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黄昏旅団所属『節制』プロシュネ①

 目の前にいる『教師』は、にこやかに一礼した。


「では自己紹介を。私は『節制(テンパランス)』のプロシュネと申します」

「───!!」


 『節制(テンパランス)』。

 黄昏旅団の一人。元風魔七人の弟子。

 オールバックの黒髪から一房だけ神が出ており、眼は糸のように細い。

 口が裂けるような笑みを浮かべ、事態を飲み込めておらずドヨめく生徒たち向かって指を向ける。

 そして、あり得ないほど大きな指パッチンをすると、生徒たちの身体がビクッと震えた。


「お静かに」


 殺気。

 その威圧感に、ほとんどの男子が飲まれた。

 真の暗殺者の殺気。裏の世界を知らない、同級生に対しイキるだけの子供が耐えられる圧ではない。

 シャドウは、圧に潰れたフリ(・・・・・・・)をした。


(……強い)


 パワーズとは桁違い。

 指パッチンだけでわかった。尋常じゃないほど鍛え抜かれた『指』の力。

 すると、隣にいたユアンがゆっくりと手を挙げた。


「あ、あの」

「ん? あなたは?」

「ぼ、ボクは……クオルデン王国第二王子ユアン。こ、これは一体何の真似だい? こんなことをすれば、王立騎士団や王立魔法師団が間違いなく動く。それに、城には『虹色の魔法師(アルコバレーノ)』だっている……い、今なら、罪が軽くなるように、ボクから」


 と、ここまで言った時。プロシュネがパチパチと拍手をした。


「お優しい坊ちゃんだ。でも……一つ、勘違いをしています」

「え……」


 すると、いつの間にか接近していた補助員の一人が、ユアンの背後から腕を掴んで捻り上げた。


「ぐぁっ!?」

「王立騎士団? 魔法師団? アルコバレーノ? その程度、我らが恐れるとでも?」

「な、なんで……」

「これは実験なのです。我々に敵対する『子供』を炙り出すための、ね。それが師の望み」

(……!!)


 敵対する子供。

 そう言われ、シャドウは一瞬で理解した……自分のことだと。

 シャドウの正体までバレたわけじゃない。ヒナタとの接触から敵を『子供』と、そして新入生の中にいると過程し、騒ぎを起こして炙り出す『実験』……シャドウは理解した。


(間違いない。こいつら……二年、三年が学園にいない隙を狙って来やがった。恐らく……いや確実に、女子たちのところにも幹部級がいる)


 プロシュネが指を鳴らすと、補助員がユアンの手を引いてプロシュネの前へ。

 

「乱暴ですみませんね。ああ、彼らの紹介も。こちら、『魔術師』の保有する非公式魔法組織『デロス』の皆さんです。ふふふ、知っていますか?」

「ひ、非公式魔法組織……」

「ユアンくん。あなたは知っていましたねえ。『魔法は貴族だけのものではない』と掲げ、魔法の才能がないと捨てられた貴族の子孫が立ち上げた組織です。ふふ」

「……ほ、本気なのかい? 本気で、こんなことをして……く、クオルデン王国を敵に回すのかい!?」


 ユアンが叫ぶと、プロシュネがクスクスほほ笑む。

 そして、ユアンの人差し指を摘まむと、ベキッとへし折った。


「ぐあああああああああああ!?」

「もちろんです。ふふ、痛みを知らない貴族のお坊ちゃんの悲鳴は素晴らしいですねえ……アドラメレクも楽しんでいるでしょうか?」


 生徒たちは声も出せず、ただ青ざめた。

 シャドウも青ざめる演技をし───冷静に考える。


(……まだ印は結べない。こいつら、二十人しかいないくせに、一人一人を冷静に『監視』してやがる。せめて一秒……俺への注意が逸れたら)


 ユアンがどうなってもいい。

 問題は、シャドウが印を結ぶことで正体が露見すること。

 一筋の汗が流れる。


(女子……ヒナタ、ルクレは)


