その2 秋季のこと
清元くんからLINEがあった。
今夜飲みに行こうって。
最近の清元くんは少し変だ。会話がなんかぎこちない。
不自然とは言わないけど、何か、言いたいことを隠しているような雰囲気を感じる。
これは、高校時代に私に彼氏ができた時以来だろうか。
あの時の方がぎこちなかったっけ…
「いやー。今日のオススメの胡麻鯖、美味かったなぁ」
「そうだねぇ。旬のお魚はやっぱりいいねぇ。お酒にも合う。ちょっと飲みすぎたかもなぁ」
9月の秋風が優しく頬をないだ。
結構、気持ちがいい。
他愛無い話をしながら歩く帰り道。
飾らない自分で話せる数少ない相手の一人だ。
男性では、ただ一人かもしれないなぁ。
多分、清元くんは、私のことを好きだ。
長いこと女やってるんだから、それくらい察することはある。
私にとっても、失い難い大切な人だ。
でも、「恋人」になるってのは、やっぱり怖い。
恋人は別れてしますと、関係が終わってしまうことが多いから。
…怖い。
だから、このまでもいいと思っていた。
家が近づくにつれ、微妙にではあるけど清元くんのテンションが下がる。
ふと空を見上げた。
ちょっぴり欠けたことがわからないくらいの綺麗な月が出ていた。
「今日って、十五夜?」
「惜しい!昨日が十五夜。昨日は雨だったからねぇ。空気が澄んでるせいか、今日はいちだんと綺麗だねぇ」
「月が綺麗ですね」っていう有名な愛情表現を自分でいておいて思い出した。
私は、ちょっと意地悪な事を思いついた。
あの別れ道を右に行けば家まではそんなに遠くない。
私の中の小悪魔が微笑んだ。
ちょっと酔っちゃってるのかな。少し楽しくなってきた。
私は別れ道で立ち止って清元くんに向き直った。
「ねぇ、今日はこっちから帰らない?」
遠回りの道を指さしながら。
「月が綺麗だから、遠回りして帰ろうよ。」
やっぱ、酔ってるな、私。胡麻鯖のせいに違いない。
大勝負だ!
告白されたら、付き合う。されなかったら腐れ縁だ。
私が期待したのはもちろん…
二部構成のつもりでしたが、あと一部短いお話を投稿するかもしれません。