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「悲劇の悪役令嬢」と呼ばれるはずだった少女は王太子妃に望まれる  作者: 冬野月子
後日譚

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13

「今日は疲れたー」

長い一日が終わり、湯浴みを済ませると私はベッドに飛び込んだ。

遠乗りのついでにお兄様とアリスの距離を縮めるのが目的だったのに、まさかアリスが女神の声を聞けるようになるなんて。


(でも、距離は縮まったのかな)

帰りも二人乗りだったのだが、アリスはお兄様に対して行きほど緊張はしておらず――むしろ会話が盛り上がっていた。

時折聞こえてくる言葉から、私たちの前世の宗教のことのようだったけれど、やはり共通の趣味というのは親しくなるきっかけとして強いのだろう。


「それにしても……女神の声が聞こえるなんて不思議だわ」

ここはそもそもゲームの世界だし、私たちも異世界から転生したのだからありえないことではないのだろうけれど。


この国で教会が管理している国教は一神教だが、それ以外に建国以前から存在する土地の神などがおり、平民たちはそれぞれの神を信仰している。

国を脅かすようなものでなければ信仰の自由は認められていて、教会派の筆頭貴族のお兄様が異教に興味を持つことを咎められないのもそのおかげだ。

神話も貴族平民問わず子供の頃から親しんでいて、その中には神の声を聞くことのできる巫女も出てくる。

ソフィア様がアリスを『巫女様』と言ったのも、皆がアリスの言葉をあっさり信じたのも、それだけ多様な信仰を大切にしている証だ。



ドアをノックする音が聞こえて身体を起こした。

「はい」

「お姉ちゃん……いい?」

アリスの声にベッドから降りてドアを開く。


「アリス。どうしたの?」

「うん……話があるの」

「話?」

真剣な顔で頷いた、寝巻き姿のアリスを部屋の中に入れ、ベッドへと促し二人で寝転ぶ。

前世でもよく、長話をする時は寝ながらしたものだった。


「何の話?」

「……昼間、女神の声を聞いたと言ったでしょう」

「ええ」

「あれ、あの湖の女神じゃなくて……私たちをこの世界に転生させた女神だったの」

「え?!」



アリスは湖で光に包まれた時の話を詳しく説明した。

それを頭の中で整理して――私は思わず大きく息を吐いた。


「何度も姉妹として生まれてた……しかも元々一人だった?」

「それは、かもしれないって話だけど」

でもそう言われてみれば、一人でいる時よりも二人の時の方が落ち着くし、姉妹にしても近すぎると言われたのも納得できるかもしれない。


「そうなの……ところでアリス。あなた自分は何もしてないって思ってたの」

顔を覗き込もうとするとアリスはすっと視線を逸らせた。

「だって……本当に私は何も」

「アリス」

ぎゅっと抱きしめる。

「あなたがこうやって手の届く場所にいる。それだけで役に立っている……という言い方は変だけど、でも、大事なことなの」

「お姉ちゃん……」

「――あなたは昔から、変なところで遠慮するけれど。でもあなたもちゃんと幸せにならないといけないんだからね」

「……うん」

「あなたが幸せじゃないと私も幸せになれない。……それはあなたが良く知っているでしょう?」

「――うん」


前世で私が先に死んでからのアリスの日々を、想像するのも恐ろしいけれど。

でもそんな絶望を――私は知りたくないと、そう思ってしまう。

「だから何もしていないなんて思わないで」

「うん……ごめん」


頷くとアリスも私を抱きしめ返した。




「ところでアリス。お兄様と親しくなれたみたいね」

夕飯の席でも、お兄様に対していつものようなぎこちなさを感じなかった。

「あ……うん……」

「慣れたの?」


「慣れた……というか」

言葉を探すように、アリスは言い淀んだ。

「――ユリウス様と神話とかの話をして……遠い存在だったユリウス様も好きなものに対してはオタクっぽいんだなと思ったら……」

「自分に近いなって?」

「うん。共通の話題で盛り上がれるのって、いいなと」

「そう、良かったわ」


「というかお姉ちゃん、ユリウス様も神話とか好きだってもっと早く教えてくれれば良かったのに」

「あ、そうね……でもお兄様がやっているのは神学だから、アリスの趣味とはまた違うのかと思ってたの」

「確かに違うところもあるけど、でも通じる部分も多いから」

「そうなの」

「……お姉ちゃんってホント、こっち系には興味ないよね」

「そんなこともないけど……」

「興味持つのってアートに関係するところだけじゃん」

確かに、アリスの趣味全部に興味は持てないのよね。


「――元は一つの魂だったのに興味を持つところが違うのって、何でなのかしら」

「うーん……まあ何度も転生してるみたいに言ってたから、違ってきてもおかしくないんじゃない……」

「……なるほど……」

他にも色々聞きたいこと、話したいことがあるのだけれど。

さすがに疲れたせいで、私もアリスもだんだんと声がゆっくりになって。


やがて二人ともそのまま寝落ちしていった。

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