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クラス挨拶

 入学式が始まった。

 シャドウの隣にはヒナタ、そしてラウラ……だったが、ソニアが割り込んだ。

 壇上では、学園長が祝辞を述べている。


(クオルデン王立魔法学園、学園長。イノケンティウス・ディザイア伯爵)


 『虹色の魔法師(アルコバレーノ)』の一人にして、世界最高の『闇』魔法の使い手。

 王家から《(ニュクス)》の称号を賜った、四十代前半の男性だ。

 見てくれは魔法師だ。豪華な黒いローブを着て、立派な杖を持っている。

 だがシャドウは、足運びや微妙な身体の動きだけで気付いた。


(……相当、鍛えこんでいるな。魔法だけじゃない、体術も相当なレベル……だが、問題はない)


 冷静に分析する。

 自分なら、不意打ちや暗殺をしなくても、真正面から挑んで勝てると思った。

 今は祝辞の最中なので、ヒナタと視線を躱すこともしない。

 挨拶は最終段階に入る。


『それでは、入学者の諸君。よく学び、魔法を鍛え、クオルデンのために尽くすように』


 挨拶は終わり、拍手喝采。

 『虹色の魔法師(アルコバレーノ)』は魔法師の憧れ……生徒たちはみんな、拍手していた。

 だが、シャドウは白けていた。


(何がクオルデンのために、だ……くだらない。それと、あいつが旅団関係者の可能性も高いな)


 あとでヒナタに詳しい情報を聞くか、とシャドウは決めた。

 その後も、学園関係者の挨拶が続き──最後、新入生代表挨拶になった。

 登壇したのは、目麗しい少年。


(あれは確か……二学年主席、クオルデン王国第一王子ロシュフォールの弟、第二王子ユアンか)


 第一王子ロシュフォールは、シャドウの姉セレーナの婚約者でもある。

 第二王子ユアンには、まだ婚約者はいない……噂では、有力候補にラウラ、そしてシェリアがいた。

 生徒代表にしては、妙に力が入っていない。シャドウはそう見えた。

 そして、挨拶は終わり、入学式が終わる。

 新入生は、講堂前に張り出されたクラス分けの表を見てから、教室へ向かうことになっていたのだが。


「わ、一緒だねシャドウくん」

「……そ、そうだね」


 シャドウは軽く絶望した。

 シャドウのクラスは一組。知っている名前はラウラ、そして先程挨拶をした第二王子ユアン。そして……なんと、シェリアだった。

 

(目立ちたくないが、嫌な予感しかしない……)


 声には出さず、シャドウはヒナタと共に教室へ向かうのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 一年一組教室。

 一年は総勢三百人。三十人ずつ、合計十クラスある。

 教室は扇型、階段状の教室で、席は自由だった。

 シャドウはヒナタと並んで座る。すると、シャドウの隣にラウラが座った。


「……あの」

「ごめんね。アルマス王国で知ってる人、このクラスにいないから……シャドウくん、わたしのお友達だし、別にいいよね?」

「ど、どうぞ」


 ソニアがジーっとシャドウを警戒するが、シャドウは微妙にひきつった笑いをして誤魔化した。

 そして、教室の最前列に座るのは、まさかのシェリア。

 すでに大勢の取り巻きに囲まれ、楽しそうに笑っている。

 その中には、第二王子ユアンもいた。


「ユアン様ぁ、またうちに遊びに来てくださいね。お姉さまも、ロシュフォールお義兄様も、お喜びになりますからぁ」

「そ、そうだね……」


 どこか、気乗りしないような、疲れたような笑みを浮かべていることに、シャドウは気付いた。

 するとヒナタがボソッと言う。


「第二王子ユアン。三属性を操る天才でありますが、気が弱いとの噂も……」

「……」


 姉セレーナは、ユアンの兄ロシュフォールの婚約者。

 シェリアも、第二王子ユアンの婚約者の座を狙っているのだろう。というか、シェリアは婚約者候補の筆頭であった。

 だが……シャドウは気付いた。


「…………」

「…………?」


 ユアンの視線がシャドウへ、そして、シャドウの隣にいるラウラに向いたのを、シャドウは見逃さなかった。そして、シャドウを見て少しだけ眉をひそめる。


「シャドウくん、この机に入ってるの、新しい教科書みたいだよ。もらっていいんだよね?」

「い、いいんじゃないか?」


 シャドウは瞬間的に思った。


(……妙な勘違いをしないといいけど)


 すると、教室のドアが開き、若い女性が入って来た。

 教壇の前に立つと、生徒たちをゆっくり眺めて言う。


「ふむ、皆いい顔をしている……初めまして。私は一組の担任をすることになった『特等魔法師』のクーデリアだ。よろしく頼む」


 乱雑なクセッ毛が腰まで伸びた、スタイルのいい美女だった。

 スカートから伸びる素足が妙に艶めかしく、男子が数名見惚れている。


「特等魔法師……」

「そこのお前、特等の何がどうすごいか説明しろ」


 ポツリとシャドウが呟いた声を聴いたのか、クーデリアは伸縮式の教鞭を胸元から出して一瞬で伸ばし、シャドウに突き付ける。

 驚いたシャドウだが、軽く咳ばらいをして言う。


「特等は、魔法師の位で最も高い等級です。三等から始まり、二等、一等、上等、準特等、そして特等となります。俺たち一年生は入学と同時に『三等魔法師』として登録され、卒業までに一等魔法師となることが目標となっています」

