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起きたら人間やめてました

作者の別作品『オールワールド・オンライン』の息抜きで書いていきます。

なのでこっちの投稿ペースはかなり遅くなるかと思います。

他は知らない。



これは、ケモ耳少女が指揮官の指示の下動いて、でかい武器担いで、魔物を狩って地上奪還を目指す物語です。


GOD EATER と NIKKE と ウマ娘 の良いと思った部分を合わせたら出来たものです。




「――――知らない天井だ」


 起きたら見知らぬ白い天井だった。

 消毒液の臭いがしていて、白を基準とした病室だった。窓からは日差しが差し込んでおり、とても静かで天国とすら思えてしまう。

 ベッドの傍の棚の上には細長い花瓶が一つあり、一輪の花が差し込まれていた。ピンクで華やかな多くの花弁が光で宝石のようにキラキラと輝いて見える。よく見ればそれは、造花であることが分かった。


「……俺は、いったい……?」


 分からない。

 何も思い出せない。

 ただ、声が変だ。風邪でも引いて、ぶっ倒れて病院に運び込まれたのかもしれない。


 その証拠に体が熱くて火照っていてだるく、全ての感覚が鈍っていてフワフワふらふらの俺は動く気にならなかった。


 体力を回復する為にジッとしていると、扉が開く音がした。

 そちらへ振り向くと、妙に色気のある女性看護師がやって来た。タイトなミニスカートにサイハイソックス、ガーターベルトを見せつけて、胸元は開けて大きな胸の谷間を見せつけている。


 そういうこともする病院なのか?


 そんなことを思っていると、看護師は俺が起きていることを認識して目を見開いた。


「あっ、あ……目が覚めたんですね!? 先生を呼びますので、少々お待ちください!」


 パタパタと慌てて病室から出て行った。


 何をそんなに慌てているのだろうか?

 もしかして、そんなに重症だったのか?



 暫くすると、さっきの看護士が医師を連れて戻って来た。白衣を着て眼鏡を掛け、理知的な顔つきの顎髭が似合う初老の男性だ。


「目が覚めたんですね?」

「ああ、はい」

「そうか良かった! 調子はどうですか?」

「……なんか、熱くてだるいです。重い風邪ですか?」

「いや、違います。君は『蓄熱症』という不治の病を発症しているのです。体が熱を溜め込んでしまう病気です。だるいのは熱と解熱剤のせいですが、冷却シートにくるまって安静にしている状態なら、死にはしません」

「そうですか」


 安心して眠ろうとしたが、医師が検温を始めた。

 機械式で、ピッ、と一瞬で体温を測られた。


「四十三度、安定していますね」


 四十三? それって死ぬレベルでは?


「あの」

「ああ大丈夫。落ち着いて。蓄熱症は平均体温がかなり高くなります。でも体も丈夫になっているから、問題はありません」


 聞こうと思ったら手で遮られた。


 体も丈夫?


 頭の中で首を傾げていると、医師は看護師の方へ振り向いた。


「君、念の為に鎮静剤の用意を」

「はい」


 俺に向き直り、落ち着かせるように言った。


「いいですか。落ち着いて聞いてください。あなたはここ数日昏睡状態でした。三日です。三日、眠り続けていました。事故に遭ったんです。交通事故……直接は見ていませんが、警察によると、大型トラックとの正面衝突だったらしいです。残念ながら、あなたの両親はその時の事故でお亡くなりました。それに、祖父母や兄弟、親戚もいないと聞いています。お悔やみ申し上げます」


 同情するように頭を下げられたが、俺はこの気まずい空気に戸惑っていた。


「あの……」

「はい、何でしょう?」

「……非常に言い辛いんですけど、俺って……誰なんですか?」

「っ……!」


 医師は驚きのあまり息を呑んで固まってしまった。看護師に至っては用意していた注射器を落とし、口を両手で抑えて同情して泣きそうになっていた。

 ただ、そういう患者を診た経験があるのか、医師の方はすぐに立ち直った。


「……そうですか。なら改めて、落ち着いて聞いてください。あなたは何かあった時の為に、ある意思表示を身分証に記していました。それに則り、私は手術をしました」


 そこで言葉を区切り、医師は深呼吸して看護師に振り返った。


「君、鏡を持って来てくれ」

「はい」


 立ち直って落とした鎮静剤を捨て、新しい注射器を用意していた看護師は返事をし、少し離れて、すぐに戻って来た。

 医師と看護師はお互いに目を合わせて連携が取れることが分かると、再びこちらを向いて言った。


「落ち着いてくださいね。これからあなたは驚くことになります。決して暴れたりしないでください。私たちが傍に付いています。力になります。だから気を強く持ってください」


