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正体

 シャドウは一人で、ラウラとユアンに連れられ、ショッピングモールにある飲食店にいた。

 店内には四人しかいない。

 シャドウ、ラウラ、ユアン、そしてシェリアの四人。

 ラウラは、グラスを手に嬉しそうに叫んだ。


「では!! 一年一組のクラス委員親交会をはじめま~す!! かんぱいっ!!」

「か、かんぱいっ」

「乾杯」

「かんぱーい」


 ラウラに合わせ、やや緊張気味のユアン、シャドウ、やる気のなさそうなシェリアがグラスを合わせた。

 中身はオレンジジュースで、シャドウは一気に飲む。

 料理が運ばれ、食事会が始まった。

 食事が始まるなり、ラウラは骨付き肉をモグモグ食べる。


「従者のみんなには悪いけど、今日は四人で楽しもうねっ!!」

「う、うん。そうだね」

「……ん」

「んふふ。ねぇねぇお兄ちゃ~ん……あたし、いろいろ聞きたいんだけど、いい?」


 シェリアがニコニコしながらシャドウを見るが、シャドウは無視……しようと思った。だが、後々面倒くさい絡まれ方をされても嫌なので、ここでシェリアとのケリを付けるつもりで言う。


「いいぞ。その代わり、聞きたいことを聞いたら俺に関わるな。お前らハーフィンクス家の連中は、俺にとって憎悪の対象ってことも忘れるなよ」

「なっ……何よそれ!!」


 シャドウは無感情だった。シェリアを見もしないで淡々と言う。

 するとラウラが手で制する。


「すとっぷ!! まーまー喧嘩しないで。そういえば私も、シャドウくんのこと知らないなあ」

「……ボクは別に興味ないけど」

「んふふ。殿下にお姫様も気になるぅ? まあ、ちょっと調べればわかることだけどねぇ」


 その通り。

 シャドウがハーフィンクス家を追放された経緯は、クオルデン王国の王子と、アルマス王国の王子が調べれば簡単にわかるだろう。

 なので、シャドウが言う。


「俺は魔力こそあるが、魔術回路が存在しない欠陥だったんだ。だからハーフィンクス家で冷遇されて、十五歳になって追放されたんだよ」

「ま、魔術回路が存在しないって……あ、あり得るのかい?」

「ああ。正確には、眠っていただけで、ちゃんと存在したけどな」


 正確には、ヘドロ以上に濃厚過ぎるシャドウの魔力が、シャドウの魔術回路に詰まり固まっていたせいだった……が、そんなことは言っても意味がない。

 

「でもでも、アルマス王国に来て、魔法を使えるようになったんだよね」

「ああ。クサナギ男爵のおかげでな」

「そっか~……クサナギ男爵、一度しか会ったことなかったけど、すごく優しい人だったなあ」


 ラウラがサラダをモグモグ食べながら言う……誰よりも食事を楽しんでいるようだ。

 すると、シェリアが言う。


「ね、お兄ちゃん。お姉ちゃんにお兄ちゃんのこと伝えたら、すっごく興味津々だったよ? 殿下は知ってるよね、お姉ちゃんのこと」

「……まあね。兄さんの婚約者だし、何度か会って食事をしたこともあるよ」

 

 その表情は、暗くも明るくもない……シャドウにはわかった。

 ユアンは、姉セレーナを嫌悪している。


「あ、私も知ってる!! 学園で三人しかいない『四種持ち』のお方だよね~、ユアンくんのお兄さんロシュフォール先輩の婚約者で、学園一の秀才カップル!! ん~憧れちゃうなあ」

「お姉ちゃんはすっごいんだから。ふふーん」


 姉を褒められ上機嫌のシェリア。

 