「正解だ。ふむ、マニュアルを暗記したような説明だが、わかりやすくていい。お前、名前は?」

「シャドウです」

「シャドウ……ああ、アルマス王国のクサナギ男爵か。その若さですでに爵位を継承しているとはな。つまり、お前はこの中で、王族であるユアン殿下、ラウラ王女殿下の次に偉いというわけだ。いくら親が特等の上である『虹色の魔法師(アルコバレーノ)』でも、その子供には何の地位も爵位もないからな」


 シャドウは、クーデリアを『要注意人物』として脳内に登録した……そんな言い方をされれば、この先どう考えても動きにくくなる。この物言いが計算済みなのかは、まだわからない。

 現に、クラスメイトの視線はシャドウに集まっていた。


「だが……ラウラ王女殿下も、ユアン第二王子も、そしてクサナギ男爵も。この学園では立場など忘れてもらおう。今、学園に入学した『三等魔法師』として指導に当たるので、覚えておくように」


 クーデリアはそう言い、教鞭で教卓をコンコン叩く。


「早速だが、まずは自己紹介だ。それぞれ一人ずつ、時間は三分以内に、自己アピールを……お前から」


 教鞭は、シェリアを差した。


「シェリア・ハーフィンクスでぇす。魔法式は『火』で、特技は魔法の同時並列起動。家じゃお姉さまの次に『天才』って言われてました~!!」


 どこか甘ったるい、妙に品の悪い声での挨拶だった。

 そして、シェリアはニヤッと笑い、シャドウを見る。


「それと~……魔法を使えないお兄さまがいたけど~……今はもう関係ない他人なので気にしないでねっ!! ね、シャドウお兄様(・・・)


 視線がシャドウに刺さる。

 ラウラ、ソニアも驚いたようにシャドウを見ていた。


(……あの野郎)


 一瞬だけ『今後のためにも始末するべきか?』と考えた。

 シャドウは、義妹ではあるが肉親ともいうべきシェリアに、なんの情も抱いていない。

 すると、ヒナタが口だけ動かして言う。


(時期尚早。背後関係を洗ってから)


 つまり、まだ始末するなということだ。

 何の関係もない学生を始末するのは愚の骨頂。学園内にいる『黄昏旅団』も警戒してしまう。

 シェリアを殺すことで旅団が警戒するのはよろしくないと、シャドウは小さく頷いた。

 それからも、自己紹介は続く。


「ユアンです。皆さん、これからもよろしくお願いします」


 第二王子ユアンの挨拶は、どこまでも平凡だった。

 まるで、自分の素性に興味がないような……王族であるとひけらかすようなこともない。

 そして、ラウラの番。


「えっと、ラウラです。アルマス王国から来ました。その~……皆さん、よろしくお願いしますっ!!」


 ペコっと頭を下げると、大きな胸が揺れた。

 男子数名がそれに視線を奪われ、シェリアはどこか面白くなさそうにしている。

 ラウラは恥ずかしそうに胸を押さえ座った。


「えへへ、なんか恥ずかしいかも」

「……ははは」


 そして、シャドウの番。

 立ち上がり、予め考えていた挨拶を言う。


「シャドウ・クサナギです。アルマス王国、クサナギ男爵家から来ました。これからよろしくお願いします」


 無難な挨拶をして頭を下げる。

 なるべく目立たないように、静かに、淡々と。

 クーデリア、そしてシェリアのせいでやや目立ってしまった。

 こうして、自己紹介が終わった。


 ◇◇◇◇◇◇


 自己紹介が終わると、クーデリアが言う。


「今日は学園生活での注意事項の説明だけ。あとは各自で学園の敷地内を自由見学だ。入っていけない場所などもあるから、説明をよく聞くように」


 クーデリアは、学園の敷地について説明する。

 本校舎である現在地、魔法訓練をする修練場、クオルデン王国第二位の大きさを誇る大図書館……どれもシャドウは事前に聞いていたので知っている。

 

「───以上だ。それでは本日は解散とする。起立!!」


 立ち上がり、クーデリアに礼。解散となった。

 クーデリアはさっさと教室を出てしまう。すると、生徒たちが一斉に、ラウラ、シェリア、ユアンの元に殺到した。


「シェリアさん!! 一緒に回りましょう!!」

「殿下、私と一緒に!!」

「ラウラさん、オレたちと回ろうぜ!!」


 クラスには、すでに三つの派閥ができていた。

 シェリア派、ユアン派、ラウラ派……このクラスで最も権力のある背後を持つ者たち。

 シャドウはヒナタと視線を合わせ、気配を殺し教室を出た。


「ふう……これ以上の面倒はごめんだ」

「同意します。では、シャドウ様」

「ああ……学生として動ける範囲で、情報収集するぞ」

「はっ」


 二人は歩き出す。

 学生とは思えないほど、表情を凍り付かせて。

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