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救援要請

シリアスの始まり




 初任務とデビューから早くも時が過ぎ、五月に入った。


 指揮官は私たちがデビューしたことでようやくスタートラインに立ち、銅の一つ星を胸に付けている。

 私とローサンはというと、まだまだ経験不足ということで訓練と歌とダンスの練習と任務とライブの日々だった。


 訓練は自重を止めた指揮官によってコネを最大限に生かし、海軍本部で殆どが行われた。

 任務はここ数週間、指揮官の意向で難易度の一番低い星一つの任務を片っ端からこなし、過剰なくらいに実戦経験を積んだ。

 ライブはステージの雰囲気とダンスの習熟の為にバックダンサーをやった。これも任務に入るようで、多少の評価とお小遣い程度のお金が入る。

 ただ、私とローサンは週間任務達成最多記録を取り、メインで歌って踊ることもあった。


 因みに、トライアンフライブでメインを務めるには様々な条件がある。


 週間記録で各難易度ごとの任務達成数が最多であったり。

 指定された討伐任務で達成時間が最速であったり。

 小型、中型、大型の魔物でそれぞれ最多討伐をしたり。

 週間人気投票で一位から五位だったり。

 昇級任務を達成したり。

 三大企業や副司令官からの指名任務を達成したり。

 AG学園内のイベントで指名されたり優勝したり。

 企業コラボしたり。

 各軍とコラボしたり。

 政府イベントの公募で採用されたり。

 政府が立案した作戦が成功し、MVPとなったり。

 市民から多くの希望があったり。

 ライブに出ることを政府や軍や企業や学園に要望されたり。


 等々、多岐にわたる。

 それぞれの条件によって曲が用意されており、演者は大変だが観客は見ていて飽きないようになっている。

 また、あまりにも人気だったり凄まじい活躍をすれば、オリジナル曲を貰えるとか。




 で、私たちは今日も今日とて任務に励む。


 本日最初の任務は相変わらずの基地周辺の巡回。

 既に顔馴染みになった陸軍兵士に見送られ、基地の外へ出る。


「むっ」


 門が締まったところで、偶々近くにいたラージウルフの五体の群れが反応して襲い掛かり、私とローサンは前に出て流れるような動きで素早く倒した。


「よし、いつも通りに反時計回りで巡回しろ」

「了解」


 ヘッドセットから指揮官の声を聴いて答え、私とローサンは小さな魔石を拾ってポーチに仕舞ってから巡回を始める。



 半分ほど回って出会ったのは、ストレートボアとクリオネモドキ。どちらももう飽きるほど戦っていて、余程の油断が無い限りは負けることはない。


 このまま平和に終わればいいんだけどなぁ。

 ……フラグだったか。


 希望的観測を抱いた結果なのか、めんどくさい小型魔物と遭遇した。そいつは茂みに擬態して隠れているつもりのようだが、肝心の特徴的な部分が丸出しで、しかも土属性の黄色で目立っていた。


 その魔物の名はカニフラワー。

 海の生物の蟹でもないし、野菜のカリフラワーでもない。食人――カニバリズムのフラワーだ。見た目は全長二メートルほどのでかいチューリップで、本体は球根部分でそこに目がある。花弁の部分は大きな口となっていて、内側は牙がびっしりだ。

 普段は茂みなどに隠れてじっとしているが、色や見た目を変えたりは出来ず、こうして普通に見つかる間抜けな魔物だ。

 ただ、一つ厄介な特徴を持っていて、こいつは神経毒の液を飛ばして来るのだ。万が一気付かずに背後を取られたりなどした場合は毒液をもろに浴びてしまい、ある程度の毒耐性を持つアニマガールでも少しの間は動けなくされてしまう。


 だから私もローサンも油断せずに出方を窺って観察すると、カニフラワーが茂みのせいでこちら側を視認できていないことに気付いた。


「ローサン、どうする?」

「焼けばよくね?」

「いや……周りに引火しないかな?」

「昨日雨降ってたし、今日はジメジメしてるから大丈夫でしょ」

「それもそっか」


 というわけで、間抜けなカニフラワーを私の火球で燃やした。属性の相性が悪かったとしても、元が植物では火の弱さは如何ともしがたく、すぐ死んだ。

 魔石を回収して移動し、他には何も出会わずにぐるりと回って門に戻る。


 今日も楽な任務だった。このまま地上基地で休憩して連続任務かな?


