強制的な矯正
初日の訓練が終わって翌日。
今日から本格的な訓練が始まり、指定されたカリキュラムに沿って俺とローサンは授業を受けることになる。
ただ、アニマガールの本分は兵士でありアイドルである為、戦闘訓練とダンスレッスンやボイストレーニングに重きを置かれ、一日の授業は午前中しかやらない。
それで俺たちが受ける授業なのだが……初日から数日は『矯正』という身の危険を感じるワードの授業で埋まっていた。
どういうことをするのかと昨日から思いつつ、登校してアニマガール用の玄関に入れば、その授業をする案内の看板が設置されていた。俺とローサンがその前に立つと、他のアニマガールから憐れみの視線を向けられた。
え、何?
これから俺たち何を矯正されるの?
不安になりつつ二人で指定された教室へ向かうと、俺とローサン以外誰もいなかった。
「俺たち、何をされるんだろうな?」
「さぁ?」
特に話すこともなく会話は終わり、授業開始のチャイムが鳴るまで俺たちは大人しく待った。
それから何分か経ったところでチャイムが鳴り、教室のドアの前で待機していた誰かが入って来た。
全身真っ黒な軍服を着たアニマガールで、背中には黒い鳥の翼がある。短くサッパリした黒髪の上には大きな軍帽を被り、褐色肌の小顔には真っ黒のサングラスを掛け、首輪には青等級の認識票をぶら下げている。
身長は平均的で体型はスラリと細く、上着に膨らみが無くて様になっており、下は動きやすいプリーツスカートに黒いサイハイソックスをガーターベルトで固定していた。靴はヒール付きの革靴だ。
彼女はキビキビと歩いて教壇の前に立つと、口を開いた。
「おはよう諸君!!」
大きくはっきりした力強い声に、俺は猫らしく驚いてビクッと体を一瞬跳ね上げた。
隣にいるローサンは大丈夫なようで、元気よく挨拶を返した。
「おはようございます!」
「お、おはようございます」
あーびっくりした。心臓に悪いなこの人。
挨拶で苦手意識を持ったところで、サングラス越しに目が合った彼女はニィッと白い歯を見せた。こわっ。
「お前たちが新しくアニマガールになった奴らで、期待の新人だな? まずは自己紹介しておこう。私はアニマガール特殊部隊の一つ『エスピオナージ』のネーロだ。ミッドガルド政府の特別尋問官でもある」
特別尋問官?
それってつまり、情報を聞き出す為に恐いことする人じゃん!
やっぱこの人、こわっ!
「それで、お前たちの名前は?」
「俺はローサン」
「ミサニィです」
「ローサンとミサニィだな。お前たちの指揮官が二週間後に地上で任務を行うと言ったから、早く仕上げる為に私が呼ばれた。本来なら一ヶ月から三ヶ月掛けてじっくりやるところを、数日に短縮してやるから覚悟しろ。いいな?」
「はい!」
「……はい」
最長三ヶ月を数日で……それってどんだけ詰め込むの?
「よし、では時間も限られているから早速始めるぞ。まずはミサニィからだ。ローサンは黙って見ていろ」
ネーロは教壇から離れて俺の目の前に立つと、座っている俺の顎に手を触れてクイッと持ち上げて顔を覗き込んで来た。
えっ、何故顎クイ?
それから掛けているサングラスを取ると、キリッとした目つきの黒い瞳で俺をしっかりと見つめた。
おぉ、カッコイイ!
「さぁ、私をジッと見ろ」
言われずとも見ますとも。
……あれ? なんか瞳から黒い光が――――。
なんだか体がフワフワする。
霞が掛かったように思考が出来ない。
でも、不思議と安らいで幸せかも……。
「ふむ、私が知る限り最速で催眠に掛かったな。初回だから掛かりがまだ浅いが、確認した資料通り、記憶喪失のせいでアイデンティティが希薄になっているからか」
……この人、何を言ってるんだろう?
「まぁいい。むしろ好都合だ。おいミサニィ、お前は女だな? 答えろ」
「女? ……俺は男だ」
「ほう、男だというのか。だったら、お前の過去を思い出してみろ。男だった記憶があるか?」
男だった記憶?
