僕たちはサンゾウを護りたい
【 序章 鎮魂の舞 】
西暦3XXX年 日本/東京内にての騒動
日本の砂漠化した土地、八王子。
そこには八人の王子がいた。
八人の王子には逃げないようにと足がなかったが、人柄は仕える者に好かれていた。そして王子たちがその砂漠の大半の所有地で精鋭となる子供たちを育て、将来に備えた。
その団体を、「妖怪退治屋」・・・
もしくは「西遊記機関省精鋭候補」と現在では言ふ。
東京に百鬼夜行の予定が発表され、人々はそれを今度こそ「脅威だ」とうわさした。
話はすぐに広まって拡散され、「西遊記機関省」とは別に、八王子の隠れ里にいる妖怪退治屋にサンゾウと言うコードネームで育てられた娘を見つけた。
まことしやかに、彼女は三蔵法師の生まれ変わりだと逸話が流行った。
彼女は王子の子供であり、彼らが誠王子であるなら、姫と言ふことになる。
彼女の遺伝子的な父親は不明とされているが、父親候補はうわさに聞くに八人の王子。
八王子だ。
* * * * *
しゃん・・・しゃん・・・
長い錫杖の輪っかの部分が歩くたびに揺れて、来訪を知らせる。
砂漠を歩いているのは白いローブコートをまとっているヒトガタ。
目深にかぶった帽子部分は陰り、それでもその顔は美しい者であるとなぜか思わせる。
錫杖を突きながら歩く姿は、その姿勢から若者であることが知れた。
突然の悲鳴。
白いフードコートを着ているその者は、声のした方に振り向いた。
「ひと・・・?」
ぼやいた声は風に揺れて、少年である可能性を入れると男女の判断はむずかしかった。
* * * * *
「う、わぁーーーーーーっ!!」
砂漠を走り回る美少年は、黒いもやに目玉がいくつもついている魔物に追われている。砂に足をとられて転んだ拍子に立ち上がれなくなる。迫り来る魔物に、もはやこれまでなのかと顔をゆがめて、手を砂ごとにぎりしめた。そこに来た白い突風。
白いフードコートを着た人物は倒れた美少年の前に立ちはだかると、錫杖をかかげた。
「何用かっ・・・?眠りを邪魔したのならすまない。鎮まりたまえっ」
* * * * *
「・・・ん?」
美少年は頭痛に意識をしながらも、そっと目を開けてみた。
白いフードコートを着た者の舞が見える。
錫杖の鎮魂の舞。
周りの砂が磁場かなにかで舞っている人物の周りを跳ねるように曲線を描いている。
(一緒に踊ってる・・・?)
少年は舞が終わって自分の頭痛がおさまってきた頃合い、近づいてくるその人物が白いフードを肩に落としたその顔が、美しい女性であることに安心して再び意識を手放そうとした。
その白いフードコートの若い女子は美少年の前にかがんで、可憐な声で質問をしてきた。
「鎮魂しました・・・あなたは誰?」
「・・・・・さる」
「さる?」
「ま さ る」
意識が途切れたのは安心からで、そして『まさる』は、これで最後でもいいやと思った。
【 一章:砂漠の姫 】
―――――・・・まさるが次に目覚めた時、いたのはどこかの建物のベッドの上だった。
側にあるローテーブルに「ちょっと席をはずします」と書き置きがある。
まさかあの女子は自分を抱えてここまで運んだのかと疑問が浮かぶ。
いや、ウィーザードボードだろう、と少し落ち着いてきた自分を自覚する。
そこに、小麦色の肌に肩下までの黒髪、緋い目の美少女がやって来た。
上半身を起こそうとすると、彼女はあわてて「大丈夫ですよ。養生して」と言う。
まさるは低反発のふかふか枕に後頭部をあずけて、一息吐く。
彼女は心配してくれていたようで、安堵にわずか微笑んだ。
自分でも意外なほど疲れで声は小さかった。
「ここは、どこ・・・?」
「妖怪退治屋の医務室です」