 医師が看護師に振り向いて頷くと、看護師は持っていた鏡を俺に向けた。


「……え?」


 誰……これ?

 女――いや、美少女?


 髪が真紅だ。黒いメッシュが入っている。

 瞳はオッドアイで右目が赤く、左目が黒い。

 耳が頭の上から生えてる?!?

 猫っぽい。いや、これ、猫だ!

 しかもなんか、黒い首輪着けられてる!?


「いや、いや、なんだこれ? どうなって、え? え?」


 意味が分からない。

 顔がこうなら体は?

 胸がある!

 股は――届かない!?

 ナニコレ? 鎖? 手枷?

 邪魔だ。邪魔!

 千切れろ! 壊れろ!

 ジャマジャマジャマジャマジャマ!!


「落ち着いて! 大丈夫です! 落ち着いて!」


 医師に呼び掛けられ、俺はハッとして何とか落ち着こうと努めた。


「そうです! 落ち着いて、ゆっくり深呼吸を……深呼吸……そうです。落ち着いて……大丈夫です。大丈夫……」


 俺は深呼吸をし、荒くなった呼吸を必死に落ち着かせた。

 その甲斐あって、俺は何とか平静に戻ることが出来た。

 布団が完全にはだけ、病衣の上から俺の体が見えている。今なら触らなくても分かる。男のモノが、無い。

 それに尾てい骨辺りから赤と黒の縞模様の猫の尻尾が伸びて横に垂れており、自分の意思で動かせた。


「……あの、俺……どうして、こうなってるんです?」

「先ほども説明しましたが、あなたは身分証に、ある意思表示をしていました。それはアニマガール手術の了承です」

「アニマガール?」

「ええ、魔力を持ち、適性のある人間が受けることのできる手術です」


 医師は看護師に振り向く。


「君、記憶障害者用の資料と、アニマガール手術者用の資料を持って来てくれ」

「分かりました」


 看護師が出て行くのを見送り、医師は再びこちらに向き直った。


「非常に辛い現実に直面することになりますが、どうか耐えてください。あなたは事故で、奇跡的に一命を取り留めました。命は大事にしてください。アニマガールになっても、幸せは掴むことが出来ますから」


 医師の目が嘘偽りないものだと判断し、俺は頷いた。


 暫くすると看護師がタブレットを持って来て差し出し、俺は受け取って目を通した。




 ……どうやらこの世界、既に終末を迎えてるようだ。



 百年以上前、突如として大規模な地殻変動と共に魔物という生物が世界中で大量出現した。

 魔物は別の世界へ通じると思われるゲートから雪崩れ込んで来ていて、小型の魔物を一体倒すのに戦車一個中隊が必要という絶望的な戦力差があった。


 で、世界の軍隊が結集して人類抵抗軍を作って戦ったが、善戦虚しく敗北に敗北を重ね、島国で魔物の被害が最もマシだった日本に人類は集合。アーコロジーという生産と消費が自己完結した建造物を、世界中から集めた資源と人材を駆使して数年掛けて地下に建設。『アンダーワールド』と名付けられ、五百万人ほどの人類が逃げ込んだ。

 その時に世界中のデータや資料、植物の種子、家畜や無害な生物、生きたまま運び込めなかった多数の生物の遺伝子も一緒に運び込まれ、神話のノアの箱舟のような状態となった。


