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「何事だ」

突然の悲鳴に、エルネスト様は私を引き寄せて周囲を見回した。


「――令嬢同士の揉めごとのようです」

ややあって警備の騎士がやってくるとそう告げた。

「揉めごと? 誰が」

「一人はバルゲリー侯爵令嬢で、もう一人の名前は分かりませんが……ロンベルク公爵子息がエスコートした方だとか」

「アリス?!」

「ああ、バルゲリー嬢か……」

エルネスト様はため息をついた。


「どなたですか」

「セリーヌ・バルゲリー嬢は、よくユリウス殿にまとわりついているんだ」

「お兄様に?」

「自分がユリウス殿の婚約者になるんだと信じて疑わない……なかなか思い込みが激しくて厄介な人間だよ」

困ったように眉根を下げてエルネスト様は言った。


「まあ、そんな方がいらしたのですか?」

「確かあまりのしつこさに、ユリウス殿に接触しないようロンベルク公爵家からバルゲリー侯爵家へ申し渡しがあったと思ったが」

接触禁止令が出るほど?!

そんな人がいるなんて……。

「アリスは……大丈夫でしょうか」

「行ってみよう」

差し出された手を取り人垣ができている方へと向かって行くと、こちらに気づいたニコラ殿下がやってきた。


「兄上」

「ニコラ。状況は」

「ユリウス殿が助けに入っところにソフィアが参戦しています」

「ソフィア様が?」

参戦って?

「原因は」

「アリス嬢が子爵令嬢であることに文句や事実無根の言いがかりをつけているようですね。悪いのはセリーヌ嬢ですが……子爵令嬢がユリウス殿にエスコートされていることをよく思っていない者もいるようですね」

観衆の中からそんな声が聞こえるとニコラ殿下は言った。


「全く、頭の古い連中は」

ちっと舌打ちが聞こえた。

「それで怪我などはしていないだろうな」

「怪我はありませんが、アリス嬢がセリーヌ嬢にワインをかけられました」

「ええっ」

ワインをかけられるなんて……そんな乙女ゲームみたいな展開が?!

「全く、このような祝いの席で」

「王宮も出禁にした方がいいかもしれませんね」

「バルゲリー侯爵にも……」

突然、前方の人垣の向こうから金色の光が放たれた。


「何だ?!」

「この光はまさか」

「あの湖の時と同じ……」

三人で顔を見合わせると、慌てて光の元へと向かった。



「アリス!」

人垣をかき分けると、目の前で光が消え中からアリスの姿が現れた。

「眩し……え」

瞬いたアリスが自分のドレスを見て目を見開いた。


ワインをかけられたと聞いたドレスには全くシミがなく、代わりになかったはずの金色の模様が描かれていた。

いくつもの歪な輪が重なったその模様はアリスの動きに合わせてまるで水面のようにゆらめいて美しかった。


「ドレスが」

「まあ……綺麗」

「今の光は一体何が起きたんだ」

騒然とする中、私はアリスの元へと駆け寄った。

「アリス」

「おね……リナ様」

アリスは困惑した顔で私を見た。

「これはどうしたの」

「……頭の中にまた女神の声が聞こえて」

「女神が?」

「ああ、さすがアリス嬢だな」

よく通るエルネスト様の声が響いた。



ニコラ殿下を従えたエルネスト様が歩み寄ってくると私の隣へと立ち、お兄様たちと対峙していた女性――おそらくセリーヌ嬢へと向いた。

「このアリス嬢は、我が王家が守る湖の女神からの祝福を受けている。このドレスは女神からの贈り物だろう」

「祝福だと?!」

エルネスト様の言葉に大きなどよめきが起きた。


(え、それは秘密にしておくのでは?)

慌ててエルネスト様を見上げる。

「ここにいる者たちはアリス嬢の身分に不満のようだからな」

私の視線の意図を察したのだろう、エルネスト様は私を見てそう言うと、再び周囲を見渡した。

「アリス嬢の受けた祝福がどのようなものかはまだ不明だが、今見たように彼女が女神に愛されていることは間違いない。そのアリス嬢に何か不満があるのか? セリーヌ・バルゲリー嬢」

「――い、いいえ……」

エルネスト様に問われ、セリーヌ嬢はその顔を青ざめさせると首を横に振った。


「殿下!」

男性が慌てて駆け込んできた。

「申し訳ございません……!」

「バルゲリー侯爵。どうもそなたの娘は問題が多いな」

「は……誠に……。せっかくの祝いの場でこのような騒ぎを起こすなど……」

「一度領地にでも戻して教育し直した方がいいだろう」

頭を下げたままの侯爵にそう言うと、エルネスト殿下は私へ肩を回した。

「さて、我々は帰ろう。君も疲れただろう」

「はい」

「ユリウス殿たちも来てくれ。皆は今しばらく楽しんでいってくれ」

エルネスト様の言葉を合図に、集まっていた人々はその場から離れていった。

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