「君が助けてくれたの・・・?」
「はい。ん~・・・どうやらあなたは特殊体質ですね。よこしまに頭痛を起こす」
「その件で、用があるんだ。『姫』に掛け合いに来た」
「・・・私に?」
「君は姫なのか」
「はい、そうです」
「君を、砂漠の中、探して、いた・・・」
彼女は胸元をさらしで巻いていて、左片胸に対極図が記された金属の胸当てをしている。くびれの曲線とへそが見えていて、黒いショートパンツにフェルト素材の正面横半分の長い腰布を腰元の専用部分で縛っている。その腰布のすそは、装飾要素が槍先の形に似ている、とまさるは思った。
「側に座ってもいいですか?」
「ああ、うん。どうぞ・・・」
編み上げのかかとのあるオリエンタルなサンダルをはいている『姫』が、ベッドの側にある木製の椅子に座る。
「あなたのお名前は?」
「まさる」
「ああ、まさる、さん。『さる』しか聞き取れていなかったので、報告にサルだと言ってしまいました。申し訳ない」
「別に、それでいい・・・」
「父たちがあなたを珍しがっています。私に対面をしておきなさいと言っています」
「君は・・・不思議な力を持っているの?」
「あぁ・・・えーっと・・・はい。霊力は持ってるけど、コントロールの仕方がいまいち分からないので、砂漠地区から出たことが特にありません」
「妖怪退治屋なんだよね、ここ」
「はい。そうですよ。ご依頼ですか?」
「そうなんだ・・・無理矢理にでも迎えに、ってつかわされた」
「まさるさんが?」
「『サル』でいい。なんか西遊記みたいだし」
「・・・ん?ええ、はい。じゃあ『サル』さん」
「なに?」
「いえ、呼んでみただけです」
「ああ・・・うん。ウィーザードボードが使えるから、まるで自分が『孫悟空』だよ」
少し笑いが起こるかな、って思ったまさるに、姫は不思議そうにした。
「そんごくう、ってなに?」
「・・・え?」
「ん?」
「西遊記の孫悟空」
「西遊記と言えば、私的に西遊記機関省です。義理の兄や姉たちが妖怪退治屋として契約しています」
「孫悟空も知らないの?」
「知りません。コードネームですか?」
「えーと・・・俺は、一般人、だと、思う」
「コードネームなし?」
「ああ、うん。姫、を、補助しろ、って皆に言われた。ウィーザードボードに乗れるやつは少ないから」
「砂漠に落ちていたのはあなたのものだったんですね。あとでお返しします」
「うん・・・ありがとう」
「あ、着替えは家の者の男陣がさせましたから。干してありますよ」
「そっちも、ありがとう・・・」
「大丈夫ですよ」
どうして片耳元に赤いハイビスカスを飾っているのかの都合は知らないけれど、彼女にとてもよく似合っている、とまさるは思った。
「植物・・・ここらで育つの?」
「あ、はい。この付近では砂漠にくらべてわずかですが緑があります」
「・・・そうなのか」
彼女は微笑んだ。
「依頼の方、お話くわしく聞く前に、水分補給はいかがです?」
「助かる・・・」
「今用意しますね」
冷えた麦茶を透明なグラスに注いでもらって、まさるはそれを美味しいと思った。
「サル、でいいから・・・」
不思議そうにする彼女の目を、まさるはまっすぐ見た。
「コードネーム『サル』でいいから、一緒に百鬼夜行に対処してくれっ」
「なにかお力が?」
「俺は邪気を感じ取って、上手くいけばそれを跳ね返したりできる」
「あ、私は邪気を無効化できたりします」
「まさか、コードネーム持ってるの?退治屋で?」
「はい。サンゾウ、と言います」
「姫、なんだよね?」
「はい、そうですよ」
「恋人とか許嫁とかはいますか?」
「いいえ、いませんよ」
「じゃあ、僕が候補に挙がっていいですかっ?」
「え?」