「待て二人とも。たった今、別の任務中のアニマガールから緊急要請が入った」


 マジですか。インターホン押して帰る直前だったのに。

 それより私たちに言ったってことは……。


「指揮官、私たちに向かえと?」

「今までは新人ということで応じる必要が無かった。だが、任務の最多達成記録を取ったことで、新人という枠組みから外れて要請が来るようになった。それに、普段は他の部隊が待機しているが、今日は運悪く他のアニマガールの救援に向かっている。今行けるのはお前たちだけだ」


 そっかぁ、私たちだけか。

 これは拒否権無いんだろうね。


「指揮官、場所と敵は?」

「場所はドローンで案内させる。交戦中の魔物は中型のオルトロス一体と小型が複数だ。それとローサン、回復要因として初仕事になるだろう」

「りょーかい!」

「よし、こっちだ」


 撮影用のドローンが先導し、私たちは基地から離れてそちらへ向かった。


 オルトロスか……気合い入れないとな。




 道中、小型の魔物が何体か襲い掛かって来たが鎧袖一触で倒し、魔石を回収せずに向かう。


 到着した先は、百年前はそこそこ栄えていただろう廃墟となった小さな街だった。道は草木が生えてぐちゃぐちゃで、建物は相当の月日が経っているので原形を留めずに倒壊しており、残っている物も苔や蔦に覆われていたり、雨風に晒され続けて風化し、今にも崩れそうな状態だった。


 私とローサンの鋭い聴覚を持つ猫耳と犬耳が街中で戦う音を拾う。相当激しくやり合っているのか、進んでいる方向から何かが崩れて砂埃が舞った。


「あそこだ。先導はもういいな?」

「はい」


 ドローンが空中へと離れ、私とローサンは現場へと急いだ。


 現場に到着!

 一言で状況を説明するなら、ヤバイ!


 そこで見たのは、大きな丁字路で魔物たちにたった今囲まれてしまった三人のアニマガールだ。首輪には白等級の認識票がある。

 一人は青髪の犬のアニマガールで、剣を構えて火属性の赤色のオルトロスに対峙している。

 一人は変わった耳と尻尾の紫髪のアニマガールで、負傷して意識を失っているブロンド髪で兎耳のアニマガールを腕に抱えながら、片手ででかいハルバードを構えていた。

 周りには十数体のラージウルフが威嚇している。すぐに襲わないのは、獲物を横取りして自分たちより圧倒的に強いオルトロスの敵意が向かないように控えているからだ。


「ミサニィ、閃光手榴弾!」

「っ、はい!」


 指揮官に従い、私はポーチから閃光手榴弾を取り出し、剣を一瞬手放してピンを抜き、放り投げた。


「フラッシュ!」


 大声を発して合図を送ると、三人は私たちに反応して意図を瞬時に理解し、目を閉じた。

 丁度三人と魔物の間に落ちる瞬間、私も目を閉じると閃光手榴弾は地面に落ちた衝撃によって強く発光し、魔物たちの視界を奪った。


 目を開けると二人はこちら側に跳躍して包囲を突破し、私たちと合流した。

 この三人のリーダーっぽい青髪の犬のアニマガールが口を開いた。


「救援か?」

「はい。助けに来ました」

「怪我人は俺に任せろ」

「すまん。助かる」


 ローサンが怪我人であるブロンド髪で兎耳の子を受け取ると、お腹に大穴が開いたのを見て一瞬顔を顰め、気を引き締めて患部の治療を開始した。


 これで救出は完了。後はどうすればいいんだろう?


「指揮官、指示を」

「勿論撤退――いや待て」


 何故か待たされた。


 指揮官早くしてね。閃光手榴弾は視界を奪うだけだから、そんなに効果時間無いんですよ。


「…………向こうの指揮官から話があった。態勢を立て直せた今、共同でオルトロスを討伐すべきだとな。基地司令からもそう指示があった。ミサニィ、協力してオルトロスを倒せ」

「了解。というわけで、どうします?」


 私の言葉に、リーダーっぽい青髪の犬のアニマガールが答えた。


「話は我々も聞いた。私がオルトロスを引き付ける。レオナ、ラッキーと治療してる彼女を守ってくれ」

「分かった」

「猫の君はどうする?」

「ラージウルフを相手にしておきます」

「決まりだな」


 方針が決まり、私と彼女は視界が戻り始めた魔物たちに向かって動いた。

 私がラージウルフを倒し、彼女はラージウルフの攻撃を躱しながら間をすり抜けてオルトロスの頭部目掛けて剣を振るった。オルトロスはバックステップして躱したが、敵意はしっかりと彼女に向き、逃げるように動くことで別の方向へと引き寄せることに成功した。


 よし、これなら!