……あれ? 記憶にない。俺って男だったっけ?
「答えられないということは、違うようだな。それにこの胸はなんだ?」
「あっ」
胸を鷲掴みにされて、色っぽい声が漏れた。
「これは女の胸だ。そうだろう?」
「……うん。そうだな」
「では改めて確認する。お前は女だな?」
「はい。俺は女です」
「一人称は“俺”でいいのか? お前のような美少女が言うには、些か男っぽくないか?」
そうかな? ……そうかも。
「……じゃあ、私?」
「うむ、そっちの方が可愛いな。これからはそれでいこう」
「分かった」
「では、今の変更点を心に刻みつつ、このやり取りは忘れろ」
パンッ!
と目の前で手が叩かれた。
「っ! え? 何?」
私……何をしていた?
目の前にいるネーロはニヤけた顔で私を見つめ、ローサンは唖然としていた。
「ミサニィ、お前は女だな?」
「? そうですけど」
「一人称はなんだ?」
「? 私ですけど」
「そうかそうか。可愛いな」
よく分からんが褒められて頭を撫でられた。いい撫で方だ。
「どうも」
「じゃあ、少し眠れ」
「あ……――」
ネーロと目を合わせていると黒い光が見え、私は急激な眠気に抗えず机に突っ伏して寝た。
「起きろ、ミサニィ」
ネーロの声が聞こえ、私はパッと目を覚まして起き上がった。
目の前にはネーロが相変わらず立っている。
私、寝ていた?
いや、けど……何か色々やっていた気がする。夢?
……駄目だ。上手く思い出せない。
「今日の矯正は終了した。では、また明日な」
悩む私など気にせず、ネーロはさっさと教室から出て行った。時計を見れば、既に午前の授業が終わって昼食の時間となっていた。
「ローサン、大食堂に――ローサン!?」
振り向けばローサンが机に突っ伏して草臥れていた。耳も尻尾も垂れてしまっており、いつもの元気さが無い。
「ミサニィ……俺、頑張って耐えたよ」
「何を?」
「アイデンティティを死守したんだ」
「アイデンティティ?」
どゆこと?
「あぁ……そっか。ミサニィは覚えてないんだな。その方がいいから、気にしなくていいぞ」
「……そうか」
私はネーロと少し話して何故かずっと寝ていただけだが、ローサンにとっては凄く大変な授業だったみたいだ。
とにかく、私とローサンは大食堂へ向かって昼食を摂ることにした。指揮官もここで食べている筈だが、混んでいて見つけられない。
諦めて適当な席に着いたところで、ローサンがポケットに入れているアニフォンを取り出した。どうやらチャット型コミュニケーションアプリ『トークボール』に新着が入ったらしい。
連絡が入ったことに気付かなかったことを不覚に思いながら、私は横から覗き込んだ。
指揮官と私とローサンのルームに、新しいコメントがあった。
指揮官:『昼食後、グラウンドへ集合』
指揮官:『ローサンは体操服に着替えてくるように』
とのことで、ローサンは即座にコメントを入れた。
ローサン:『了解!』
私も学生鞄から取り出して『りょ』と一言入れた。
やっぱり学生鞄に入れた状態じゃ分からないし、後でポーチか何か買うか。
そんなことを思いながら、私は食事に舌鼓を打った。
お腹が膨れたところで大食堂を後にし、ローサンが更衣室でブルマの体操服に着替えるのを待ってグラウンドへ向かう。そこでは大勢のアニマガールがそれぞれのやり方で訓練をしていた。
私たちは分かりやすい場所に立っているクーラーボックスを傍に置いた指揮官を発見し、声を掛けた。
「指揮官、来ました」
「ん、では今日の訓練内容を伝える。やることは至極単純、素振りだ」
「素振り、ですか」
「なんかつまんなさそう」
ローサンの言う通りだ。意味はあるのだろうか?
