初任務とデビュー
ようやく物語が始まった・・・。
アニメだったら、ここまでの間は大体省略されてる部分。
ゲームだと、オープニングが流れたけどチュートリアルが終わってないって感じ。
地上基地。
およそ三十年前にミッドガルド政府が決行した一大作戦によって建設された、人類の地上奪還の第一歩だ。
戦闘に参加したアニマガールの九割が死亡する凄惨な戦いの中で作られた要塞であり、そういう経緯もあって死守され続けた結果、今の今まで魔物によって落ちたことはない。
守り通せたのには、当時のアニマガールたちの活躍以外にも理由がある。基地全体が鋼鉄の装甲に覆われ、魔物から採取できる魔石と、人類が試行錯誤して編み出した魔法の術式を使って魔力を通し、結界を張って気配を遮断しつつ魔物からの攻撃の大半を防いでいるからだ。
これによって基地の内側は安全となっており、人間が地上に出られる唯一の場所となっている。
だがしかし、人類は基地周辺の探索で足踏みし、未だに生活圏を広げられていない。
それには魔物の特性が大きく関わる。
魔物は生き物であるが動物とは違って臆病さが無く、非常に好奇心が旺盛だ。故に、近くで戦っているとまるで引き寄せられるかのように他の魔物がやってくることがよくある。さらにその戦いが大きければ、或いは長引けば、連鎖的に魔物が現れ、場合によっては強力な魔物が興味を抱いてやってくる可能性がある。
先の一大作戦の時にはその現象が起き、魔物の中でも最上級に危険なドラゴンや、大量の魔物を体内に住まわせている空飛ぶ巨大クジラ――コロニーホエールなどが襲い掛かって来たとか。
というのを、教科書を読んで知った。
で、そんな知識を持ったうえで今回の初任務はというと、基地周辺の巡回と、すぐに個体数が増えて何処にでもいるラージウルフの討伐。不測の事態として他の小型魔物がいたり、新たに現れた場合はそれも討伐。
ただし、中型以上は他に待機しているアニマガールに任せて即時撤退という内容。
それらを人員輸送用エレベーターで地上基地へ向かう最中に指揮官から説明された。
長いエレベーターが止まり、ドアが開いて出た場所は室内だった。目の前には頑丈そうな隔壁が開いた状態で存在し、他は鋼鉄の壁に囲まれていた。
鉄臭さに顔を顰めていると指揮官が歩き出し、部屋を出てすぐ設置されている地図と看板を見た。
『ようこそ地上へ! 初めての方はロビーの受付へどうぞ!』
と看板には書かれており、地図にはしっかりと経路が記されていた。
「ふむ、こっちか」
経路を覚えた指揮官は再び歩き出し、私とローサンはその後ろをついて行く。
頑丈そうな通路を抜け出た先は、地図に掛かれていたロビーだった。吹き抜けの広々とした空間で、中央に半円形のテーブルがあり、その内側にミッドガルド政府の制服を着た受付嬢が一人立っていて、他の指揮官やアニマガールと話し合っていた。
ロビーの後方では複数の通路があり、それぞれ宿舎、食堂、売店、大浴場、病院、武器庫、指揮所へと繋がっている。
そして中央の受付から正面には外へ出る為の大きな玄関扉が一つあった。
指揮官は受付嬢に近づき、他の指揮官とアニマガールがいなくなったところで声を掛けた。
「こんにちは」
「はいこんにちは。見掛けない顔ですね。地上へ来るのは初めての方ですか?」
「ええ、今日がこの二人の初任務なんですよ」
「そうですか。指揮官のお名前は?」
「東郷タダシ」
「東郷……ああ、あなたが海軍長官のご子息さんですか」
受付嬢はカウンター裏にあるノートパソコンを操作し、手が止まると顔を上げた。
「はい、確認が取れました。本日、アニマガールのミサニィとローサンがデビューするということで、基地周辺の巡回とラージウルフの討伐が入っていますね。無事の帰還と活躍を期待しています。自己紹介が遅れましたが、私はミッドガルド地上基地の受付嬢、アカリといいます」
「俺はさっき名乗ったからいいな。こっちの猫がミサニィ、犬がローサンだ」