 ラージウルフはまだ後方にいる二人に向かわず私に集中し、密集している。だから後ろに大きく下がり、ちょっと強めの火球を飛ばして爆発を起こした。大半を纏めて吹き飛ばしたが、何体かは死なずに生き残った。

 でも、大きく怯んでいるので、剣でさっくり切って倒した。


 残るはオルトロスだけ!


 そちらに向くと、彼女はオルトロスの尻尾攻撃と口から吐き出される火炎放射によって近づけず、上手く受け流したり躱したりするだけで防戦一方だった。


 中型魔物オルトロス。

 こいつを一人で倒せて一人前と言われる、中型魔物の代表みたいな奴。中型トラックほどの大きさで、見た目は頭部以外が甲冑を着た狼だ。四つの脚には籠手のような形状の骨みたいな硬い外殻が生えており、胴体も内側の腹部と関節部以外は外殻に覆われている。肝心の頭部は一つだが、四つの目、四つの耳、左右に並んだ二つの鼻、二重の口を持っていて、普通にキモイ。

 彼女を攻撃する為にさっきから動いている毛の無い尻尾は、長くて鞭のようにしなってゴムみたいに良く伸び、先端が鋭い刃物となっている。

 また、オルトロスは属性に応じたブレスを吐く。


 私はシミュレーションで戦ったことがあるが、まだ一人で勝てたことはない。尻尾の動きが速く、オルトロスは常に相手を正面に捉え続ける動きをしてきて、尻尾攻撃を攻略しなければ攻撃する隙が無いのだ。

 だから同じ白等級の彼女はかなり苦戦していた。

 でも、私は一人で勝てたことが無いだけで、二人以上でなら勝つ自信はあった。


「ミサニィ、いけるな?」

「ええ、いけます!」


 指揮官も分かっていて聞いて来るのではっきり答え、私は動いた。

 近づきながらも魔力を足に溜め、懐に飛び込める距離になると溜め込んだ魔力を使って強く踏み込んで一気に近づき、剣に魔力を強く込めて側面から後ろ脚を攻撃した。


 強烈な一撃で外殻は砕け、脚の切断に成功した。


 オルトロスは悲鳴を上げながらバランスを崩して転倒し、尻尾の攻撃が外れて大きな隙を産んだ。

 彼女はその隙を見逃さずに近づき、魔力を強く込めた剣を持ち上げて顔面に振り下ろされた。

 私も側面からもう一度強烈な一撃を叩き込み、顔面と胴体を大きく切断されたオルトロスは死に、霧散して拳ほどの大きさの魔石を落とした。


「終わったな。魔石を回収後、即時撤退だ。急げ」

「了解」


 喜ぶ間もなく、指揮官の指示で私は魔石を手早く回収し、全員で廃墟化した街から離れて基地へ帰還した。



 安全地帯に戻ったことでようやく私は気を緩め、息を吐いた。


 疲れた。今日はもう任務に出たくない。


「ミサニィ、ローサン。今回はよくやった。疲れただろう、今日はこれで終わりだ。休みにしよう」


 指揮官はそう言うと通信を切った。


 ああ、指揮官に褒められた!

 もう一回くらいなら任務に行けるかも!