「君に・・・惚れたっ!!」
「・・・ええぇぇっ!?」
顔を真っ赤にした彼女は大仰に身体を退いて、部屋から走って出て行った。
「・・・え?」
しばらくすると部屋に置いてある内線らしき電話が鳴った。
気になったので受話器を取ってワイヤレスボタンを押すと、彼女の声がした。
「〈サルさん?〉」
「はい。そうです。僕は幼く見えるけど、十七歳です。あなたが初恋の相手です」
「〈サルさん・・・父に相談したら、なぜか一緒に見聞してこい、と・・・〉」
「ちょうどいい。百鬼夜行を未然に防げたら、って思ってる」
「〈なるほど・・・食事を軽くしたら旅立ちなさい、って。準備しますね〉」
そう言って内線電話の通話は切れて、まさるはため息を吐いて枕に身体を任せた。
【 二章:新宿のエロガッパ 】
医務室にある姿見で、斜の付いたティアラを付ける彼女。
「そう言えば名前・・・」
「本名?秘密です。父が見聞していくうちに運命の殿方に出会うだろうって」
「ん?」
「私は、身内か『将来身内』になってもいいひとにしか、本名を言わないひとです」
「分かった。信頼できる仲間になりたい」
「本当ですかっ?」
勢いよくこちらに振り向いた彼女の笑顔が可愛くて、大きく何度もうなずく。
彼女が不思議そうに「どういう意味だろう?」とつぶやく。
「まだ・・・まだ早い、まだ早い・・・百鬼夜行を収束させるまではっ・・・」
その時ファックスが送られて来て、独特な音を出す。
その紙をまさるに渡し、「地図ってやつらしいです」と言う彼女。
「多分、丸印がされてる所に行け、ってこと・・・新宿ね」
「新しい宿・・・?見聞についてだって父が言ってたけど、ここに泊まるんでしょうか」
「しんじゅくっ」
「・・・ん?」
「新しい宿に行こうっ?」
「はいっ」
* * *
魔法具サーフィン型ウィーザードボードに乗って、旅支度をしたふたりは砂漠を出る。
そのまま飛行可能な場所まで飛び続けて、目的の建物は『キノコ街道』付近だった。
飛行を止めて巨大なキノコの群れを見上げるふたり。
「圧巻・・・」
「ですね」
新宿の記憶を吸って満足したらしき、薬になるかもしれないキノコたち。
なんでも約束の日を破った人間たち側のせいで、未だ「良薬になってない」状態。
キノコ街道付近は危険だと言う当然の考え方から、家賃が安い。
如意棒らしき『サル』の使う武器を所持している者は、この付近にいるらしい。
* * *
紙切れの住所を見て、とあるアパートの一室の前にふたりはいる。
「ここかぁ・・・」
チャイムのボタンを押すサンゾウ。
のそのそ出てきたのは腰まで髪の毛がある美青年で、まさるを見て「女子?」と言う。
「俺は男だっ」
更にひとの気配に玄関の扉を開けた男が、サンゾウの姿を見てぎょっとした。
少しの間ののち、「女子・・・」とぼやく。
まさるが、「新宿のエロガッパって君?」と率直に聞く。
「君ぃ?俺は二十六歳、多分だがお前より年上だ」
「あ、ごめんっ・・・」
「ごめん、な、さ、い、だ」
「ごめん、突き詰められたくない・・・」
「何か事情があるのかよ?」
「単に多感期だよ」
「仕方ない。入れよ。珍しい客だ。茶でも出すぜ」
返事を待たずに部屋の中に戻っていく男から視線を外し、まさるがサンゾウに言う。
「多分だけど彼、春を売ってるひと、だ」
「ん?」
「売春」
「まかさっ・・・」
戻ってきた男が閉まり終わりそうな玄関扉を再度開ける。
「入らないのか?」
「春を売ってる、って・・・特殊能力っ?すごい!お話してみたいっ」
男がいきごんで言った。
「中に、入ったらいいっ・・・」
「コードネームとかありますかっ?」
「・・・『新宿のエロガッパ』だ。略してもいいぜ」