「どうも」
「よろしく!」
「はい、よろしくお願いします」
受付と挨拶が済んだところで、私たちは武器庫へ向かった。
武器庫は鉄と油の匂いが染みついており、可愛らしさの無い工場のような場所だった。
素人が見ただけでは用途が分からない大型の機械が幾つもあり、鉄の棚にはアニマガールが使う大きな武器が沢山並んでいる。それぞれ個人専用であり、棚には名前のプレート貼り付けられている。
それだけではなく、人間用の武器として銃器もあり、デカイ大砲もあった。
また、閃光手榴弾、回復錠剤、医療パック、サバイバルナイフ、携帯食料などが一纏めにされたウエストポーチや、遠征用に纏められた大型のバックパックなどが置いてある棚もある。
さらに通信用にアニマガール用のヘッドセットがある。
因みに、アニマガールに防具は無い。アニマガールが生み出された当初は試行錯誤で作られたこともあるそうだが、防具に回す魔力と集中力が着用者本人にとってかなり負担であり、想定より防御効果も低く、折角の機動性も落ちてしまうことからすぐに廃止されたらしい。
それに、基本的にアニマガールは体を魔力で覆っていて魔物の攻撃以外に対しては頑丈なのと、手足が千切れた程度じゃ死なない生命力があって、回復力も尋常じゃないことから、心臓と頭部だけは死ぬ気で守って避けろという方針に変わったそうだ。
他の指揮官やアニマガールには目もくれず、私たちの指揮官はこの武器庫の関係者だと思われる、テーブルに置いた武器を整備中の汚れた作業着を着た強面顔の老人に声を掛けた。
「失礼、あなたは武器庫の関係者か?」
「ん? ああ、武器庫の管理責任者兼技術部長のマツダだ。あんたは?」
「東郷タダシ。契約した二人のアニマガール、ミサニィとローサンの二人の初任務で地上へ来た」
「東郷……ああ、あの海軍長官の息子か。確かに似てる! と、それより武器だな。ちゃんと届いてるぞ。こっちだ」
マツダはテーブルから離れ、案内してくれた。
そこは武器庫内の資材などが置いてある倉庫で、分かりやすい位置に超大型のアタッシュケースが二つ安置されていた。
それをマツダが開けると、アニマガール用の二メートル以上もある剣と、一メートルほどの長さの小剣がしっかりと型に嵌め込まれた状態で入っていた。
「こっちの剣がミサニィの武器。アニマガールが使う通常サイズの剣だな。見た目もシンプルで扱いやすい筈だ。んでそっちの小剣はローサンのだ。昔の武士が使っていた大太刀を参考にしている。こいつで防御なんてするなよ。曲がるだけならまだいいが、最悪折れるからな。とりあえず持って感触を確かめてみろ」
ということなので、私とローサンは持ってみた。
うん、武器工房で注文した通りの品だ。柄は手に馴染むし、刀身の重心もしっくりくる。
武器は基本的に三つの要素で構成されている。
まず刀身。武器種の中で様々な形状があって、自分に合うか気に入った見た目にすることができる。変わり種の刀身だとギザギザの鋸刃があったりする。
次に鍔。刀身と柄の接合部で、好きな見た目や形状に出来る。ただし、複雑な見た目は整備に少し時間が掛かり、お金も掛かるというデメリットがある。
最後に柄。個人によってフィット感が違うので、かなり大事な部分。形状は真っ直ぐから曲線まで様々だ。
私の剣は、ナイフのような刀身にシンプルな鍔と真っ直ぐな柄で構成されている。一般的な見た目をしている為、見分ける為に刀身は赤く塗ってもらっている。
対するローサンのは見た目がカッコイイ大太刀だ。切れ味に特化した武器であり、防御が出来ない武器だ。
「ん、大丈夫そうだな。任務に出るならウエストポーチとヘッドセットをちゃんと持って行けよ。任務が終わったら返却口に置いといてくれればいい」
武器も手に入ったことで、私たちはウエストポーチとヘッドセットを装備して武器庫を出た。
ロビーで指揮官は指揮所へ向かい、私たちは玄関から出て外へ出た。