 事実上人類は魔物に完全敗北し、唯一残った日本は国名を変更、人類最後の国家『ミッドガルド』と改めて現在まで存続している。

 なお、地下に逃げ込んだ人間の過半数以上が日本人の為、公用語は日本語である。


 今現在では地下空間の拡張が進み、人口も増加し、一千万人以上が魔物の脅威に殆ど怯えることなく暮らしている。




 何故か扱い方を覚えているタブレットを操作し、次の資料に目を通す。



 アニマガールとは、魔物に唯一対抗出来る人類の希望である。


 名前の由来は、英語で動物を意味するアニマルと、少女を意味するガールを合わせて作られた造語である。


 アニマガール手術は極秘事項の為、記載不可。


 男性アニマガールは存在しないが、素体が男性でも手術中に女性に作り替える為、問題ない。ただし、その場合は全身の肉体変化によって凄まじい苦痛が伴う。

 アニマガールの容姿は、十代前半から二十歳前後までであり、共通して美人であり不老。寿命は普通の人間よりも遥かに長いとされている。

 動物の耳と尻尾が生えるのは、副次的作用の結果である。本来の目的は動物の因子を入れることで肉体を強化し、強い魔力に耐え得るようにする為だ。

 髪や瞳の色が変化しているのは、魔力の属性が関係している。

 アニマガールは魔物と同様に強い魔力を持っており、人間を遥かに凌ぐ強靭さと回復力、運動能力が備わっている。


 その為、人間を傷つけないようにする措置として『隷従の首輪』を全員が着けている。着脱不可。魔法の術式が組み込まれており、アニマガールは意図的に人間を傷つけることが出来ない。

 また、特定の人間の命令には逆らえない。


 なお、アニマガールは人間では無く生体兵器という扱いの為、人権が存在しない。

 人間だった時の戸籍も完全に抹消され、元に戻ることも不可能。

 低確率ではあるが、アニマガール特有の不治の病を発症する可能性有り。代表的なのは『蓄熱症』『慢性低体温症』『帯電症』等がある。他にも変わった病があり、いずれも完治実績無し。


 もし手術を受ける場合はよく考えるように。





 読み終えて首輪を触る。何かを取り付ける為の丸い金具が付いている。

 まるで自分が人間ではなく、人間に飼われているような感覚を持ってしまい、変な気持ちになった。


 ……もう人権無いんだな。


「俺、こうからどうなるんです?」

「アニマガール専用の学園で過ごすことになります。入学手続きなどは既に済ませてありますが……今日はまだ休んでいてください」

「そうですか」


 そういうことらしいので、俺はお言葉に甘えて休むことにした。今は静かに過ごす時間は有り難かった。


 記憶が無いのに起きたら美少女になっていて、おまけに人権が無い。精神的に不安定にならない方がおかしい。


 俺が暴れず大人しく過ごせると判断したのか、医師が手枷を外した。ただし、脱走防止として首輪の金具に鎖のリードが繋がれた。

 リードは壁の中に埋め込まれていて、緩く引っ張れば伸び、強く引っ張れば固定される仕組みだ。

 医師と看護師が出て行ってから試しに外そうとしてみるが、途中で力が入らなくなり、手が動かなくなった。


「これではペットだな」


 外すのを諦め、寝起きの尿意を自覚した俺は病室の中に設置されているトイレへ入った。綺麗な水洗トイレで、扉にはリード用の溝があるので閉めることができる。

 病衣のズボンを下ろそうとしたが、尻尾が引っ掛かった。


「邪魔だなぁ」


 愚痴りつつも尻尾を自分で動かし、尻尾穴から抜いてズボンを完全に下ろした。

 続いてパンツ。完全に女性物でピタッと貼り付いている。こちらも尻尾穴があって、脱ぐのにひと手間必要だった。


 と、ここで俺は自分の股間が気になって下を向いた。


 リードが邪魔。

 胸……好みの大きさだ。大き過ぎない程度に大きい。

 股はツルツル……。


 女になっていることを改めて認識したが、特に感想は無かったので座って用を足した。

 出した後はトイレットペーパーで軽く拭き、パンツとズボンを上げる。


 うん、尻尾が面倒臭い!


