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08 ソフィア

(すごい、ゲームで見たのと同じだわ!)

叫びそうになるのを堪えて、私は目の前の建物を見上げた。


あっという間に選考会当日。

私が到着したのは、王宮内にある来賓用の離宮だった。

ここは外国の要人などが泊まるために用意されている宮らしい。

賓客を迎えるための豪華な離宮でこれから一ヶ月間、知らない令嬢たちと過ごさなければならないのだ。


「リナ、大丈夫か?」

お兄様が心配そうに手を握ってくれる。

「……ええ、大丈夫よ」

兄の顔を見て笑顔で答えたつもりだけれど……上手く笑えていないのだろう。

お兄様は眉根を寄せた。


「リナ、辛かったらすぐ帰っておいで」

ぎゅっと抱き締められる。

……本当に、兄は過保護で甘い。

「ありがとうお兄様。大丈夫です、私、頑張ってきます」

甘やかされるのも幸せだけれど、少しは一人で頑張ってみたいのに。




家族が付き添えるのは玄関まで。

離宮の中は侍女のみが同行できる。

私の担当護衛だという騎士に案内されたのは、お父様のものよりも広い部屋だった。

落ち着いた色調の家具で揃えられた室内の、あちこちに飾られた色とりどりの花が目を引く。


「ここは本来ならば男性用の部屋。地味で申し訳ございません」

マチューという護衛騎士が頭を下げた。

「いえ……とても素敵ですわ」

おそらく、応接室もあるこの部屋はこの離宮で一番立派なのだろう。


恐ろしいことに、候補者たちの中で私が一番立場が上らしい。

ゲームと顔ぶれが同じならば、最高位である公爵家の娘は私とソフィア様の二人。

筆頭貴族である私の家の方が家格は上なのだ。

今後、何をするにも私が最初となる。

ゲームのリナはその立場を笠に、他の候補者たちに傲慢な態度を取っていたが、私には無理だ。


私がすべき事は二つ。

ロンベルク家の品位を落とさないこと。

そして……実の妹に見つからないこと。

お妃にはヒロイン・アリスかソフィア様がなるのだから、私には関係ない。




「リナ様、お客様です」

侍女たちが持ち込んだ荷物をテキパキとしまっていくのを、邪魔にならないように片隅で見守っているとマチューがやってきた。


「お客様ですか?」

「ソフィア・ドルレアク様です」

「ソフィア様……?」

訪問者の名前を聞いて目を見開いた。


「いかがいたしましょう」

「お通ししてください」

そう答えて侍女に視線を送ると、彼女たちはすぐさま動き出した。

一人が私の身なりを整え、もう一人がお茶の用意をしにいく。

優秀な公爵家の侍女たちに任せて私は応接室のソファで来客を待った。


「突然の訪問、失礼いたします」

実物のソフィア様は……ゲーム画面よりずっと美人だった。

長い金髪をゆるく三つ編みにしてサイドに流している。

シンプルで上品な紺色のドレスが、知性溢れる顔立ちによく似合っていた。


「いえ、おいで下さりありがとうございます」

「まだ片付けを終えていなかったかしら」

「大丈夫です」

荷物は全て運び終わっているし、後は細々したものをしまうだけだ。

そもそも私は何もすることがない。


「私、ずっとリナ様にお会いしたいと思っていましたの。到着されたと聞いて待ちきれなくて」

ソファに座り、並べられたお茶を手にするより先にソフィア様は言った。


「私にですか?」

「公爵家で歳が近いご令嬢はリナ様だけなんですもの。仲良くなりたいと思っていましたの」

ふふと笑う笑顔が可愛らしい。

「どこかのお茶会でお会いできると思っていましたのに……全然お出にならないですから」

「申し訳ございません……まだ貴族になって四年しか経っておらず、マナーも覚束ないものですから」

「そうなのですか? 全く問題ないように思われますが」

ソフィア様は首を傾げた。

「……ありがとうございます。でも母を見ていると自分が未熟だとつくづく思えるんです」


「まあ、ロンベルク夫人は淑女の見本のような方ですもの。あの方と比べてしまったら、私だって未熟者ですわ」

お母様は、元々他国の王女だったという。

外交で訪問したお父様と恋に落ちてこの国に来たそうだ。

生まれながらのお姫様と比べるのも無理があるとは思うけれど……唯一の見本がお母様なのだ。

「それにマナーなどは、実際の経験を積み重ねて身につけていくものですわ」

それは……そうかもしれないけれど。


家族が私を外に出さないのは、マナーの問題というより過保護なせいだと思う。

彼らにとって、私はまだひ弱で保護すべき対象なのだ。

今日出発する前も、皆心配の言葉を繰り返していた。


「今度我が家で開くお茶会に招待してもよろしいでしょうか」

期待を込めた眼差しでそう言われてしまったら、断れるはずもない。


「ええ。お願いいたします」

そう答えるとソフィア様は嬉しそうに顔を綻ばせた。

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