地上基地は、私たちが入っていた大きくて頑丈な鋼鉄の建物を中心として広がっており、後方には似たようなデザインの建物が並んでいる。前方には小さなグラウンドと、幾つものドローンの駐機場があって、その先には車両が出入りできる大きな門と、人が出入りできる小さな門があった。
五メートルほどの高さの壁の内側には万が一に備えてなのか、大型の砲台が等間隔で複数設置されており、死角が無い。
そして頭上もパネルで覆われていて、大型の照明が全体を照らしている。
基地全体はそこまで広くはない。半径二百メートルほどの大きさといったところ。
たったこれだけの土地を確保する為に、大勢が死んだのか……。
知らない過去に思いを馳せながら私とローサンは門の傍まで歩いた。小さなグラウンドで訓練中のアニマガールたちからチラチラ見られつつ到着すると、ドローンが一機、私たちの前に飛んで来た。
そのドローンはアニマガールを支援する物を幾つか装備しているが、その中でも特徴的なのは機体下部に取り付けたライブ中継用の大型カメラだ。
そのドローンから、声が聞こえた。
「来たな。ミサニィ、ローサン」
「指揮官?」
「そうだ。基地周辺の電波が届く範囲は、指揮官の身の安全を考慮してドローンで撮影しながら指揮する決まりになっている。ということで、今からヘッドセットの周波数を合わせる。電源を入れたらじっとしてろ」
指示通り電源を入れてじっとしていると、ヘッドセットの周波数を読み取って繋がり、声が聞こえた。
「聞こえるか? 二人とも」
「おう、聞こえるぜ」
「はい、聞こえます」
「では指示はこれで行う。ドローンは遠隔で撮影に専念させる」
「分かりました」
準備が整ったところで、門の前で見張りをしている陸軍の兵士の前に立った。彼はライフルを肩から下げ、手には少し大きめのタブレット端末を持っていた。
「確認します。あなた方はどんな任務を受けていますか?」
ドローンに振り返れば、指揮官が代わりに答えた。
「AG指揮官、東郷タダシ。アニマガールのミサニィとローサンの二名で、基地周辺の巡回とラージウルフの討伐で外に出る」
それを聞いた兵士はタブレットを操作し、顔を上げた。
「確かに。お気をつけて」
敬礼され、兵士は人間用の小さい門の開閉レバーに手を掛けた。そして外側に設置されている監視カメラに何も映っていないことを確認してから動かして開けた。
私たちが外に出ると扉はすぐに閉じられた。
でもそれよりも、私もローサンも外の景色に目を奪われてしまった。
「……綺麗」
「だな。すっげぇや」
外は地下世界の空よりも、ずっと明るく綺麗だった。
空は青々としていて雲は綿のよう。本物の太陽は人工のものよりもずっと明るく、また光が温かい。
近くには草花が生い茂り、旧時代の建物が朽ち果てた状態で残っている。遠くには緑一色の山々があり、大きな空飛ぶ魔物が数体確認できた。
足元は土だが、少し離れた場所には雑草に覆われて見えなくなり始めている崩れたアスファルトが見え、微風は土と草の匂いを運んでいる。
「ミサニィ、ローサン。任務開始だ。反時計回りで巡回を開始しろ」
「あいよ」
「了解」
さてさて、指揮官の指示で私とローサンは警戒しながら巡回を開始した。適度に見渡し、耳を済ませ、鼻で匂いの異変が無いかを逐一確認する。
と、大体四分の一ほど回ったところで獣の匂いがし始め、先から硬い何かを引っ掻く音が聞こえ始めた。
「ローサン」
「ああ、いるな。指揮官、少し進んだ場所に何かいるっぽいぞ」
「確認しろ。だが、俺たちは初めて任務で実戦だ。慎重に行け」
指示通り、私とローサンは慎重に進んだ。
そこにいたのはラージウルフが三体だった。体表は黄色の土属性で、まるで爪研ぎでもしているかのように基地の壁をガリガリと引っ掻いている。
うーん……人を襲わなかったら、でっかい犬っぽくて可愛く見えなくも無いんだけどなぁ。
「指揮官、指示は?」
「最初の任務だからな。好きなやり方で倒せ」
「了解。ローサン、どうする?」