 そう考えた時、一瞬だけ楽しそうにシャドウの腕を引くラウラが思い浮かぶ。

 できることなら、助けたい。

 危険を犯し、確実にこの場にいる全員を殺すと決意し、印を結ぼうとした時だった。


「おうおうおう!! 黙って聞いていれば、勝手なこと言ってんじゃねぇぞ!!」

「……?」


 いきなりデカい声で、拳を振り上げる男子生徒がいた。

 深紅のツンツン頭に、なぜか着ている運動着を脱ぎ捨て上半身裸になる。

 十六歳にしてはかなり鍛え抜かれた肉体をしており、プロシュネ、そして周りの二十人に拳を向けながら前に出た。


「オレはレックス!! こんな卑怯な真似しねぇでタイマンしろや!! おうおう、タイマンだ!!」

「……ふむ。学園にいるということは貴族なんでしょうが、品位にかけますね」


 ◇◇◇◇◇◇


(───今!!)


 ◇◇◇◇◇◇


 全員の視線がレックスに向いた瞬間、レックスは高速で印を結ぶ。

 そして、軽く地面を踏むと同時に心で叫んだ。


(鋼遁、『鋼棺(はがねひつぎ)の術』!!)


 術が発動した瞬間、八十名の生徒たちの足元から『鉄の棺』が現れ、全員を飲み込んだ。


「なっ」


 これにはプロシュネも、デロスの構成員たちも驚く。

 土に含まれる鉄分を取り出し固め、魔力により補強する。シャドウオリジナルの属性『鋼』による拘束忍術。

 大きさは棺桶よりやや大きい。頭頂部に少しだけ空気穴が空いており窒素の危険性はない。

 いきなり現れた『棺桶』に、生徒たちが驚き絶叫した。


「プロシュネ様!!」

「慌てるな。どうやら、実験は成功のようですね」


 どこか落ち着いたプロシュネ。

 その時───棺桶の一つが砕け散る。


「…………」


 そこにいたのは、一人の『暗殺者(アサシン)』だった。

 黒いコートにフード、口元はマスクで隠し、首にはマフラーを巻いている。

 腰には刀を差し、僅かに見える目元は氷のように冷え切っていた。


「確定ですね。一年一組男子……この中に『風魔七忍』ハンゾウがいる」


 プロシュネは構えを取る。

 シャドウは右手の人差し指と中指を立て、顔の前に持ってきた。


「ククク、ではお相手願いましょう。ああ、一対二十一なんて卑怯なことはしません。そもそも、この二十人……なんのためにいると思いますか?」


 プロシュネが指を鳴らすと同時に、二十人が一斉に逃げ出した(・・・・・)


「風魔七忍は一年一組男子!! わが師『死神(デス)』に報告を!!」

「───!!」


 戦闘員ではなく、連絡員。

 二十人が、一人も同じ方向に逃げることなくバラバラに散った。

 同時に───シャドウは手裏剣を両手に二十枚持ち、一斉に投げる。

 そして、複雑な印を結び、小声で言う。


「磁遁、『手裏剣乱舞(しゅりけんらんぶ)の術』」


 投げた手裏剣の速度が上がり、さらに複雑な動きをしながら二十人を追う。

 地中にある鉄を操作できるなら、すでにある鉄を操作できるはず。

 その発想から、土遁と雷遁を併用し『磁』の属性を生み出した。

 手裏剣は、逃げた二十人の頭に深くめり込んだ。二十人は一斉に倒れ……全員、死んでいた。

 プロシュネの口元がヒクヒク動く。


「忍術……指の組み合わせで魔法式を再現することで、魔法式を刻むことなく全ての属性を再現する……言うのは簡単ですが、行うには馬鹿げた量の魔力が必要になる。こんなことができるのはハンゾウか、我らのボスくらいかと思いましたが」


 シャドウは喋らず、腰の『夢幻』を抜いて構える。


「いいでしょう。このプロシュネの力をお見せしましょう」


 プロシュネは指をゴキゴキ鳴らし、ゆっくりと構えを取った。

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