事務所にて
さみっとのオフィスに着きいつも通り自分の持ち場に向かうと、見知った人物が俺のデスクの前で待っていた。
「何のようですか、桜井さん?」
そう声をかけたのは所属している選手のマネージャーの総括をする桜井進だった。俺が選手時代に担当だったため他のマネージャーよりも打ち解けている。
「いや、まさか君があの話を受けるとは思わなかったからな。一時はもう競技には出ないとまで言っていたからね。しかもこの話を受けるメリットが君にはないように思うし。」
「まあ、いろいろありまして。桜井さんにだから言いますし、そのうち伝わるだろうから言いますけど、緒方社長が頭下げてまで頼んできたんですよ。」
「…あの社長が?本当かい?」
「本当ですって。今まで俺が見てきたあの人の中で一番真面目な顔して俺の影響力やら、ストリーマーとしての推定の収入の話、さみっとの現状なんかを言われちゃ、断れないですって。それに俺としてもいい機会だったんですよ。」
「?そっちの部署で何かあったのか?」
「そう聞かれれば、俺が入社した時からずっとありますよ。ここの社員の多くは俺が過去に『8to』として所属していた事を知っている人がいるじゃないですか?」
「そりゃあ、そうだろ。ウチのチームをトップクラスに導いた3人のうちの1人だからな。当然知ってる人がほとんどだろうな。何なら君に憧れて入ってきた人もいるくらいだからな。」
「そこは素直に嬉しいですね。ただ、俺の直ぐ上の先輩方からすると気に入らないみたいでして、仕事押し付けられたり、コネ入社だと言われたりとそんな事がこの1年ずっとでしたよ。もちろん、全員がそうと言うわけではないですけど、そう言う人が一定数いたことは事実ですね。なんか達成感のない仕事をただただやるのも限界だったんですよ。そんな時に社員を辞めてストリーマーにならないかと言われたら、そっちに傾いちゃうでしょ。あと純粋に、俺には会社員は向いてないですから。この決まった時間に何かをするって事自体がかなりストレスなんですよね。」
「フッ、そうだね。君は元々そう言う人間だったな。特に選手時代は何かに追われるのを嫌っていたな。ここに社員として入ってきてからは、きっちりと仕事をしていて忘れていたよ。私個人から見ても君はここで社員でいるよりも、ストリーマーとして、君の持つ才能を発揮していた方がいいと思ったしな。…と言うかあのままプロでいることもできただろうに?」
「本当に今あの頃に戻れたら、絶対にそうしますよ。それじゃあ俺はやることあるので。しばらくは出社するんでまた何かあれば教えてください。」
「おっとそうだな。これからもよろしくね。」
その言葉と共に桜井さんは自分の持ち場に戻って行った。
「えっと今日は…ああ、これか。さっさと終わらせよっと。」
気持ちを切り替えて仕事に取り組み出してしばらく経った時だった。
「あっ、8toだ。本当ここにいたんだ。」
と言う声をきっかけに現実に引き戻された。
「業務中だ、話しかけんな。」
「いや、仮にも数年ぶりに会うチームメートに対しての反応がそれかよ。」
「こんなもんだよ。まあ、またよろしくなkazu。」
「マジでこれだけ終わらせれば、急ぎのやつなくなるからやらせてくれ。」
「りょ〜かーい」
その後集中して仕事を片付けると改めてkazuと話す。
「それにしてもさ、俺にkazu、姫がさみっとのストリーマー部門初期メンバーか。緒方さんに何で言われたんだよ。」
「ああ、それね。さみっとにストリーマー部門できて8toもストリーマーとして復活するって言われたんだ。それなら是非ともお供したいって思っただけだよ。ちょうど来期の契約どうするか考えてた時だったからちょうどいい機会だったし。それに、この3人でなら、アリーナの大会出て、ある程度の成績出せそうじゃん。」
「あー、それな。俺と姫のリハビリ手伝えよ。もちろんソロでもやるけどさ。しばらくはリハビリ配信確定だから。」
「確かに。朝まで配信とかになるかもだけど大丈夫か?その辺優遇してくれないの?」
「まあ、一応出社するの午前だけにはしてもらえたから、昼夜逆転させれば朝でも行けるな。最悪休むわ。配信ではああ言ったけど、ぶっちゃけ俺無しでもある程度は回るからな。」
「そうか。ちょっと安心したわ。てか8toいまいくつ?」
「今年で22。短大卒の入社2年目。まあ、来年には辞めるけど。」