「んー……万が一ってこともあるかもしれねぇし、突っ込むよりもこっちに誘い出そう」
「分かった」
やり方が決まり、私は釣り出し目的で火球を飛ばした。魔力で作られた火球は鍛えたことにより着弾と同時に軽い爆発を起こし、魔力を含んだ爆発で体の一部を吹き飛ばしていた。それによって一体は怯んだが、残りの二体が攻撃に気付いて素早くこちらに向かって来た。
「私は左を。ローサンは右を」
「あいよ」
相手を決めて武器を構え、私は魔力を込めた剣でラージウルフを一刀両断した。横を見ればローサンもスパッと倒していたので、遅れて近づいてくる一体はちょっと魔力を強めに込めて槍にした――ファイアランスという魔法で頭に突き刺し、爆発させて頭部を吹き飛ばして倒した。
「よし」
「やったな!」
ハイタッチ。
いいね。撮影されることを前提として練習した甲斐がある。
さて、倒した魔物なのだが……核となる魔石を残し、霧散して消えた。
そう、消えるのだ。魔物がいつまで経っても殲滅できない理由がこれだ。
魔物は、倒すと核となる魔石を残してその場で消滅し、再び魔力の濃い場所で魔石が生まれて肉体が構築され、復活する。早い奴だと一日で、遅くても一週間程度で何処かで復活するらしい。これは百年ほど前、まだ人類が戦えていた時に偶々撮影に成功して知ったことだ。
ただ、魔石自体は再度魔物となることはないらしく、有効活用できる品なのは確かだ。
私とローサンは直径三センチほどの丸い魔石を拾おうとして、物音が外側から聞こえてくることに気付いて構えた。
「指揮官、新たな敵です」
草木を強引に掻き分けて出て来たのは、低空を飛ぶ二体の魔物だった。
うげぇ、『クリオネモドキ』だ。しかも水属性。
私がこいつが嫌いだ。シミュレーションで戦ったことがあり、その時の動きがきもい魔物だからだ。
全長は二メートルほどで、半透明な肉体で内臓が透けて見える不思議な体をしている。見た目は極寒の海に生息しているという、海の天使クリオネに非常に似ている。円筒形の胴体に尻尾があり、二枚の羽の無い翼を持っている。頭に見える部分は大きな口。目は退化して小さく近視だが、音に敏感。魔力で飛んでいるっぽいけど、原理は不明。
「確認した。問題無い、倒せ」
指示により私たちは動き出す。
それによって青く半透明なクリオネモドキが私たちを感知すると、頭に見える口をぱっくりと開いて内側の無数の牙を見せつけながら、短い複数本の触手を伸ばして襲い掛かって来た。
やっぱりきもいっ!
私は嫌悪感を気合に変えて魔力を剣に強く込め、叩き潰す勢いで正面から振り下ろして一刀両断した。
横ではローサンも即座に一刀両断しており、サムズアップして来るので頷いて返した。
これでここは――いや、まだだ!
さらに奥から物音が聞こえて身構えていると、今度は一直線に何かが突進してくる赤くて火属性の魔物がいた。横へ避けるとそいつは基地の壁に激突して止まった。
……あぁ、ストレートボアか。
こいつについては特に思うことはない。名前の通り真っ直ぐ猪突猛進して来る二メートルほどの猪だ。唯一注意する点は正面の大きな二本の角と、顔全体がやたら硬いことだ。側面と背面は魔力が薄くて倒しやすい。
ので、私が魔力を足に溜めて一気に踏み込み、背後からばっさりと切って倒した。
次が来るかもしれないと警戒するが、来ない……。
「他に魔物は来ないみたいだな。魔石を回収次第、巡回を続けろ」
指揮官の言葉に従い、私とローサンは魔石を回収してポーチの余白に魔石を入れてから巡回を再開した。
基地の裏側辺りまで来たところでラージウルフが五体ほど壁を引っ掻いているのを発見し、それをサクッと倒して移動したが、それ以上魔物と遭遇することはなかった。
ぐるっと一周して正面の門に戻った私たちは門の横に設置されているインターホンを押し、中から陸軍兵士に門を開けてもらって無事に帰還した。
「これにて任務完了だ。お疲れ様、よくやった」
「はい、ありがとうございます」
褒められた。やった!