「私はサンゾウっ。こちらは『サル』さんですっ」
「なに、その西遊記っぽいの?ばぁちゃんから継いだ武器の件か」
「そうなんだっ。やっぱり、君が持ってるだっ?中に入るよっ」とまさる。
サンゾウは玄関の内側に入って、部屋の様子を見た。
「靴を脱ぐんですか?」と不思議そう。
側には煙草と香水の匂いが染みついた美青年の長い髪先がある。
サンゾウは楽しそうに男を見上げた。
「ガッパさんのお家は・・・玄関しかない?」
大笑いをした美青年が、旅に付いていくぜ、とあとでぼやいた。
【 三章:池袋の富んでるブタ 】
「・・・これ?如意棒みたいな・・・教鞭?」
まさるが唖然としている中、呆れ顔で『ガッパ』が言う。
「大切に保管しておけ、って言われただけで、使い方を知ってるのはブタだ」
「・・・ブタ?」
「話に聞くに、『ブタ』って呼ばれてるらしい」
「なんで?」
「伝説に、未来が見える能力者の家系が『豚』の一文字を継いだって」
「末裔がいる、ってこと?」
「そうだと思う。そいつがそのぉ・・・如意棒を」
「名前曖昧なのっ?」
「今、忘れてるけど・・・その如意棒っぽいやつの、使い方知ってるって」
「僕、長い説明がムズカシイんだよ」
「俺は使い方しらねぇって」
サンゾウが出された緑茶を飲み干し、満足そうに笑顔になった。
ふたりの視線に気づき、「話は聞いてましたよ」と言う。
「それ、お茶の名産地のものなんだよ。俺の故郷のお茶だ」
「東京出身じゃないんですか?」
「どこかは秘密」
「ねぇねぇ、そんなことより、『ブタさん』はどうするの?」とまさる。
「会いに行くしかねぇだろ」とガッバ。
「さっき、旅に付いていってもいいって言って下さいましたよねっ?」
「ああ、オーケーだよ」
* * *
教鞭と一緒に、ウィーザードボードを所持していた『新宿のエロガッパ』。
どうやら乗れるらしいが、飛行禁止地区近くに住んでいるので久しぶりらしい。
背広を着た『ガッパ』は、まさるのことを『サル』と呼ぶことにしたらしかった。
そしてまさるも、腰まである長い髪の毛のその美男を『ガッパ』と呼んだ。
並んで飛ぶサンゾウは真剣な顔で飛行していて、飛行中は特に喋らない。
「なぁ、『サル』」
「なんだよ、『ガッパ』の兄さん」
「お前・・・サンゾウに惚れてるだろう?」
「あんたも、ねっ」
「その確認がしたかっただけだっ」
「ああ、そうっ・・・」
* * *
到着したのは一件の家で、その家人は
「ブタは池袋でラーメンでもすすっています」と言って、
玄関のインターフォン通信を切った。
顔を向け合う三人。
「・・・『ブタさん』に会いに行こうぜっ!!」
「うん、是非に!!」
「はいっ。ちょっとふらふらしてきたので、食事をしたいです」
「じゃあ、池袋のラーメン屋に情報も売ってもらおうぜよ」と『ガッパ』。
* * *
とあるラーメン屋に三人は訪れ、とりあえず聴取するに目的の場所に到着。
そこで『ガッパ』さんのおごりで、ラーメンを食べることなった。
物珍しがるサンゾウの態度に、客が「オタクなのかな?」とぼやく。
それを聞き取ったラーメンをすするのに夢中だった男が、顔を上げる。
「おーいしー!!こんなに美味しいものがあるなんて知らなかったぁっ」
「ラーメンも食べたことないのっ?」
「おごりがいがあっていいじゃん」
「ねぇ。ねぇ、貴殿ら、もしかしてオタクなら僕に挨拶は??」とその男。
「俺たちに言ってるの?」とガッパ。
「そうだよ、僕『ブタさん』ですよ?」と黒く丸い遮光眼鏡をかけている男が言う。
「なんで室内でサングラスかけてるの?」
「視力が弱いんですか?」
「あ・い・さ・つ!」