「まあ、社会経験あるし、エンジニアならなんかあってもみんな欲しがりそうじゃん。俺なんか元プロゲーマーってだけだからな。社会経験0の24歳ってどこも雇ってくれないからな。」
「いや、kazuは安泰だろ。どうせ貯金で相当暮らせるだろ。てか資産運用すれば余裕だろ。」
「と言うか、kazuは何しにきたんだ?」
「えっ?雑談と今日あるさみっと公式の新部門のメンバーお披露目に参加するため?」
「ああ、そういやそんなのあったな。てことは姫も来るのか?」
「何、きちゃ悪いの?8toってそんないじわるじゃ無かったのに。むー。」
「うわっ、いつのまに。」
「久しぶりだね姫。」
「俺はそこまででもないけど。またよろしくな姫。」
「うん、よろしくね、2人とも!あといい加減姫って呼ばないでよ。22にもなってその呼ばれ方はちょっと恥ずかしいよ。」
「うーん、無理だな。レインって普段の感じは守りたくなるような感じだから。」
「確かに。普段はな。」
「普段はって。まあゲーム中は口悪いからね。そのせいで、友達出来ても一緒にゲームするとみんな離れてっちゃうんだよね。」
「いや僕が思うに、単純に姫が強すぎてついていけないんじゃない?ジャンルも男っぽいのだし。てか姫って彼氏出来たことある?ちなみ僕は無いよ。」
「えっ、私?あるか無いかならあるかな。」
「…マジで?初耳。僕も知ってる人?」
「うん、相手8toだし。」
「…マジで?コイツ?」
「まあ、いろいろあってな。俺が男よけに使われた。てかレインに俺が8toってバレたのが始まりで、いいように使われた感じ。」
「ふーん。2人って、お似合いだから普通に付き合ってても変じゃないしね。てか、今も付き合ったりして?」
「さあ、どうだろな。」
「僕さ、2人の場合嘘でも変な人とは付き合わないと思うんだけど?」
『……』
「ふふ、まあ今は聞かないでおくよ。どちらにしろ僕たちの繋がりがなくなるわけじゃないし。」
「はあ、なんかkazuには黙っててもバレそう。姫、言ってもいいの?」
「別にいいよ。kazuさんならそのうちバレそうだもん。」
「お、なになに教えてくれんの?」
「はいはい、そうですね〜。俺と姫は付き合ってるよ。」
「まあ、そうだよね〜。君達結構分かりやすいから、薄々気づいてたよ。と言うか、プロゲーマーの間じゃ結構言われてたし。」
「…同じこと緒方さんにも言われた。そんな分かりやすい?」
「まあね。俺とかが席外して2人きりになると、甘々な感じだったし。」
「本当ですか?そんなつもりないのに。…ちょっと気をつけなきゃかなぁ。」
「別にアイドル売りしてないし、何なら8toと姫のカップリングを楽しんでるのも居たから大丈夫じゃないかな。」
「…そんななの居たのかよ。てかリアルでまでアカウント名で呼ぶなよ。」
「kazuの前だけどいいの?」
「いや、今更本名バレたところでな。そこまで影響ないし。何なら俺の名前なんてそこらの社員に聞けば知ってるし。」
「僕はどっちのもの知らないんだけど。」
「それじゃあ、改めて。8toこと、八崎海斗。」
「僕はkazu改め、乾一久です。カズでも一久でも好きに呼んで。」
「レイン、雨森真昼と言います。」
「海斗に真昼ちゃんね。ホントお似合いだよね〜。真昼ちゃん、俺にいい人紹介してくんない?」
「うーん、正直言って付き合うとなると業界のことそこそこ理解してて、受け入れてくれる人か業界の人になるから私が紹介できる人はいないかな。それに、一緒にゲームしたいなら強くないただし。」
「うわ、俺が言うのも何だけど難易度高いな。」
「何?僕に対しての嫌味なの?」
「いや、そんなことは「おっと、ここに居たのか。」って緒方さん。どうかしました?」
「いや、公式配信いつから始めようかと思って。八崎くんの方にある程度合わせようかと探していたんだ。」
「ああ、もうひと段落してるのでいつでもいいですよ。何なら今からでも。」
「わかった。…乾くんと雨森さんも大丈夫かな?」
「ええ、問題ありません。」
「大丈夫ですよ。」
「そうか。それなら今からmutterで告知するから、十分後スタートで行こうか。八崎くん、2番スタジオでやるから案内頼むよ。私はこれから用事があって抜けるから、何かあったら教えてくれ。」
「了解です。じゃあ、2人はついてきて。」
こうして、俺たちは公式配信の為にスタジオに移動した。
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