魔王の素顔
お久しぶりです
『あっ、もう2時か。…明日ちょっと用事あるから終わりにするわ。ここまで見てくださりありがとうな。また次の配信で。』
そう声を発した数秒後に俺は配信を閉じる。長時間座りっぱなしで固まった体を伸ばす。
「う~~っ、つっかれた~。」
思わずそんな声を上げながら立ち上がり配信部屋の扉を開け、バスルームへ向かう。今日はアリーナのランクをやっていたためか若干視界がぼやけているが、いつもの事と思い素早くシャワーを浴びて、ベッドに入る。俺の寝室と配信部屋を分けたいと言う希望により、通常ならば1人では広いぐらいの部屋を借りているため、こう言う時の移動が少々面倒くさい。そうしてベットに横になるとすぐに目を瞑り、そのまま意識を手放す。
そうして翌朝、というには少々遅い時間に何かに抱きつかれる感覚を覚えて目が覚めた。
「んっ、ん~?」
「あっ起きた?おはよー、海斗。」
「…まひる?なんでいるの?」
「あれま~、今日に限ってこれか~。もう、海斗起きてってば、今日G&Aの集まりあるじゃん。」
「あ~あ、そういえばそうだった~。」
ん~ん、ねむい~
「ほら、そろそろ離して。支度していくよ?」
「ん~。」
「・・。はぁ。もー、こうなると長いんだから~。・・・・あっ、Kazuさん?うん、そうそう、真昼です。海斗が起きないから私ら遅刻する。・・・うん、わかった。起き次第急いで現地に向かいまーす。はい、よろしく。・・・ったく、しょうがないんだから。」
その後俺の意識がはっきりとするまでに約30分ほどかかり、急いで朝食などを済ませて集合地点ではなく会場に向かった。
「すみません、寝坊しました。」
「申し訳ないっす。」
「8toくんに姫もおはよう。君が寝坊なんてめずらいしね~。なんかあったの?」
「いや、疲れが溜まってたっただけですよ。それに詳しいことは、アイツに聞いて下さいよ。」
「あっ、誰かと思ったら、和馬さんじゃないですか。お久しぶりです。」
「いや~、ごめんね。俺が昨日こき使った上配信あったらしくてさ。寝起き悪かった?」
「ん~ん、悪いというより、ふにゃふにゃで甘えん坊って感じでしたね。まあ、いつものですよ。」
「ならいっかな。ってあれ、なんかこの部屋寒くない?」
「いや、寒いというより、何がとは言わないけどすごく痛いわ。てか、俺の今朝の様子じゃなくて昨日のこと話せよオメーわ。」
「うわ、ひっど。兄に向かってなんてことを。」
「兄だからこそ容赦なく言えるんだよ。」
「はぁ?それ、どういう事?海斗、後で俺の部屋こいよ。」
「こわっ、俺なにされんの?」
ふふふ、相変わらずだな~あの2人は。きっと、昨日も配信までこっちにいたんだろうな。
「なあ、レインちゃんよ。これどういう状況?」
「いや、単なる兄弟喧嘩というか、仲良く戯れあってる感じですかね~。相変わらず仲がいいですね。」
「あの2人兄弟なんだ。ってそういや、名字一緒か。」
ああ、気づいてなかったのね。まあ、私も言われるまで分からなかったんだけど。
「ってか君がレインなんだ。へー、思ったよりかわいい子だった。となると、主催と喧嘩してるのが8to?」
「えっと、その声はJさん?」
「うわっ、なっっつそのネーム。今はレピーって名前で配信してるんだよ。」
「へー、って前のアリーナのカスタムに居ましたよね。通りで視点見た時になんかG&Aっぽい動きだな~って思ったわけだ。」
「まあ、君たちに何度か轢き殺されたけどね。何なの8toの強さって。」
「まあ、もうあれは人じゃないと思ってますよ。」
「誰が人じゃないって?レ・イ・ンちゃん?」
「ってかサラッと流しそうになったけど、何で8toの家にレインが起こしに行ってるの?って、ああ、聞くまでもないか。そう、ようやく付き合い出したか。」
いや、ようやくって。
「あっはははは。やっぱ隠せてなかったんじゃねぇか。」
「おい、そろそろ殴るぞ?」
「いや、ごめんって。でも、ね?アレで隠せてると思うのがすごいよ、お前ら。」