「まぁそう言うな。千里の道も一歩からだ。お前たちはアニマガールになって日が浅く、魔力操作も武器を振るうことも慣れていない。それを同時にこなせるようにするのに、素振りが最適なんだ。とりあえず、倉庫から練習用の武器を取って来るといい」
ということなので、私とローサンは倉庫に行って練習用の武器を持って戻って来た。
「よし。少し移動しようか」
クーラーボックスを持った指揮官が歩いて移動した場所は、グラウンドの隅。
「ここらでいいか。では素振りのやり方を教える。まず、武器に魔力を込めた状態を維持してしっかりと振るんだ。最初の目標は十分間振り続けること。始め!」
私とローサンは武器に魔力を込めて振り始めた。最初は簡単だと思っていた素振りだが、二十回を超えた頃から私もローサンも余裕が無くなった。
これ、意外とキツイ。特に魔力を込めた状態を維持するのに神経を使うから集中力が必要で、体を動かすのと並列処理していて精神的にかなり疲れる。あと、武器も重いから腕がだるくなってきた。
「二人とも、振りが遅くなり始めているぞ。気合を入れろ」
「はい!」
「はい!」
腕時計でチラチラと時間を確認していた指揮官から指摘され、私たちは気を取り直してしっかりと武器を振るう。けれど、素振りの辛さは一回振るごとに増し、回数ではなく時間制限でどれだけ振ればいいか分からないという果てしなさが、精神に負荷を掛けた。
「そこまで! 二人とも十分間の休憩だ」
「はぁー……」
「はぁー……」
私とローサンは武器を下ろし、その場に座り込んだ。
「ほら、スポーツドリンクだ。飲んでおけ」
指揮官がクーラーボックスからペットボトルを差し出し、私たちは無言で受け取り、蓋を開けてすぐに飲んだ。キンキンに冷えていて美味しい。
落ち着いたところで、私はローサンに向けて言った。
「なぁローサン、これ辛くない?」
「辛い。俺はまだ小さいサイズだからマシだけどよ、ミサニィはでかい剣だから余計にきつくないか?」
「ああ、これ重い」
でも、辛くても振るえなければ死ぬんだろうな。
指揮官もクーラーボックスを椅子にしながらスポーツドリンクを口にし、言った。
「魔力を込めて武器を振るえ無くなれば、待っているのは死だ。そうならない為に、素振りの時間は徐々に伸ばしていくぞ。目標は任務までに一時間だ」
「うへぇ、スパルタ」
「分かりました」
その後、私たちはひたすら魔力を込めた武器で素振りした。今日の訓練が終わる頃には腕がパンパンでかなりだるい。
寮に帰宅する前に、私は購買部でアニフォンを肌に身に着ける為の腕章型専用ミニポーチを買った。これで、指揮官の連絡に気付かないことは無くなるだろう。
翌日、地下世界なのに綺麗な青空と白い雲があり、熱を感じる太陽を見上げながら登校した。
これは天候投影パネルと人工太陽という画期的なものらしい。まだ始まっていない歴史と社会の授業で使う教科書を夜の暇潰しで読んで知った。
その二つは三大企業の一つ、放熱スーツを作ったモノリス・インダストリーが開発して、これまた三大企業の一つ、四葉重工が主体となって建設して完成させたものだ。今から大体五十年前の出来事であり、地下世界のミッドガルドにとっては地上の空を再現したことは偉業らしい。ずっと改良が為され、今では様々な天候を再現できるとか。
空を見るのに満足した前を向いた私といつも通りなローサンがアニマガール用玄関に入ると、また看板が立っていた。
大食堂に来るようにと書かれていて、そちらに向かうと普段はガヤガヤしている筈の大食堂はがらんどうとしていて非常に静かだった。
テーブルの一つにネーロが席に着いて優雅に紅茶を飲んでおり、テーブルの上には二人分の空の食器が並び、カセットコンロに載せたヤカンと紅茶セットがあった。
「待っていたぞ。さぁ座れ」
私たちに気付いたネーロに言われ、私たちは空の食器がある席に座った。
「今日は見ての通り、テーブルマナーだ。どちらかというと食事の姿勢や自然な動作の方を矯正するのだがね。まずはミサニィからやろうか」
ネーロのサングラスが外され、目から出る黒い光を見た私は――――。
「おい、ミサニィ」
ネーロの声が聞こえ、私はハッとした。
また寝てた?
