ゲルニカ先生
ルクレツィアが仲間になった。
シャドウ、ヒナタは改めて自己紹介をする。
「改めて、俺はシャドウ。よろしく」
「ヒナタです。シャドウ様の従者をしています」
「る、ルクレツィア・ブリトラです……ルクレツィアって言いにくいから、ルクレって呼んでください」
三人はシャドウの部屋にて自己紹介。
ルクレは、前髪を少し切り、長い髪をゆるく三つ編みにして流していた。それだけでもだいぶ印象が変わり、ルクレは眼鏡も取る。
「その眼鏡……取るのか?」
「う、うん。顔を隠したくて付けた眼鏡だから……でも、もういらない」
そして、今後の方針を語る。
「とりあえず、ルクレ……は、『氷』を使わずに、授業で使う基礎的な魔法だけを訓練してくれ」
「は、はい……」
「ヒナタは、ゲルニカ先生の調査。俺も独自に動く」
「げ、ゲルニカ先生?」
「ああ。さっき説明した『黄昏旅団』の一員である可能性が高い」
「そうなんだー……図書館でお話した時は、普通の先生だったけど」
「……話したのか?」
驚くシャドウ、ヒナタ。
ルクレは「うん」と頷く。
「ゲルニカ先生、第三図書館の司書なんだって」
「第三、図書館?」
「うん。この学園広いでしょ? 図書館が七つあって、それぞれ教師が管理しているの。わたし、入学前に何度か入ったことあって、ゲルニカ先生ともご挨拶したから……」
「にゅ、入学前? 入学前に学園に入ったのか?」
「う、うん……その、名前を名乗ったら、入れてくれたの」
「……ブリトラ侯爵家の名前、ですね」
ヒナタが感心するように言う。
「司書なら司書室もあるでしょう……私はそちらの調査をします」
「よし。俺は生徒として普通に行ってみる」
「あ……じゃ、じゃあわたしも。借りていた本、返したいし」
こうして三人は、第三図書館に向かうことにした。
◇◇◇◇◇◇
その日のうちに、シャドウとルクレは図書館へ。
第三図書館はあまり大きくない建物で、蔵書の数も一万三千冊ほど。
「三千……って、少ないのか?」
「どうなんだろ? 第一図書館には七万五千冊あるって聞いたけど」
「……すごいな」
いまいちピンと来ないシャドウ。
とりあえず、二人で図書館に入ると、司書の教師がカウンターに座っていた。
「新一年生ですね。では、こちらに署名をお願いします」
「あ、はい」
「はーい」
ルクレは慣れた風に名前を書き、持っていた本を司書に渡す。
本の返却を終えると、シャドウに言う。
「……誰もいないね」
「まだ上級生は授業中だろ。こんな時間に来れるのは一年の特権かな」
「あはは、そうだね」
「……ルクレ。何度も言ったけど」
「うん、大丈夫」
怪しいことをするな、魔法を使うな、普通通りにしろ。
シャドウは何度もそう伝え、ルクレは何度もうなずいた。
そして、図書館内を二人で見回っていると。
「おや、ルクレツィアさん」
「あ、ゲルニカ先生。お疲れ様です」
「お疲れ様です。おや、そちらは……」
「シャドウと申します。よろしくお願いします」
図書館内を見回っていたゲルニカに遭遇……シャドウはペコっと頭を下げる。
ゲルニカは、シャドウをジッと見て頷いた。
「ああ……キミが例の」
「クサナギ男爵、ですか? それともハーフィンクス家を追放された、ですか?」
「ははは!! なかなか面白い子ですね……では、ゆっくりして行ってください」
「あの、ゲルニカ先生」
と、ここでルクレが挙手。
「先生おススメの本とか、教えて欲しいです」
「あ、俺も興味あるな……ゲルニカ先生が好きなジャンルの本は?」
「ほほう、私に聞きますか。ふふ、長くなりますよ?」
オールバックを撫でつけ、眼鏡をクイッと上げる。
近くの席に座り、シャドウは質問する。
「俺、読書は好きでいろいろなジャンルの本を読んでるんですけど……ピンとくるモノがないんですよね。伝記、図鑑、小説、歴史書は読みましたけど、ゲルニカ先生のおススメありますか?」
「そうですね……個人的には伝記をおススメしますね。偉人の半生を創作を踏まえて描かれているのを読むと、年甲斐もなくワクワクしますね」
次の瞬間、カウンターにいる司書に一瞬のスキを突き、ヒナタが侵入。
司書室のドアにぴったりくっつき、内部の気配を探りドアノブを回した。
「わたし、恋愛小説が好きで……ゲルニカ先生は、読んだりしないですよね」
「そんなことはありません。私は、文学全般が好きなんです。恋愛系も好きですよ」
ヒナタが侵入するのを確認。
シャドウは、ゲルニカとの話を引き延ばすため、本の話を続けるのだった。
◇◇◇◇◇◇
図書館から戻り、シャドウとヒナタとルクレはシャドウの部屋へ。
戻るなり、シャドウは言う。
「どうだった?」
「何もありませんでした。ですが……一つだけ、怪しいものが」
ヒナタが見せたのは、粘土だ。
だが、何かを押し当てたのか、形が歪んでいる。
「これは?」
「どこかの部屋のカギです。学園内で使用されているカギと規格が違ったので、念のため型を取りました」
「ゲルニカ先生、すごくお喋りだったね……わたし、すごく楽しかった」
「ルクレ。何度も言ったけど」
「わかってる。ゲルニカ先生、すっごく危ない暗殺者かもしれないんだよね」
「……ああ」
やはり、アサシンに相応しいとは思えないルクレ。だが、もう引き返せないし、捲き込むしかない。
シャドウは言う。
「ゲルニカ先生がアサシンなら、必ず自分の拠点があるはずだ。よく出入りする場所に関する痕跡もある、はず……」
「シャドウ様。私はこの鍵を複製し、調べてみます」
「ああ。俺とルクレは……」
と、言いかけた時だった。
『シャドウくーん、いるー?』
ドンドンドン……と、ラウラがドアをノック。
『ら、ラウラさん。そんなに強くノックしちゃ駄目だって』
『まあまあ。あのねー、クラス委員の交友を深めたいから、みんなでご飯行こー!!』
どこまでも無邪気な、ある意味学生らしい声に、シャドウは毒気を抜かれるのだった。