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黄昏旅団所属『死神』ラムエルテ①

 非公式魔法組織『デロス』の襲撃。

 狙いは新入生。そして、現魔法使いに対する宣戦布告であり、今の魔法を担う貴族たちを狙った事件であった。

 貴族の子供たちを狙うことで『我々はいつでもお前らの子供を殺せる』というメッセージであり、子供たちを預けていた貴族は学園に対する抗議、賠償を求めた。

 しかし……真の狙いはそこではない。

 シャドウは、ルクレとヒナタを部屋に呼んで話をしていた。


「狙いは『風魔七忍』を炙りだすため……それだけのために『魔術師』と『節制』を使った事件を起こしたんだ」

「……申し訳ございません。全て、私のミスです。私が不用意に『死神』に近づいたばかりに……」


 ヒナタが謝罪するが、シャドウは首を振る。


「俺だって接触した。というか、調査を始めた時点で、こうなる可能性はあった。それに……不可抗力とはいえ、組織の人間を二人も倒せたんだ」

「すごかったですよね、シャドウくん……ちょっと恥ずかしかったですけど」

「……す、すまん」


 シャドウは謝罪……というか、女子が狙われたので講堂に飛び込んだら全員裸だったなんて、想像すらしていなかった。

 そして、さらなる問題も。


「とりあえず、ラムエルテ……『死神』はゲルニカ先生と確定だ。向こうも俺たちの調査をしてるっぽいし、さっさとケリ付けないと」

「これからどうしますか?」

「わかりやすく挑戦状でも出すか、それとも暗殺か……」

「あ、あんさつ……」


 ルクレがゴクリと唾を飲み込む。

 まだアサシンですらない、魔法の訓練を始めたばかりの少女には重い言葉だった。

 三人は少し黙り込むと、ルクレが言う。


「学園も大変な状況だよね……シャドウくん、大丈夫なの?」

「まあ、あんな事件起きれば仕方ないさ。とりあえず、俺に繋がる証拠は何もないよ」


 学園は、臨時の休校となった。

 事件の調査が学園教師の主導で始まり、『デロス』の実態や首謀者であるプロシュネ、アドラメレクの行方を探している。

 だが、二人とももう存在しないので調査は厳しい。シャドウの読みでは、数日のうちに学園が再開されると踏んでいる。

 しかし、ルクレの不安は別にあった。


「あのね、女子寮でシェリアさんがずっと『ハンゾウ様』についてお喋りしてるんだけど……大丈夫かな」

「…………」


 この一件で、『ハンゾウ』の名と存在が公になってしまった。

 女子の前で堂々と戦ってしまい、さらに七属性を合わせた『混遁』の忍術まで使ったのだ。

 現在、女子の間で『七属性の魔法式を宿した天才』や『顔を隠した暗殺者』や『シェリアの婚約者』と、わけのわからない話になっている。


「申し訳ございません。私ではうまく話題を反らすことができなくて……」

「ま、まあ仕方ないよ。というか、シェリアの婚約者って何だよ……」

「あはは。シェリアさん『私の裸を見せた相手』とか『運命の人』とか言ってるけど……それに、ラウラさんも気にしてるみたい」

「……うーん」


 シャドウはため息を吐いた。

 どうしようか悩んでいると、ドアがノックされる。

 ヒナタが立ち上がって出ると、そこにいたのはラウラだった。


「やっほー、シャドウくんいる?」

「いますが……何か御用でしょうか?」

「その、お茶でもどうかな……って。あ、外出禁止だけど寮間の移動は大丈夫なの。お茶も、茶器一式を持ってきたからさ、どう?」


 ヒナタがシャドウをチラッと見る。

 とりあえず頷くと、ヒナタがソニアと一緒に入って来た。


「あれ? ルクレツィアさん?」

「こ、こんにちは」

(やべっ……ルクレのこと忘れてた)


 関係を問われたら面倒なことになる……と、シャドウは思ったが。


「よかった。お茶菓子多く持ってきたんだ。ソニア、お茶の準備お願いねっ」

「かしこまりました」

「シャドウくん、ルクレツィアさん、ソニアの淹れるお茶は絶品だから期待しててね」

 