「うっせ。ってか瑞樹素が出てるって。」
「まあまあ、2人ともその辺にしてさ。せっかく何だから他の人と話したら?2人はいつでも話せるんだからさ。」
「…まあ、それもそうだな。ってことでまた後で。」
その後は、いろいろな人と話した。元プロが集まっていることもあり、ほとんどの人とは対戦またはマッチしたことがあり、とても話しやすく、いい時間を過ごせた。ただ俺の第一印象を聞くと必ず『バケモノ』って出てきたのは気に入らないな。
「じゃあ、あとは時間まで各々好きにやってて。俺は仕事に戻る。・・・っと、海斗と真昼ちゃんと一久さん、終わってからでいいから、俺の部屋来てくれる?場所は海斗がよく知ってるから。」
「どうせ俺に関しちゃ強制だろうが。」
「まあな。この2人にもそろそろあのこと話してもいいんじゃねぇの?」
「あの事?何それ?」
「分かったよ。聞きたいなら後でついてきて。」
「そんじゃ、よろしくね~。」
そうして言うだけ言って兄はこの場を離れてった。
ーーーーーーーー
「んで、何で呼び出すんだよ。」
俺と真昼、一久の3人は何故か瑞樹に呼び出されていた。
「こら、そんな顔しない。真昼ちゃんと2人になりたいのもわかるけどさ。」
「昨日の今日で何があるんだよ?」
「これはさ、兄とかじゃなくて一企業の社長としての話なんだけどさ。」
そう瑞樹が切り出したことから、俺は少し姿勢を整える。
「めずらいしね。そう切り出すってとこは、真面目な話ってことだ。」
「まあ、そういう事。まあ、海斗は何となく察してると思うんだけどさ、今うちって明確な副社長を置いてないんだよね。んで、俺的にはその席には海斗に座ってほしいと思ってるんだよ。」
「ま、前々から言われてたことではあるな。」
「え?そうだったの?」
「そうなんだよ。ここ来るたびに誘ってはいたんだけど、今回さみっとやめたからいいチャンスじゃんか。」
「まあ、ぶっちゃけ悪くない話だとは思うけど、俺は今のぐらいのポジションがちょうどいい。」
「うん?・・・海斗ってこの会社だとどんな感じなの?」
「簡単に言うと外注先って感じかな。時々受けたのはいいけど、思いのほか処理が複雑になっちゃって困ったときに海斗にお願いしてるんだよ。ちなみに昨日来てもらったのもその一環なんだよ。」
「だから、俺的に副社長とかっていうかたっ苦しい役職とかには付きたくないんだよ。」
「いや、それは知ってるって。でも海斗人をまとめたり、使うの上手いじゃん。」
「いや、ないない。俺ただのコミュ障陰キャだって。」
「いや、海斗に限ってそれはないだろ。それにゲームだと率先して指示出してるから冷静に周りを見た上で、素早くその場においての最適解を出してるわけじゃん?それって会社とかで上に立つのにもある程度必要なことで、案外難しいんだ。」
「確かに。私海斗たち以外とカスタムとかするときIGLやってとか言われても、海斗ほどうまくできないもん。それって経験もそうだけど、才能的な面もあるんだろうね。」
まあ、俺自身他人を使うことに抵抗とかはないし、その場その場での決断力もある程度あるとは思うけど。ただ…
「まあ、あれだ。今時点ではまだやらないってだけで、配信業とかの表に出ることにそのうち飽きてくるからその時は雇ってくれよ。もしくは、真昼と結婚するときかな。そうなれば流石に定職についていたい気持ちもあるから。」
「うーん、まあいいか。今現在もこの会社の役員ではあるし。さっきの答えで及第点かな。欲を言えばちゃんとうちで雇っておきたかったんだけどな。海斗ほどの人材って案外いないんだから。」
「いや、俺の技量的には大したことないから。それこそ一流のプログラマーにはかなわないから。それに、俺としては今の働き方が性に合ってる。わざわざ正社員として働く意味もあんまりないからな。」
「まあ、そうだよな。海斗って別に金に困ってないもんな。株の配当金だけでも十分生きていけるもんな。うちの仕事も半ば強制されてやってるところもあるのか。」