いや、ちょっとぼーっとしてただけか。テーブルマナーをしていた記憶はある。
隣を見れば、ローサンが草臥れて空の食器を退けた状態で突っ伏していた。
「ローサン、大丈夫?」
「ん、ダイジョウブ。ちょっと合わないことをやらされただけだから」
「ローサンは大した奴だよ。最早個性として認めてもいい。私の矯正はある程度で充分だ」
何故だかネーロが誇らしげにローサンを褒め称え、カップを手に取って紅茶を口にする。だが、すぐに顔を顰めた。
「紅茶がぬるくなってるな。淹れ直すか」
ネーロがコンロに火を点けてヤカンを温め、新しく紅茶を淹れた。私とローサンのカップにも紅茶が注がれ、カップを持って口にする。
……うん、美味しいな。流石にこれはオールで作られていないよね?
美味しい紅茶に尻尾をゆらりゆらりと振っていると、ローサンが目を点にして俺を見つめていた。
「ローサン、どうしたの?」
「……いや、うん。ミサニィが優雅に飲んでる姿、似合ってるなぁって」
「そう? 私はいつも通りなんだけど」
「……そっか。俺は今のお前も好きだぞ」
「? ありがとう」
よく分からんが好意を示されたのでお礼を言っておいた。
矯正の授業が終わり、私たちはそのまま昼食を摂った。
午後、今日も指揮官に見られながら素振りをやり、腕だけ鍛えるのはバランスが悪いからとアンクルウェイトを手足に付けて延々と走らされた。
訓練が終わって寮に戻ってお風呂に入って夕食を摂るのだが……その時、何故か周りから不思議な物を見る目で見られていた。
ただ淑女として、姿勢を正して綺麗に食べているだけなのになぁ。
翌日、登校時間になって寮を出ると、ネーロが玄関で待っていた。
「やぁ、おはよう二人とも!」
「おはようございます」
「おはようございます!」
「今日は寮の方で、女性としての過ごし方や身嗜みの整え方を矯正する。ということでミサニィ、私の目を見てくれ」
言われるがまま、サングラスを外したネーロの目を見て、黒い光が見え――――。
「起きろ、ミサニィ」
ネーロの声に私が目を開けると、見知った天井があった。
ここ、私の部屋じゃん。
いつの間にかベッドに寝ていて、ネーロが顔をツヤツヤにして立っていた。
私は何故か妙に火照っている体を起こしてローサンを見れば、彼女は自分のベッドで横になっていた。ただ服は乱れ、顔は赤くなって恍惚としており、満足そうにしていた。
……何があったの? ほんと、何があったの?!
訳が分からないでいると、ネーロが口を開いた。
「さて、君たちの矯正はこれで完了した。私の役目も終わりというわけだ。短い間だったが非常に楽しかったぞ。またいつか会おう!」
ネーロは部屋のドアから出て行った。
「……ところでローサン、大丈夫?」
「あぁ、まぁ……大丈夫だ。男としての尊厳を失って、女として始まっただけだからな」
「? どゆこと?」
「…………」
無言で体ごとそっぽを向かれた。
え、そんなに言い辛いこと? なら自分で考えるまでだ。
まず私はベッドに寝ていた。次に体が火照っている。ローサンは自分のことを『男としての尊厳を失って、女として始まった』と言った。
ローサンは元男で、女として始まった……つまり、女でしか出来ないことをした。顔が赤くて恍惚……ん? ちょっと待って。それって、もしかしてアレをしたってこと? それで果てて、女として始まった、と?
待って待って! 私も何故か体が火照ってたんだけど……ここで気付かぬうちにやってたの?!
うわっ、はっず!! 顔熱っ!?
みるみる顔が熱くなってくるのが分かり、私もローサンと同じように体を横にしてそっぽを向いた。しかも意識してしまったせいで少しムラムラしてしまい、自然と手が股に伸びた。
くっ、気持ちいいけど同室の相手がいる状況でヤルのは、ちょっとどころか滅茶苦茶恥ずかしいし気まずい!