サンゾウが困った様子になり、彼女をはさんで座っているふたりが見とれる。
「オタク、って言葉の意味が分からない・・・重要事項だったらどうしよう?」
「貴殿、オタクモグリ?」
「私はサンゾウ、こちらはサルとエロガッパです」
「ああっ、君たちなのね、僕を必要としてくれるかもしれないひとっ」
店の店主が、「ほい。これも食べるといい」と餃子を出してくれた。
「え?」
「いいから、いいから」
自分をはさんで座っている男ふたりの顔色をうかがうサンゾウ。
「こんな幸せあっていいんでしょうか?」
「「いいと思う」」
ラーメンにしか興味のなさそうなその遮光眼鏡をかけた男が言った。
「俺は『池袋の富んでるブタ』!!よ・ろ・し・く!!」
【 四章:秋葉原の精鋭たち 】
とりあえず教鞭の使い方を念力で伝えると言う『ブタさん』。
めちゃくちゃビビりながら自然と目をつぶる『サル』。
ひくひくとまぶたに痙攣が起るような情報交流があったらしく、
サルは数秒の間を開けて、なるほど、とぼやいた。
結局ラーメンの料金は店からの好意で全員無料。
のれんが差してある玄関口で、サンゾウは深々と再度のお礼をした。
見とれる三人。
「可愛いね、あのこ」とブタさん。
「本名はまだ教えてもらってない・・・」とサル。
「ねぇ、サンゾウって名前なにっ?」とガッパ。
え、と言ってちょうど礼に気が済んだサンゾウが振り向く。
「サンゾウは、三匹の象って漢字で書きます」
「「「・・・スリー・エレファント?」」」
「はいっ!なんだか三人で組んでるように錯覚するでしょうっ?」
三人が「なーるほど~」と同じ調子でかぶる。
「もしかして、三人の仲に私の運命の殿方がいたりしてっ?あははっ」
「・・・姉ちゃん、これ以上、俺を本気にさせたらいけねぇぜ」とブタさん。
「そう言えばブタさんは、ブタって言う一文字を継いでる家なんですよね?」
「なんで知ってるんでぃ?」
「うわさ」とサル。
「伝承」とガッパ。
「なるほど・・・予見された百鬼夜行を解決したら、俺は晴れて『ブタ』卒業だ!」
「どんな名前にするんです?」
「おりゃあ本名が『タクマ』って言って、「豚」って字に切磋琢磨の「磨」の字なんだが、
どうも名前を思いつかねぇ」
「え?切磋琢磨の琢磨って字でいいのでは?タクマって響きも残るし」
「「「おお・・・」」」
「ん?」
「「「ううん」」」
「違うかぁ」
「「「大当たりだよ」」」
「なんで皆さんそんなに同時に言えるんです?よくあるんですか?」
「「「ううん」」」」
「うーん・・・」
「とりあえず俺は使命をとげたら、タクマに戻るわ。協力する。サンゾウありがとう」
「いいえ、いいえ。そう言えば、コードネームは『ブタさん』でいいってこと?」
「うんうん、いいから、いいから。ブタさんは、秋葉原に用がある」
「あきばはら?」とサンゾウ。
「あきはばら」
「あきばはら?」
「うん、あきばはら、に、これから行くから、ね」
「はいっ、そこは退治屋の予定で寄らなきゃいけない所ですっ」
「あきばはら、って所に?」
「はいっ。確か『あきばはら』ですっ!」
「・・・うん!どうでもいいけど、タクマ君はウィーザードボードどうするの?」
「え?俺、持ってないよ?」
「あ。大丈夫、私はふたつ持ってるので、ひとつお貸ししますっ」
「ありがたい」
「いえいえ」
指輪の魔法石からウィーザードボードを出し、乗り方を教えるサンゾウ。
すぐに乗りこなせるようになった『タクマ君』たちは秋葉原へ。
そしてその上空からの登場に、広場に集まっていたオタクたちが
「ブ・タさーーーーんっ」と狂喜して、こぶしを振り上げ盛り上がる。
なぜか女子は白いフードコートに、錫杖を持っている。
