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黄昏旅団所属『魔術師』アドラメレク①

 魔法は、心技体に影響する技術。肉体が未熟なら魔力行使に負担が掛かることもあるので、学園では座学、魔法学の他に身体学……身体を鍛える授業もある。

 授業は選択制であり、武器を使う物もあれば、武術を習うところもある。

 一年生では、二十以上ある身体学から三つほど選び学ぶことになる。


 本日は、身体測定と体力測定。

 これらのデータをもとに、二年後、三年後のデータを比べるのだ。

 シャドウは、学園支給の体操服を着て、第一訓練場にいた。

 シャドウだけではない。一年一組から五組までの男子が揃った状態だ。

 すると、ユアンが近づいてきた。


「や、シャドウ」

「あ、どうも」

「……そう他人行儀にしなくていいよ。そりゃ宣戦布告はしたけど……その、ボクさ、こんな立場だし、同世代の友人とかいないから……きみさえよければ、その」

「……じゃあ、普通に話す。ユアンって呼んでいいか?」

「───も、もちろん!!」


 ユアンは嬉しそうに笑った。

 友人。しかも、クオルデン王国の第二王子。

 あまり目立ちたくはないが、友人になりたいと向かってくる男子を邪険にしないくらいは、シャドウも暗殺者としては甘かった。

 シャドウは聞く。


「えっと、五組ずつ男女に分かれての身体測定と体力測定だっけ」

「うん。六組から十組までの男子は、第二保健室で身体測定を受けてるよ」

「第二保健室ねぇ……この学園、広いし教室多すぎる」

「あはは、確かにね……ちなみに、保健室は第六まであるよ」


 多すぎる。

 学園の敷地は地方の大きな街ほどあるとは聞く。

 ヒナタの集めた情報の一つに、二年に一度、地下モールに出店する権利を賭けて、商会同士の過酷な戦いがあるとかないとか。

 

「今日は、二年生はダンジョン研修、三年生は野外訓練でいないからさ、ショッピングモールも空いてると思う。これ終わったら夕食でもどうだい?」

「いいよ。あ、従者も連れてくるけどいいか?」

「もちろん。ボクも従者を連れて行くよ」

「……そういえば、ユアンの従者って見たことないな」

「いちおう、同じクラスだよ。特殊な訓練を受けてるから、気配を殺すのが得意なんだ」

「へぇ」


 特殊な訓練。

 シャドウは、その少女が少し気になった。

 存在は感じた。だが、自分を目立たなくさせることに長けているのか、シャドウですら見逃すことが何度かあった。

 相当な手練れ……第二王子の護衛は伊達ではない。


「あ、始まるよ」

「ああ」


 一組から五組までの男子の数は、七十人。

 それぞれクラスごとに並ぶと、教師が数名と、身体測定の補助員が二十名ほど入ってきた。

 全員男。だが……妙だった。


(……なんだ)


 殺気を感じた。

 それだけじゃない。この場にいる教師は、シャドウも見たことがない。

 入学前、シャドウはヒナタから『学園教師』の名前、似顔絵を重点的に記憶しておいた。事務員や清掃員など入れたらきりがないので、教師だけは覚えておいたのだが。


「えー……これから、身体測定を始めます」


 この、妙な殺気を放つ男は、いったい誰なのか。


(───……まさか、敵か)


 シャドウは、胸元に隠してある小さいアイテムボックスの位置を確かめる。

 このアイテムボックスの中に、さらにアイテムボックスを入れている。その中には装備一式が入っているが……着替える時間がない。

 嫌な予感は、現実となった。

 補助員が約二十名、整列しているシャドウたちを囲むように動く。

 この時点で気付いた生徒は、シャドウ以外にいなかった。


「全員、死にたくなければ動かないように」


 目の前にいる教師がそう言った瞬間、補助員たちが一斉に杖を抜き、シャドウたちに突きつけた。


 ◇◇◇◇◇◇


 一方、一年一組から五組までの女子生徒、合計八十名。

 女子たちは第二保健室……ではなく、第三講堂に集まっていた。

 数が多いので急遽、保健室から講堂に移動となったのだ。

 講堂内は広く、数々の身体測定器具が準備されている。そして、一人一人にカゴが渡された。


「ここに服を入れるんだね」

「……しかし、やや無防備ですね」


 講堂内は完全に封鎖されている。

 当然、窓は閉められており、扉も完全に封鎖されている。

 天窓は一つしかなく、今は内側から封鎖されているので、のぞくことはまず不可能。

 保険医師が三名、女性看護師が十名ほどいる。

 保険医師の一人が言う。


「それでは皆さん、服を脱いで、脱いだ服はテーブルに置いてください。ああ、下は履いてもいいですけど、上は脱いでくださいね」


 女子たちは上半身裸になり、下はショーツだけの姿になる。

 自然と、手で胸を隠す格好になった。

 

「……」

「ひ、ヒナタちゃん。胸、隠さないの?」

「両手を封じられては戦えないので」

「でもでも、普通の女子だったら隠さないと~……」

「……む」


 怪しまれる行動はしない。それが、学園での過ごし方。

 ヒナタはしっかり胸を隠すルクレを見て、渋々と自分も隠す。

 すると、どこかイライラしたようなシェリアが言う。


「まったく!! この私をこんな格好で……ちょっと!! さっさと初めて、さっさと終わらせないさいよ!!」


 教師に嚙みついていた……が、教師は何も言わない。

 ヒナタは、ピクリと眉を動かす。


「……」

「ひ、ヒナタちゃん?」

「……妙な気配を感じます」

「え?」

「……身体測定。そもそも、なぜ服を……下着まで脱がせて」


 まるで、両手を使わせないようにするのが目的のような。

 そして……ヒナタは察した。

 妙な気配が膨らむと同時に、制服を入れたカゴ(・・・・・・・・)が一斉に燃え上がった(・・・・・・・・・・)


「なっ!?」

「えっ!?」


 驚くヒナタ、ルクレ。

 そして生徒たちが驚く中、パンパンパンと手を叩く音が響く。


「はいはいは~い……ほうほう、最近の女の子は発育いいねぇ? おっさん、ヨダレ出そうだぜ」


 どこからともなく、白衣を着た男が現れた。

 ドブのような髪色がオールバックでまとめられ、黒い丸眼鏡を付けている。

 身体付きは、元傭兵と言っても遜色ないほど鍛え抜かれており、長い舌をべろべろさせた。

 その男の登場に、女子たちが絶叫した───……が。


「うるっせぇぇぇぞガキが!! ブチ殺すぞゴルァぁぁ!!」


 殺気を込めた叫びに、建物が揺れた。

 窓ガラスにも亀裂が入り、女子たちが恐怖で震えだす。

 すると、男はニコニコと不気味にほほ笑んだ。


「あ~あ~……悪いなぁ、まだ殺しはしねぇよ。これから楽しい『実験』が始まるんだ。お前たちは人質で、ただ待ってるだけでいい」

「じ、っじ、っけん……?」

 

 男の殺気を浴び、それでもシェリアがポツリとこぼす。

 ガタガタ震えて粗相しているが、男はウンウン頷いた。


「そう、実験だ。ククク……さてさて、どうなるかね」


 男は指を鳴らすと、部下である女性たちがテキパキと椅子を用意。男は座った。

 そして、女子たちを舐め回すような目で見ながら言う。


「オレは『魔術師(マジシャン)』のアドラメレク。さぁさぁ、おっさんと楽しい時間、過ごそうぜ」

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