 尻尾を振り振りしてご機嫌にしていると、私たちが助けた三人は生還をひとしきり喜び合った後、こちらに向いた。


「助けに来てくれてありがとう。お陰で誰も死なずに済んだ」

「いえ、同じ人類の為に戦う仲間ですから」

「ああ、そうだな。私は犬のアニマガールのナイトという。こっちはライオンのアニマガールのレオナ。それでこっちが兎のアニマガールのラッキーだ」

「よろしくな」

「この御恩は忘れないです」


 ライオンか……言われて見れば確かに。


 言われて気付いたが、何故か知識としてある動物のライオンの耳と尻尾だ。レオナ自身は同性でも見惚れる美貌でモデル体型なのに、耳と尻尾の愛嬌が上回り、凄く可愛い。


 ラッキーの方もバニースーツが似合う理想的な体型で、可愛い顔をしている。


 と、自己紹介されたからにはこっちも名乗らないと。


「私はミサニィ。こちらはローサンです」

「どもっす!」

「これも何かの縁だ。今度からお互い仲良くやって行こう」

「はい」


 私とナイトで握手を交わし、私たちは揃って武器庫で装備を返却した。ロビーに戻ると私たちの指揮官が待っていた。

 彼女たち三人の指揮官は随分と優しそうな顔つきの若い男性だった。


「ナイト、レオナ、ラッキー!」

「指揮官!」

「指揮官!」

「指揮官!」


 彼女たちの指揮官が声を上げると、無事に帰還した三人は駆け寄って抱き着いた。


 わおっ、大胆! 私もしようかな?


「俺にはやめろよ」

「むぅ」


 顔を向けたら心を読まれた。ちぇっ。


 彼女たちが落ち着いたところで、彼女たちの指揮官が私たちに振り向いた。


「今回は本当に助かったよ。この子たちが死ぬかと思ったら気が気じゃなかったんだ。でも、お陰で形勢逆転して偶然戦うことになったオルトロスを倒せた。だから本当に、ありがとう!」

「いえ、当然のことをしたまでですから」

「困った時はお互いさまってね」


 私とローサンへ感謝が終わると、彼は私たちの指揮官へ向いた。


「東郷指揮官、彼女たちは素晴らしいアニマガールですね。今度機会があれば、共同で任務をしましょう」

「そうですね。その時は喜んで」

「はい。では、私たちはこれで」


 指揮官同士で握手を交わし、彼女たちは離れて行った。


「じゃあ、俺たちも反省会を終えたら休むとしよう」

「はい」

「はい」






 ――オルトロス討伐の経験から本格的に中型魔物討伐をし始めようと方針を改め、訓練が続く日々を送っていたある日。私とローサンは朝から指揮官室に集められた。

 何かと思っていると、この前助けた彼女たち三人が任務で戦死し、彼女たちの指揮官が拳銃自殺したことを、指揮官から報告書を見せられながら聞かされた。


 彼女たちが最後にやっていた任務は、オルトロス討伐だそうだ。

 救援要請があった時は星二つの難易度『未回収の魔石収集』の任務をしていたが、ここ数日は実力以上の少し難易度の高い任務をやっていた。

 というのも、オルトロスの討伐を救援に来た私とローサンだけではなく、私たちと協力して討伐できてしまった、という間違った経験をしてしまったからだ。

 しかも、運よく数日の任務を成功させてしまった。実力を見誤った状態の彼は三人ならいけると踏んでオルトロス討伐に挑み、普通に返り討ちにあって死んだらしい。

 自分の判断ミスで実力不足なのに挑ませ、死なせてからそれに気付いてしまった彼は、元々優しい性格と仲良くし過ぎていたことによって命が失われた重責に耐え切れず、指揮官寮の自室で自殺したそうだ。


「何故こんなことをわざわざお前たちに聞かせたか、分かるか?」


 冷徹な表情をする指揮官の問い掛けに、私もローサンも首を横に振る。


「俺たちのやっていることは命懸けだ。今回上手くいっても、次回も上手くいくとは限らない。それを心に刻んでほしい。それに、仲間や友人の死は俺たちが生き続ける限り何度も経験することになる。ショックだろうし、悲しいだろう。慣れろとは言わないが、死に魅せられて無茶はするな。少しでも精神的な不調があるのなら俺に言え。相談に乗るし、胸ぐらいは貸してやる。以上だ。今日は動揺して身が入らないだろうから休養日とする。ローサンも授業は出なくていい。俺の方から連絡しておく」


 ということで、今日は休養日となった。


 やるせなさを感じた私は一人になりたくて学園内を散策し、猫の習性なのか引き寄せられるように屋上に来て寝転がり、穏やかな地下世界の青空をぼんやりと眺めた。

 目を閉じれば、あの三人と指揮官の顔が思い浮かんだ。


 ……折角、助けたのになぁ。




ちょっとした情報。


ナイトの因子、犬。品種は柴犬。


レオナの因子、ライオン。品種はそのままライオン。


ラッキーの因子、兎。品種はニホンノウサギ。

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