浮浪雲と色鉛筆
どうやら私の琴線に触れる多くの物は大衆性を持たないらしい。思いを正直に話せば共感を得られない事ばかりで中々に気まずく、結果、人の話に笑顔で頷く事を主としている。何かと少数派だが孤高なタイプでもないので、平和主義。自信もないのでこれでいい。
あぁ…だけど、先週解散してしまったバンドの話は誰かとしたい。知ってる人が誰もいない悲しみ。うぅ。いいバンドだったのに。
部活を美術部にしたのは各々が自由に活動する点に相性の良さを感じたからだ。
道具も自由。油絵、木工、タブレット。
コンクールに参加するのも、投稿サイトにアップするのも自由。
私はカチャ、と色鉛筆を取り出す。
私の平和主義な絵は長閑な色鉛筆がしっくりくる。そしてどこにも出さない。
ただ描きたいように描くのだ!
…なんて何を粋がってんだ。つまらない逃げ口上のくせに。
入部後、肌で知った美術の沼深さは想像を遥かに超えており、私は水面を浅く撫でるだけで精一杯だった。
しかし部員達は「好き」を胸に果敢に挑んでいく。
惰弱な私は結局ここでも一人だ。
浅くて半端でみっともない。
誤魔化して場当たりで。
ところが顧問の莉緒先生は目を細め、好意的な評価をしてくれた。
「優しさと孤独を表現したんだね?うん、可愛い絵だね。」
それは無意識だったが、見抜かれた事に少し浮かれ顔を上げる。
とは言え、賛辞だけではない。
「でも孤独を人のせいにしてるね。自分から抜けたんでしょ?」と容赦なく核心部を突く。
痛い。
色々見透かされ目が泳ぐ。好みが少数派なんだと気取るが、正直なところ無意味なプライドで流行りを意識的に避けているのもある。何が孤独だ。心を開けきれない私のくだらなさ。
「気持ちを分かってくれる一人に出逢えれば、それでいいんじゃない?本気で他人の評価を気にしない作品を作ってみようよ。」
止めの一言にクッと呼吸が止まる。心の奥底に言葉がぴたりとはまり、鼻の奥がツンとする。
出口が分からず卑屈に蹲りかけたところに光が差す。
その通りだ。平和主義なんて建前の八方美人な絵で何が得られる。一人が気付いてくれる一枚が描けたら、それが最高だ。
私の目を覗き「大丈夫!」と笑顔でポン、と肩を叩き隣の人に移る。
先生の茶目っ気たっぷりにニッと笑う、その笑顔は不思議な力がある。
怖い。…けど。
外を眺めて深呼吸する。
窓から運動部の掛け声が入ってくる。
乾いた風が薄い涙を乾かし前髪を揺らす。
高い空には浮浪雲が一つ。
こんな感性を持つのは私だけ…?そんな事はそうそう無くて。楽しそうに見えるクラスメートにもそれぞれ秘めた気持ちがあって、同じ様な事を思っている人は案外近くにいたり。少数派=孤独ではないと思うのです。
良ければ他のなろラジ大賞4への応募作品にもお立ち寄り下さい。本文のタイトル上部『なろうラジオ大賞4の投稿シリーズ』をタップして頂けるとリンクがあり、それぞれ短編ですがどこかに繋がりがあります。