その1 清元のこと
【今夜、仕事早く上がれそうだから、飲みに行かない?】
決意を胸にLINEを送った。
【いいよ。私も定時いけそうだし】
【じゃあ、いつもの店でいい?】
【いいよぅ。誘ったの清元くんだから…奢り?】
【マジか。財布に相談してみます。泣】
【冗談だよ。後でね。】
金曜日の深夜
幼馴染の秋季とほろ酔いで店を出た。
9月も中旬になり、夜風は少し冷たくなってきだしていた。
火照った頬には心地良い。
「いやー。今日のオススメの胡麻鯖、美味かったなぁ」
「そうだねぇ。旬のお魚はやっぱりいいねぇ。お酒にも合う。ちょっと飲みすぎたかもなぁ」
他愛ない話をしながら、空を見上げた。
丸くて綺麗な月が目に飛び込んできた。
「今日って、十五夜?」
「惜しい!昨日が十五夜。昨日は雨だったからねぇ。空気が澄んでるせいか、今日はいちだんと綺麗だねぇ」
月を見上げる秋季の横顔は薄らと頬が赤くなって、いつもより魅力的に見えた。
今夜こそ、幼馴染からの脱却を!
心に秘めて俺は、飲みに誘っているのだが、なかなか勇気が出ずにいた。
今の関係を気に入っているし、この関係が崩れてしまうなら、このままがいいかも…という気持ちにいつも負けては、ヘタレな自分に呆れて、もう1度勇気を振り絞ってLINEする。
いつまで経っても前に進めない自分が情けない。
そんなことを考えながら、会社の愚痴や今見てるドラマの話など、他愛ない会話を続けている。
一歩一歩お互いの家に近づきながら。
迫るタイムリミットにまた負けそうになる。
また、今度もあるさ…と弱気なオレが囁いてくる。
ふと見ると、別れ道で秋季が立ち止まった。
「ねぇ、今日はこっちから帰らない?」
遠回りの道を指さして、こっちを向いた。
君がオレを見てる。
「月が綺麗だから、遠回りして帰ろうよ。」
あぁ、そうか
そういうことか…
幼馴染だもんな…わかってんのかな…
チャンスくれるのかな…
「おぉ、いいよ。行こうか。」
十五夜の過ぎたほんの少し月の欠けた夜
いざ!今宵こそ!!
進む道を決めてオレは歩きだした。
さて、「清元のこと」はここまでです。
十六夜とネットで調べて、関連ワードなどや、中秋の名月が近いので、それららから名前をとっています。
一応、「秋季のこと」につなげる予定なので、気長に待って頂ければ幸いです。