「なぁ指揮官、初任務が終わったんだ。お祝いでもしね?」
「そうだな……なら昼食は豪華なものにしようか」
「よっしゃ!」
「武器を返却し、シャワーを浴びたらロビーで集合だ」
「はい」
「はい!」
お祝いが決まったところで私とローサンは武器庫で装備を返却し、大浴場でシャワーを浴び、指揮官とロビーで合流。地下へ降りた。
時間があるということで先に学園長や海軍長官に初任務を無事に終えたことを報告しに周り、指揮官が海軍長官の地位を利用して高級料亭を予約。本物の米や野菜や肉を出す店でお祝いをした。
その後はライブ会場に移動して夜の本番――正式名『トライアンフライブ』の為にリハーサルを行い、一度学園へ戻って指揮官室で今日の反省会と今後のスケジュールを話し合った。
それから寮で夕食を摂ってから再びライブ会場に移動した。
ライブ会場に来た私とローサンはすぐに楽屋に入った。
ライブ用の共通衣装に袖を通し、専門のスタッフによって綺麗に髪がセットされ、化粧もされた。
それらが終わると、通路で待機していた指揮官がスタッフと入れ替わるように入って来た。
「指揮官、どうですか?」
私は目の前に立って軽くポーズを取ってみる。
「うむ、似合っているな」
「……ありがとうございます」
うん、なんと言うか……素直に褒められると思ったより照れる。
「指揮官、俺はどうだ?」
「ああ、ローサンも似合っている」
「へへっ、そっか」
嬉しくてローサンは尻尾をブンブン振っている。可愛い。
私から見てもローサンは非常に似合っている。
この衣装、誰が着てもある程度似合うような衣装だ。
全体がくどくない色彩の紅白で纏まっていて、フィッシュテールスカートのコルセットドレスに、ジャケットを羽織っている。スカートの下には短パンを履いていて、その下に二―ソックスとブーツだ。
因みに私は放熱スーツの上からこれらを着用している。でないとステージの上で倒れると思う。
「お前たち、緊張はしていないか?」
「してますが?」
「俺も」
もう心臓バクバクだ。初任務はローサンと二人きりだったからそこまで緊張しなかった。けどこれは全く違う。人前に出るというだけで緊張するのに、練習の参考にライブ映像を観て、盛り上がりが凄いことを知ってるのだから。
「まぁそうだろうな。だがこういうのは経験して慣れるしか対処法が無い。でもそれだけだと冷たい思われるだろうからな、一言だけアドバイスだ。楽しめ、以上」
楽しめ……か。確かに私たち演者が楽しんでないと、観客も楽しくないだろう。
「分かりました。楽しんできます」
私たちの緊張が少しだけ解れたところで、指揮官は腕時計を確認した。
「……まだ時間はあるが、初めてのことだから余裕をもって行動した方がいいだろう。二人は舞台袖に向かえ」
「はい!」
「はい!」
私とローサンは楽屋を出て舞台袖へと向かった。そこでスタッフたちの指示された場所で待機する。
暫くすると次の曲を歌う先輩アニマガールたちが集まり始め、スタッフから声が掛かった。
どうやら時間のようで、私とローサンはステージに立った。
……多いなぁ。
軍人や政府の役人でない限りは未だに地上へ出ることが叶わない人類。閉鎖された空間では娯楽も限られる。だからこそ、人々はアイドルに熱狂する。映像で観たままの、大多数の人間が私たちを見つめていた。
バックスクリーンでは初任務で撮影して編集された映像が流れ、司会が今回デビューする私とローサンの初任務の戦果報告をした。
盛大な拍手の後に一度照明が落とされて暗くなり、静かになると曲が始まった。
人類に希望ある未来を語り、明るい音を奏でて非常にテンポが良いリズムだ。
全てのアニマガールがオープニングアクトとして歌うデビュー曲で、最初に作られたライブ曲でもある。
全員が主役という意味で同じ振り付けだ。その振り付けも最初に作られた曲だけあって簡単なもので、私とローサンはたった数日の集中した練習で完璧な動きが出来ている。
勿論、笑顔は欠かさない。
数分という短い時間で曲が終わり、新たなアニマガールの誕生に盛大な拍手が送られる。
これがアイドルか……悪くないかも。
私とローサンは一礼して舞台袖へ引っ込んだ。
後は、様々な条件で選出された先輩アニマガールたちが盛り上げてくれるだろう。
こうして、私とローサンの初任務とデビューは無事に終わった。