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「――え?」

激しい光に閉ざした目を、恐る恐る開いたアリスは周囲を見渡し驚いた。


真っ白だった。

何もなく、誰もいない……発した自分の声すらすぐに消えてしまうような、何もない場所。

「どこ? みんなは……お姉ちゃん?!」


『アリス』

ふいに金色の光の玉が現れるとともに女性の声が聞こえた。

「え……」

『久しぶりですね、〝亜里朱〟」

「――まさか……」

この世界に生まれる前、前世で死んだ直後を思い出す。

「あの時の……女神?」


『無事あなたと里奈は〝リナ〟の運命を変えることができましたね』

ふわりと浮かんだ金色の光はアリスの目の前へと降りた。

「どうしてここに……まさかまた死んだの?!」

『いいえ、この湖に宿る女神の力を借りてあなたに会いに来たのです』

「私に会いに?」

『リナは運命を変え、幸せを手に入れ未来へと歩み、その魂も輝きに満ちている。けれどアリス、あなたの魂には陰りが見えるのが気になったの』

金色の光がローズゴールドの髪に触れた。

『あなたは何を憂いているの?』



「わたし、は……」

俯いたアリスの周りをくるくると光の玉が舞う。


「……私は、何もしていない」

しばらくしてアリスは口を開いた。

「お姉ちゃんがゲームのように死ななかったのは、お姉ちゃん自身の力で運命を変えたから。私じゃない」

『でもあなたはリナをコゼットのナイフから守ったでしょう』

「あんなの……守ったうちに入らない」

大した傷ではなかった。

ナイフも隠し持てる程度の大きさだったし、コゼットの力もそう強くなかった。

アリスが何もしなくとも、リナは死ぬことはなかったしお妃に選ばれたのだ。


「何もしなかった私が――このままここにいてもいいのかなって」


ロンベルク公爵家に温かく迎え入れられたのは、アリスがリナをナイフから守ったからだ。

けれどそれは大したものではなかったし、その前にリナはアリスを庇い扇子で打たれている。

リナの方がよほど痛かったはずだ。


何もしていない自分が公爵家に世話になるだけでも心苦しいのに、さらに嫁として迎え入れられる――

(それは違う)

自分なんかより、もっとユリウスに相応しい相手がいるはずだ。


「私は……早く王都から離れて、これ以上公爵家と関わらないようにしないと」

リナと会えなくなるのはとても嫌なことだけれど。

それでも――対して役に立てなかった自分がこれ以上世話になるわけにはいかない。



『アリス』

金色の光が強く光った。

『あなたは役目を果たしているわ』

「何がですか」

『あなたの願いで里奈の魂は蘇ることができた。罪を負った魂が次の生では幸せになれる、これはとても奇跡的なことよ』

「それは……きっかけは私かも知れないけれど、でもお姉ちゃんが死んだのだって私のせいだし」

『それに、あなたが幸せでないとリナも幸せになれないのよ』


「私が……?」

『あなたたちの魂は深く結びついている。覚えていないでしょうけれど、前世より前も、何度も二人は姉妹として生まれているのよ』

「え?」

思いもよらない言葉にアリスは目を見開いた。


『元は一つの魂だったのかも知れない、それくらい強い結びつきなの。だから片方の心が傷つくともう一人も傷つくわ。里奈があなたを残して死んだせいで罪を負ったようにね』

「そんな……」

『そしてこのまま家に帰ったらアリス、あなたは不幸になるわ』


「どうしてですか?」

『来年、長雨と水害であなたの領地は水に浸かるわ。そうしてあなたは領地を立て直す資金と引き換えにある商人の後妻として嫁がされるの。三十も歳が離れた男よ、後継が出来ないのは相手の年齢が原因なのにあなたが責められるの、そうしてあとは……分かるでしょう』

「そんな……ことが本当に起きるのですか」

女神というのは未来の天候やそのせいで領地が困窮すること、さらに嫁ぎ先のことまで分かるのだろうか。

『私に力を貸してくれたこの湖の女神は元々この国全ての水を司る女神。数年先くらいなら分かるわ』

アリスの心を見透かしたのか、金の光はそう言った。


『あなたが不幸になればリナが悲しむ。そうして今度はあなたが罪を負うことになり、さらにリナが悲しむでしょうね』

「そんな」

『アリス、あなたは今手を伸ばせば届く幸せを逃してはいけないの』

金色の光が再びアリスの周囲を回る。

『あなたとリナは今生でも姉妹になり、互いに支え合って生きなさい』


回っていた光が強くなると、アリスの身体を包み込んだ。


『アリス、あなたに祝福を。どうか幸せに』

強い光にアリスは再び目を閉ざした。

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