんじゃなくて、殺されかけたんだぞ」

「……え? アルマス王国に送られたんじゃ」

「…………まあいいか」


 どうやらシェリアは『真実』を知らない。シャドウにはそれだけでよかった。


「そういえばお前、従者は?」

「メイドなら部屋に待機していますわ」

「そうか。よし……行動開始するか」

「ええ!! ハンゾウ様のために!!」


 どこか嬉しそうに部屋を出るシェリアを見て、シャドウはため息を吐くのだった。

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