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入学式前

 入学式当日。

 シャドウは寮内の自室で制服に着替え、鏡の前で確認する。


「……アイテムボックスは胸に。リストブレード、手裏剣は数枚、苦無は一本が限度かな」


 手裏剣は足首に隠したホルスターに苦無と一緒に入れ、右手だけリストブレードを装備。

 アイテムボックスは、ヒナタが用意した胸に隠すタイプの小さな物を一つだけ。

 刀や暗殺者のコート、その他の装備を全てカバンのアイテムボックスに入れ、そのカバンをさらに胸のポーチに隠すことで、なんとか全ての装備を持つことができた。

 すると、隣の部屋からノック。


「失礼します。シャドウ様、準備ができました」

「俺もできた……」

「シャドウ様?」


 制服姿のヒナタだった。

 長い黒髪をポニーテールにして、従者用の学生服を着た姿は似合っている。

 スカートが短いが、スパッツを履いていた。

 ちなみにシャドウの部屋の隣はヒナタの部屋。学園が生徒に与えた寮の部屋は個室で、従者用にも小さな部屋が与えられている。


「何か変でしょうか?」

「あ、いや……その、似合っている」

「……ありがとうございます」


 ヒナタは何度か目をぱちぱちさせ、褒められていると気付き頭を下げた。

 シャドウは照れを隠すように言う。


「一応、リストブレードは一本だけ装備した。あと足首に手裏剣と苦無を。胸に隠した薄型のポーチに、アイテムボックスをしまっている」

「いいと思います。それと……こちらを」


 ヒナタは、魔法師が使う『杖』をシャドウに渡す。

 

「こちらには、『炎の槍(ファイアジャベリン)』と『風の刃(エアスラスト)』のテンプレートが入っています。忍術を使用する際、こちらを使うフリをしてください」

「わかった。魔法授業はどうしてもあるしな……」

「それと、最後に復習です」

「……注意すべきは、黄金世代」


 黄金世代。

 それは、『虹色の魔法師(アルコバレーノ)』の名を関するクオルデン王国の七大貴族。

 シャドウも、クオルデン王国に入ってから知った。今回の入学式では、クオルデン王国の七大貴族に属する魔法師が七人、入学する。


 『火』のハーフィンクス公爵家。

 『水』のブリトラ侯爵家。

 『土』のグランドアクシス公爵家。

 『風』のスラッシア伯爵家。

 『光』のクオルデン王家。

 『闇』のディザイア伯爵家。

 『無』のアルトアイネス騎士爵家。


「まさか、七属性最強の貴族が揃って入学するとは……」


 ちなみに、ハーフィンクス家からは、シャドウの元妹シェリアが出る。

 シャドウは、ヒナタから見せてもらった名簿にある名前を見る。


「そして、アルマス王家から、二属性の天才ラウラ姫……」


 後の情報でわかったことだが、シャドウが出会ったラウラ姫は、アルマス王国始まって以来、『光』属性を操る天才であった。

 そのほかにも、クオルデン王国貴族はもちろん、他国からも有名な魔法の貴族が続々と入学する。そして、誰かが『黄金世代』と言ったことをきっかけに、入学者たちを『黄金世代』と呼ぶようになった。


「……ある意味、チャンスだな」

「はい。有名どころの貴族たちが目立てば、シャドウ様は動きやすくなるかと。この年代の子供、貴族は、自分の実力をひけらかし、目立つことしか考えていないので」

「辛辣だが……まあ、その通りだろうな」


 シャドウは名簿を置き、教師の名前が書かれてるファイルを手に取る。


「教師も二百人以上、教師以外にここで働いている大人は五百人以上……掃除人や植木職人、食堂のおばちゃんから購買のおじさんと、疑いだしたらキリがない。それに、旅団は大人だけとは限らない……」

「情報が圧倒的に足りませんね……ですが、学園生活を送りながら、情報を集めてみせます」

「そっちはお前の専門だ。俺も力になるけど、あまり期待しないでくれ……」

「シャドウ様は、暗殺の方をお願いします。ハンゾウ師から体術、武器術を習いはしましたが、シャドウ様の足下にも及びませんので」


 そう言い、ヒナタは名簿をアイテムボックスにしまう。

 