 ソニアは少し照れ、慣れた手つきでお茶を淹れる。

 独特な、どこか甘い香り。アルマス王国産の茶葉を使った紅茶で、お菓子はクッキー……どうやらて作りのようだ。

 ヒナタは、自分の部屋から小さなテーブルを持ち、クロスを引く。

 そして、どこから出したのか椅子も用意すると、ソニアの支度も終わった。

 ヒナタ、ソニアが顔を見合わせると……互いにフッと笑う。


「やりますね」

「あなたも」


 意味不明なやり取りだったが、どうやらお茶の支度に関してわかり合えたらしい。

 椅子に座り、五人でお茶を楽しむと、ラウラが言う。


「そういえば、シャドウくんとルクレツィアさん、仲良しだったんだね」

「まあ……いろいろあって」

「そ、そうなんです!! シャドウくんに親切にしてもらって」

「そうなんだ~、シャドウくんは優しいもんねぇ」


 ニコニコするラウラ。

 そして、本題とばかりに言う。


「そういえばシャドウくん知ってる? 非公式魔法組織『デロス』を潰した、天才魔法師ハンゾウの話」

「あー……噂になってるよな」

「そうそう。目の前で見たけどすごかったんだ~……七つの属性を起動して、融合させて、ぶわーっと放つ魔法。悪い人、消えちゃった」

「消えた?」

「うん。白い光が輝いた瞬間、消えてたの……あれ、何だったのかな」

「女子の方は大変だったみたいだな」

「うん。『魔術師(マジシャン)』とか名乗ってたけど……どういう意味だかわかる?」

「さあ……なんだろうな?」

「……私が思ったのは《称号》なんじゃないかなーって。なんとなくだけど、ハンゾウは『魔術師』みたいな人たちと戦ってる気がする。ずっと前から一人で……」

「…………」


 危険だ、こいつ。

 シャドウは直感で悟る。近い将来、ラウラはシャドウがハンゾウということに辿り着く。

 そうなる前に、消すべきかもしれないと思った。

 

「私、もう一度ちゃんとお礼言いたいなー」

「……アテはあるのか?」

「ううん、何もない。でも……すごーく強いことは知ってる」

「そうか。じゃあ、お礼言えるといいな」

「うん。シャドウくんも、ハンゾウ様を見つけたら教えてね」


 ラウラは微笑み、シャドウも微笑んだ。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 そんな時だった。

 部屋に差し込んでいた外の光が消えた。

 

 ◇◇◇◇◇◇


「えっ?」

「姫様!!」


 驚くラウラ、ラウラを守るように前に出るソニア。

 警戒するヒナタと、怯えてキョロキョロするルクレ。

 そして、シャドウ。


『初めまして……一年生諸君』


 聞こえてきたのは、くぐもったような声。

 

『私はラムエルテ。きみたちを『影』の中に閉じ込めました……』

「か、影? くそっ……どういうことだ!!」

「ソニア、落ち着きなさい」


 ラウラは落ち着いていた。

 すると、室内に声が響く。


『さて、なぜこんなことをしたのか? 答えは簡単……風魔七忍のハンゾウ、キミに興味があるからですよ。ああ、新入生の諸君も知っておいた方がいい……先日の襲撃を救った英雄ハンゾウは、一年生の中にいます』


 シャドウは舌打ちしたくなった。

 これで、一年生の中に『ハンゾウ』がいると知られてしまった。

 敵からすれば、『ハンゾウ』がどこに属していようが、それをバラされようが関係ない。むしろ、シャドウの足枷となるなら、喜んでバラすだろう。

 

「ハンゾウが、一年生の中に……やっぱりそうなんだね」


 ラウラがポツリと言った。

 その視線の先は、シャドウに向けられている気がした。


『さて、ハンゾウ……この状況でキミはどう動く? この『影世界(ナイトメア)』を解除するには、この中にいる私を倒すしか方法がない。ククク……非情になりきれるかな?』


 それだけ言い、声が消えた。

 こうして、始まってしまった。

 あまりにも不利な状況で、シャドウと一年生全員を巻き込んだ、黄昏旅団所属にして元風魔七忍の一人『死神』ラムエルテとの戦いが。

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