 苦戦しつつもズボンを上げ終わり、水を流して手を洗ってトイレから出た。

 病室を見渡し、ウォーターサーバーを発見して紙コップに淹れて一杯飲む。


 水うま~。


 記憶にないが、数日ぶりに飲んだ水は五臓六腑に染み渡る。

 紙コップを捨て、次は洗面台に付いてる鏡の前に立った。


「改めて見ると……凄い美人だな」


 首を傾げてしまう。

 十代後半の美少女で猫みのある顔つきだ。試しにキリッと表情を作ってみると、自分なのにドキッとしてしまった。


 少し息を整え、もう一度鏡を見る。

 髪は真紅で黒いメッシュが何本も入っている。手で触れば細くて艶があり、綺麗な髪だと分かる。ただ、かなり長い。お尻まである。


「さてさて耳はひゃっ!」


 先端が黒くなっている猫耳を触ったら、思った以上に敏感で変な声が出た。


 これは……慎重に触らないと。


 俺はそっと触り、ゆっくりと優しく撫でた。それだけで脳内の快楽物質が分泌されて癒されるような気持ち良さを感じ、鏡に映る自分の顔が蕩けているのが分かった。


 自分でやってこれだけ気持ちいい……なら、他人にして貰ったらもっと気持ちいいのでは?


 ――ごくり。


 優しく耳をマッサージされる場面を想像し、生唾を飲んだ。


「って、いやいや! 何を考えてるんだ俺は!」


 パチパチと頬を軽く叩き、正気に戻った俺は無駄に火照り始めてだるくなった体を休める為に、ベッドに戻って寝転んだ。

 シーツも掛け布団もひんやりしていて気持ちいい。



 ぐぅ~、とお腹が鳴った。


「お腹空いた」





 その後、お腹が鳴り続けて空腹に耐えていると、昼食の時間ということで看護師が料理を持って来た。

 病院食のお粥だ。大きな梅干し、海苔の佃煮、鮭の切り身が別皿に用意されていて美味しそうだが、一つ問題がある。


「……あの、量が多くないです?」

「アニマガールは人間より強い分、燃費が悪いんです。これでも少ない方ですよ」


 これでも少ないんだ……。


 目の前に用意されているのは直径三十センチほどの丼。高さもかなりあって深い。そんな巨大丼にお粥がギリギリまで入れられている。


 看護師を見つめるが、ニコニコされるだけで食べきれないとは思われていない。

 覚悟を決め、手を合わせた。


「いただきます」


 まずは一口。


 ……お粥だ。


 味付けが一切ない、食べやすくて安心する味。

 ひょいぱく、ひょいぱく、と無心でスプーンと口を動かして食べ続け、味を変える為に別皿に載っている梅干しや海苔の佃煮、鮭の切り身を投入する。


 美味しい。


 数日ぶりの食事だからか、体が求めているのが分かる。

 が、ここでふと疑問が思い浮かび、持っているスプーンが止まった。


「……あの、お粥と梅干はまだ分かるんですけど、海苔の佃煮と鮭の切り身って、どうやって調達してるんです?」


 そう、ここは地下。地上は魔物だらけ。

 米と梅は生産できそうだが、海藻と魚は状況的に高級品の筈だ。

 看護師は意外そうな顔をした。


「あら、食べ物の名前は分かるのに、肝心な部分が抜け落ちてるみたいですね。実はここに出された食品、全部“オール”という食材から出来てるんですよ」

「オール?」

「はい、オールです。万能栄養食材と呼ばれる物でして、これを食べているだけで生きられる凄い代物です。現物は四角いブロックなんですけど、人類が創意工夫した結果、今ではほぼ全ての料理の見た目と味を再現できるようになったんですよ」

「おぉ……原料と製造方法は?」

「どちらも極秘事項で、知っているのはオールを生産している企業の社長と現場で働く社員、あとはミッドガルド政府の高官くらいでしょうね」

「おぅ……」


 多分、知ったら食欲無くすタイプの情報だ。

 少し食欲失せたかも……。


 再びお粥を口にする。


 やっぱり美味しい。気にしたら負けだな。




 食事を続け、多いと思っていたお粥をぺろりと平らげてしまった。お腹が少し膨れているが、これでも腹五分目といったところ。

 少々物足りないが目覚めたばかりで沢山食べるのも体に悪いだろうと思い、俺は看護師に渡された錠剤タイプの解熱剤を飲み、歯磨きをしてから再び寝た。

 解熱剤の副作用の眠気がかなり強く、俺はあっさりと意識を手放した。





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