……こうなったら!!
私は雑念を捨てる為、深呼吸してから目を閉じてアウレア寮長を想像した。
フワフワ、モフモフ……モチモチ、いい匂い……あぁ、柔らかい天国だぁ~。
記憶を参照した妄想で髪と肉感を堪能し、口の端から垂れた涎を拭って復帰した私は起き上がった。時計を見れば、既にお昼の時間だった。
「ローサン、大食堂に行こう」
「ん、先に行っててくれ。少ししたら行く」
「分かった」
一人で寮を出て、大食堂で昼食を摂る。
そして午後、何かあったのか少し不機嫌そうな指揮官の指導の下、私たちは素振りをしたりランニングをしたり、新たに魔法の練習を行った。
私は火属性のアニマガールとして一般的な初歩の魔法、ファイアボールを無意識で使えるレベルまで続けさせられた。威力は控えめで、両手で持てるくらいの火球を何発も撃っていたが、これがまた疲れる。体の内側から力が抜けて倦怠感が増えるような感覚があり、魔力というのものがなんとなく感じられた。
ローサンの方は、回復魔法が傷以外にも大体の肉体的症状に効くということで、指揮官に対してひたすら回復魔法を掛けて癒していた。なお、回復魔法の効果範囲は非常に狭く、手から離れて一メートルぐらいが限界だった。
訓練が終わり、私とローサンは寮に帰宅する。
お風呂と夕食をどちらから済ませるかは個人の自由であり、私とローサンは先にお風呂に入る派だ。
暖簾をくぐって蓄熱症用の狭い脱衣場に入り、洗濯すら不要な放熱スーツを脱いでタオルを手に浴室に入る。浴室は湯気も無くひんやりとした空気で、床は気持ちのいいくらいに冷えている。蛇口も冷水しか無く、湯船に至っては装飾を兼ねた双子のマーライオンの口から水と氷が出て氷水となっている。広さそのものは隣の大浴場と違って五人同時に入れる程度の大きさしかない。でもその大きさで充分だ。蓄熱症のアニマガールは数がとても少ないのか、まだこのお風呂で出会ったことはなく、独占状態だからだ。
私はまず風呂椅子に座って髪を傷めないように丁寧に洗う。次に洗顔、そして体と、これまた丁寧に肌を傷つけないように優しく洗う。
以前はもっと適当だった気がするけど、これが淑女として当然のやり方だ。
髪も体も洗ってスッキリすれば、後は湯船に浸かるだけ。いつも熱の籠っている体を氷水が冷やしてくれて気持ちがいい。
極楽気分を味わってしっかり体が冷えたところで、湯船を出て脱衣場に戻る。体と頭を拭いて放熱スーツを着用してから、朧げな記憶だが矯正の一環で購入した化粧水や美容液や乳液でスキンケアをする。最後に濡れた髪をドライヤーでしっかりと乾かす。時間が掛かるのがちょっと不満だが、これも淑女でありアイドルとして必要なことだと丁寧にこなした。
その後は教科書を読んだり柔軟体操をしたりローサンと他愛のない話をして過ごし、歯を磨いてから互いに「おやすみ」を言ってベッドに入った。
暗くなった部屋の中、目を閉じて寝始めたところでローサンがぽつりと言った。
「ミサニィ、すっかり女になっちまったな」
「……私は最初から女だよ」
「……そうだな。わりぃ、言い方が悪かった。矯正でいい女になったって意味だ」
「そっか。ありがとう」
ローサンにまた褒められた。ネーロには感謝している。
アニマガールは兵士でありアイドルである。そしてアイドルとは偶像だ。一挙手一投足が見られ、発言一つで大問題になることだってある。
だからこそ女らしさと礼儀作法を徹底して教えてもらい、立派な淑女になれた。記憶は朧気だが、自然な動作を覚えさせる為に催眠に掛けた副作用のようなもので、問題はない。
ネーロが言っていたから、間違いないが無い。
ちょっとした情報。
アウレア寮長の因子は犬。品種はゴールデンレトリバー。
ネーロの因子は鳥。品種はハシボソガラス。