「今は楽しいからやってる感じかな。でも、初めはいやいやだったけどな。交換条件だったからしょうがなかったけどさ。」
「ちょっと待って?海斗の家って普通の家だったよね?何と何を交換したの?」
「え?プロゲーマーやってもいけど代わりに何かしらの形でこの会社に貢献しろと。結果的にプログラマーとして面倒ごとを引き受けてたってわけ。時々配信休んでるときはここにきてるか、家で作業してるかって感じ。正直面倒だけど、色々勝手にいじれたりするからまあいいいかなって。」
「まあ、今日のところはこのぐらいにしておこう。Kazuさんが情報を処理しきれないみたいだし。」
そう言われてKazuのほうを見ると何とも言えない顔で考え込んでいた。確かに処理しきれていないみたいだな。
「そうだな。またなんかあったら連絡してくれ。時間作ってくるからさ。」
「オッケー、じゃあな。暇な時に連絡するわ。雑談にぐらい付き合えよな。」
「まあ、気が向いたらな。」
「はあ、うちの弟が冷たい。真昼ちゃんとKazuさんもまた。」
「はい、また連絡しますね。」
「えっと、本日はありがとうございました?」
さっきよりかは復活してきたKazuが場違いな感じがしたからか疑問形で答えた。
「ああ、別に僕に対して敬語使わなくてもいいよ。社長ではあるけど、海斗の兄であることに変わりはないから。それに敬語とかってかたっ苦しくて嫌いなんだよね。」
まあ、うちの家族ってそういう傾向にあるよな。俺も他の人に敬語使われるの嫌いってかなんか変な感じがするし、両親ともに基本的にため口だしな。
「wwwあっははは。ムリ、瑞樹が敬語使われてるとか。違和感ずげーわ。」
「いや、海斗。俺社長ではあるんだぞ?むしろ敬語で接するのが普通なんだぞ?」
「いや、にしてもな?普段ここにいてもタメ口だからさ。改めて見るとな。」
「なあ、レイン。この2人いつもこんな感じなのか?」
「そうだね。本当に仲良いよね。瑞樹さんもゲーム上手いから2人で煽り合いながらやってる時もあるけど、そんな喧嘩みたいにはならないんだよね。」
「え?エイトと遊べんの?相当上手くね?」
「本人曰く、海斗と遊んでアドバイスもらったり、動き見てたらそうなったとか。」
「そう言えばさ。瑞樹うちの配信一回出てみない?」
「やだ。面倒くさい。それに俺、途中で本名で呼ぶ自信あるぞ。いいのか?身バレするかもだぞ。」
「いや、もう二十歳超えたしさ。それに前の公式配信のところから、兄弟説かなり出てるぞ。」
「ああ、その切り抜き見たな。結構惜しいところまでは来ててビビった。」
「あれ、俺らの知り合いっぽいけどな。なんかわざとずらしてそうな感じしたし。」
とは言え、そいつを特定しようとか考えないけどな。ただやられていい気分でも無いよな。
「あっ、それ私も見てみたい。リアル兄弟配信とか絶対面白いし、2人ともアリーナ上手いんだからランクとかやればいいんじゃない?」
「え~、こいつとデュオランクとかガチでつまらまいんだけど。それに俺が撃ち合いに参加する頃には海斗が全部片付けててあんまり美味しく無いんだよね。」
俺と瑞樹だけの配信とか需要あんのか?別に普通の兄弟だと思うんだけど。
「なんか、ぜいたくな悩みだな。普通に考えて楽できるんだからいいだろ。ポイントも盛れてるんだし。」
「というか、瑞樹さんってGAやってたんですよね?」
「ん?そうだけど。もともと海斗と一緒にやってたね。初めは俺の方がうまかったのにいつの間にか追い越されてたよ。」
「その時のランクってどのぐらいだったんですか?」
「え〜、何だったかな〜?」
「最高ランクまで自力で上げてたぞ。今じゃ本業が忙しくて時間ないからできてないけど、プレイスキル自体かなり高いからな。」
「まあ、そんな時もあったな。・・・そろそろ話題もないし帰る?」
「俺はそうする。帰って寝たいから。またなんかあったら連絡くれよ。」
「はいはい。何もなくても連絡するよ。」
「はぁ、まあいいよ。じゃあまた。」
こうして俺は自宅へ帰った。
誤字脱字などありましたら教えてください。