「よし、忘れ物はないな……ヒナタ、そろそろ行こうか」

「はい」


 部屋を出て最初に向かうのは、入学式が行われている大講堂。

 目立たないように、そして暗殺のための学園生活が、始まろうとしていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 大講堂に移動すると、すごい偶然だった。


「あーっ!! シャドウくん!!」

「…………あ、ああ。どうも」


 アルマス王国第一王女アウラが、お供のソニアを連れ、大講堂の正面にいた。

 偶然、バッタリ出会ってしまった。しかもシャドウの名を出して。

 ソニアがシャドウをジロっと睨み、ヒナタは一礼する。


「ふふ、久しぶりだね。元気だった?」

「あ、ああ。まあ……」

「あれ、元気ない? これから入学式だよ、がんばろっ!!」


 世間一般で、ソニアは『可愛い』に分類されるのだろう。

 淡い金色の髪、柔和で整った顔立ち、身体付きもよく制服の胸部を盛り上げる二つの塊は、十六歳ではかなり大きい方だろう。帽子を被り、髪には星を模した髪飾りを付けているのが特徴的だった。

 すると、ソニアが割り込む。


「姫様。この場では少し目立っているようです、どうかご挨拶は後ほど」

「あ、うん。じゃあ後でね、シャドウくんっ、ヒナタちゃんっ!!」

「「…………」」


 二人は一礼……嵐のような女の子だった。

 ある意味、ソニアに感謝しつつシャドウたちは講堂へ。

 講堂内は広く、入学式での席は自由のようだ。空いている席に座り待っていると。


「シャドウ様……」

「……今、確認した」


 大勢の男子、女子を連れて、一人の少女が講堂に入って来た。

 栗色の長い髪をツインテールにした、小柄で可愛いらしい少女……シャドウの元妹、シェリアだ。

 すでに大勢の子分を引き連れているのを見ると、ハーフィンクス家の名を上手く利用しているようだ。


「眼を合わせるなよ。アレは任務に関係ない生物だ」


 冷酷、いや無感情だった。

 ハーフィンクス家で姉妹にいじめられていたことなんて、シャドウにとってどうでもいいことである。

 シェリアは子分たちと会話しながら席を探している。

 そして───。


「あ、シャドウく~ん!!」

「……シャドウ?」


 ラウラがシャドウを見つけ、声をかけて来た。

 その声に、シェリアが反応……シャドウを視認した。

 その展開、間の悪さにシャドウは頭を抱えたくなる……だが、もう遅い。

 シェリアがシャドウを見つけ、目を見開き、向かって来た。

 そして、ラウラも。


「あれれれ~? なんでこんなところに、お兄ちゃんがいるのかな?」

「シャドウくんまた会えたねっ」


 シェリアの声に被せるように、ラウラが挨拶してきた。無自覚なのか、ニコニコしている。

 シェリアが一瞬だけ眉をピクリと動かし、ラウラを睨む。


「あなた、今はあたしが喋ってるんだけど~」

「あ、ごめんなさい。えへへ」

「なんかムカつくね~……あなた、名前は?」

「申し遅れました。わたし、アルマス王国第一王女、ラウラです」

「……第一王女」


 さすがに、一国の貴族と王女では立場が違う。

 アルマス王国は小国だが、王女であることに変わりはない。

 シェリアはムスッとして、シャドウを見て言う。


「まあ、いろいろ楽しい話、聞けそうだね……またね、お兄ちゃん」

「……失礼ですが、どちら様でしょうか」

「はあ?」

「自分は、クサナギ男爵家の、シャドウ・クサナギ男爵です。どちらかと勘違いされてるのでは?」

「……ふーん。そういう態度取っちゃうんだ。ま、面白いことになりそうだし、いいけどね~」


 ニヤニヤ笑い、シェリアは子分と共に消えた。

 ラウラは首を傾げ、ヒナタは終始影に徹し、ソニアは警戒していた。

 そしてシャドウは……入学式すら始まっていないのに、頭を悩ませるのだった。

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