「ハーフィンクス家の天才姉妹、か」


 シャドウがポツリと言うと、ユアンがシャドウをチラッと見る。

 四種持ちの天才セレーナ、火属性の天才シェリア。

 そこに、シャドウの名前はない。全く気にしていないことだが。


「ま、お兄ちゃんのことはわかったし、もういいや」

「待て。俺から一つ」

「なに?」

「俺を『お兄ちゃん』って呼ぶな。気色悪いんだよ」

「なっ……」

「身内でもない人間にそう呼ばれるのは怖気がする。それと、お前の聞きたいことは終わったな? これからは俺の視界に入らないようにしろ」


 シャドウは立ち上がる。

 シェリアが震えていたが、完全に無視。


「あ、シャドウくん……」

「待った。ラウラさん、今は何も言わない方がいいよ……彼の立場になればわかる。ハーフィンクス家を恨むのは当然だろうし」

「……うん。シェリアちゃん、大丈夫?」

「……うるさい」


 シェリアも立ち上がり、ズンズンと店を出た。

 残されたのは、ラウラとユアン。


「みんな、仲良くできるといいのにな……よし!! ユアンくん、全部食べちゃおっか!!」

「う、うん……って、全部!?」


 ラウラと二人きりになれた喜びも束の間……ユアンはラウラにいいところを見せようと食べまくり、迎えに来た従者によって運ばれる醜態をさらすのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ヒナタは一人、夜の学園校舎の屋根に立っていた。

 気配を殺し、百メートル以上離れた位置から見つめる先にあるのは、第三図書館。

 図書館を観察していると、司書員が出てきた。


「……来た」


 司書員は一人じゃない。もう一人、司書長であるゲルニカもいる。

 司書はゲルニカに頭を下げ、別方向へ。

 ゲルニカも一人で歩き出した。


「……」


 ヒナタはフードを被り、マスクを付けて追う。

 尾行……ヒナタは、ハンゾウから暗殺スキルのいろはを叩きこまれた。

 忍術こそ使えないが、ハンゾウの開発したテンプレートである『変化の術』で他者に変身することで、潜入任務も行える。

 潜入、調査、尾行、裏工作。これに関してはシャドウでも歯が立たない。

 ハンゾウ曰く、『ヒナタの尾行を撒くのはほぼ不可能』とのこと。

 ヒナタは気配を殺し、音もなく進む。

 時間は夜。一般的に門限は夜の十時。現在はまだ八時過ぎなので、生徒の往来は多い。

 すれ違う生徒は皆、ゲルニカに頭を下げた。


(こうしてみると、普通の教師……でも)


 ヒナタは確信した……ゲルニカは、普通ではない。

 歩き方。それだけでわかった……あの歩き方は、特殊な訓練を受けた者の歩き方だ。

 ゲルニカが向かうのは、職員用の宿舎。

 校舎から離れた場所にあり、生徒用の寮よりも立派な建物である。


(……寮の敷地内に入っていく。今日は行動を起こさないのかも)


 ヒナタの胸ポケットには、ゲルニカの司書室で見つけた鍵のコピーがある。

 何気ない鍵……厳重に隠してあるのなら重要な物に違いないが、机の上にある小さなケースに、ポンと置かれていた。

 逆にこういうのが怪しいんだ……と、ハンゾウが笑いながら教えてくれた。


(……宿舎に入った。今日はここまでかな)

「お嬢さん、何か御用かな?」


 背筋が一瞬で凍り付いた───が、ヒナタは瞬間的に回し蹴りを放った。

 が、蹴りは空を描く。

 間違いなく、背後に誰かがいた。


「……ッ!!」


 ひたり……と、手がヒナタの肩に触れた。

 誰かいる。だが、ヒナタは視認できない。

 左右、上下、振り返る。だが、誰もいないのだ。


「……ははは」


 声がした方を向くと、そこにはいた。

 ゲルニカ。

 第二学年の教師。先ほどと同じ、司書の服装で。

 もう間違いない。この教師が『黄昏旅団』の一員だ。


「やれやれ、善良な教師を演じていたのだが……バレてしまったようだ」

「…………」


 戦うべきではない。

 今すべきことは、この情報をシャドウに届けること。


「きみも、『風魔七忍』の一人かね? ふむ……その名を知る者はもう、我ら以外にはいないと思ったが……ああ、ハンゾウの弟子か?」


 挙動、容姿、声ですら情報になる。

 逃げるための全力───そう、ヒナタはプロだ。

 腰のポーチから煙玉を出し、手裏剣を同時に投げる。


「ほう?」


 ゲルニカは人差し指を振ると、手裏剣の真ん中に空いた穴に指を通して受け止める。

 だが、同時に煙玉が爆発……周囲が煙に包まれた。


「ははは、逃げ足の速い……女の子のようだ」


 そこにはもう、ヒナタはいなかった。

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