その3 その後のこと
【今夜、仕事早く上がれそうだから、飲みに行かない?】
決意を胸にLINEを送った。
【いいよ。私も定時いけそうだし】
【じゃあ、いつもの店でいい?】
【いいよぅ。誘ったの清元くんだから…奢り?】
【マジか。給料前なので、ご勘弁いただければ。泣】
【冗談だよ。後でね。】
幼馴染の秋季とほろ酔いで店を出た。
中秋の名月の近い9月中旬。
夜風が大分に涼しくなって来た今日この頃。
そういえば、一年前もこんな感じの日だっけ。
「やっぱ、この時期は胡麻鯖が美味しいねぇ。いやぁ、酒がすすむすすむ。」
「そうだねぁ。あれは、まさに悪魔的だね。」
そんな他愛もない会話をしながら、帰り道を歩く。
何気にこの時間はとても大切な時間である。
しかし、今日はもっと大切なことを話したいと心に決めて連絡をしたのだ。
あの時の二の舞にならないようにと、自分に言い聞かせる。
一歩また一歩と家に近づいていく。
ふと空を見上げた。
まん丸の月がいつもより大きく感じるくらい輝いていた。
「今日は中秋の名月で満月なんだって。何年振りって言ってたっけ?ニュース見た?」
「おぉ、そんなこと言ってたなぁ。朝のニュースで。」
そうだ。だから、今日を選んだんだ。
一年前の十六夜の夜。
月と秋季に助けられ、告白することができた。
今日は、中秋の名月で十五夜の満月だ。
もう一度、その力を貸してもらいたい。
「なぁ。」
オレが秋季を見てる
「なに?」
「月が綺麗ですね。」
「死んでもいいわ。」
「さすが、わかってるね。」
「でも、まだ死にたくはないかなぁ」
「まだ、死なせたくないなぁ」
「じゃあ、あんで聞いたのよ、漱石くん」
「今度の休みにさ、ご両親に挨拶しにいって、いいか?」
「へっ?なによ、改まって。近所なんだし、頻繁に挨拶してんじゃん。」
「そういう意味じゃなくて…。」
立ち止まり、背筋を伸ばした。
「結婚してください。」
静かな夜にさらに静寂が訪れた。
秋季は後ろを向いて、小走りで離れていく。
あの別れ道まで来てたのか、気づかなかった。
別れ道で立ち止まり、振り向いて、左の道を指さして言った。
「月が綺麗だから、遠回りして帰らない?」
「えっ?」
「道端で、龍の顎の玉も無しに求婚するんじゃない。そこの公園でやり直しだ。」
「そこをなんとかなりませんか、かぐや姫。」
「月のお迎えの車に乗って帰っちゃうぞ。」
「それは、困る。」
「じゃあ、行こう。それまで、返事はお預けだよ。」
悪戯っぽく微笑みながら、手を差し伸べてきた。
この人には、一生敵いそうにない。
そう思いながら、秋季の手を握った。
もう一度プロポーズをする言葉を考えながら、二人で歩きだした。
うまく話が纏まってるかわかりませんが、月に絡めて色々考えながら、走り書きしたお話でした。
少しでも楽しんでいただければ幸いでございます。
これにて、清元と秋季のお話はおしまいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。