そして男子たちは、伝承されてきた西遊記あたりの指定した服を各々が装っている。
タクマ君が言った。
「俺の誇る、『秋葉原の精鋭』たちさ・・・」
【 五章:百鬼夜行の前触れ 】
秋葉原にて、集団で飛んでるタクマ君を目の前に、ブタさんコール。
なんだか楽しくなってきたのか、サンゾウは手拍子を始めた。
上空にて、まさるは困惑。
「な、なんだかスゴいね・・・」
「まさか、サンゾウが今まで無事だったのは、白い衣と錫杖持っててくれたからっ?」
着陸して拍手で迎えられる面々。
ガッパさんは自分の空想事情に感動してちょっと泣いている。
和柄の入ったロングTシャツに、いい色のジーンズ姿のタクマ君。
彼の登場は決まっていたが、秋葉原のオタクたちの士気は断然変わった。
「痛いっ」と頭を抱えるサル。
皆がはっとした。
「妖気がありますっ。皆さん、さがってっ」
サンゾウの颯爽とした言葉に、皆が空間を空けた。
「来るっ」
教鞭を両手に持って、かまえるサル。
「待って、退治屋の伝承では、ここでいきなり攻撃に出るから百鬼夜行が始まるんですっ」
「「何だってっ??」」
「まことしやかだから、私くらいしか知らないかも・・・姫に伝承されてきたやつで」
「「どうしたらいいのっ?」」
「とりあえず、未然に防げるなら防ぎたいので、皆さん、どうか協力して下さいっ」
「「どうしたらいいのっ?」」
「鎮魂の言の葉を散らすんですっ」
まさるが「来るっ」と叫ぶ。
そこに、女の頭のおたまじゃくしみたいなのが現れる。
「偵察部っ」
「おやおや・・・お前さんが、サンゾウかえ?」
「そうですけど、なんで名前をご存じで?」
「うんぬんかんぬんははぶこうねぇ・・・百鬼夜行の前触れ役だが、どうでる?」
「どうか皆さん、協力をっ」
サンゾウが背後にいるオタクさんたちに掛け合う。
皆が息を呑み、「おうっ」と返事をする。
「どうするんだ・・・?」
かまえている横に並んだ仲間たちを確認して、サンゾウは妖に叫んだ。
「どうか、百鬼夜行、しないで、たもーーーっ」
オタクたちが意を察し、続く。
「「どうか、百鬼夜行、しないで、たもーーーっ」」
妖が困り出す。
「んん~・・・分かったよ、そんな風に言うんだったら、しないよ」
サンゾウが「マジですか~?」と確認を取る。
「マジだ、マジだ、そもそもキンカクとギンカクが仕組んだことだ」と妖は透けて消えた。
まさるが、頭痛が退いた、とぼやく。
安心した面々はため息を吐いて、背後にいる協力者たちに礼を言った。
皆が、「嘘だったらどうしよう?」と困っている。
「西遊記的に言えば、キンカクとギンカクってボスキャラだよね?」
あっ、と声を上げるガッパさん。
「金閣寺と銀閣寺じゃねっ!?」
タクマ君が、「なんか聞いたことあるぅ」と言い出す。
「何か関係しているのでしょうか?」と真剣な顔のサンゾウ。
話し合いにより、百鬼夜行が訪れるのかどうか分からない状態に入った、と報道。
それを知ったオタクたちが、サンゾウたちに相談報告をする。
「金閣寺か銀閣寺が、どっちかが東京にあるらしい、っす」
サンゾウは意気込んだ。
「確認に行きましょうっ」
サンゾウと三人のウィーザードボード乗りたちは、秋葉原から旅立った。
秋葉原のオタクたちは、その背中を神妙に見送った。
話に聞いていたことを書いた。
ここで、記述を終わる。
この記述の題名を、『僕たちはサンゾウを護りたい』とする。
そのあとどうなったのか、自分は知らない。
それから言っておく。
重要だからこめじるしを入れておく。
この記述が不理解者の目に触れた時のためだ。
※この記述はファンタジーです。
書記 あきばはらの住人
―――――――――――――