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09

遠乗り当日。

私とアリスは馬車で王都を守る塀を出た所までやってきた。


「いい天気ですわね」

既に到着していた、パンツスタイルの乗馬服に身を包んだソフィア様が私たちに気づくと駆け寄ってきた。

「……もしかしてソフィア様はご自身で馬に乗られるのですか」

私とアリスは通常よりも丈が短いけれど、ワンピースにブーツという格好だ。

「ええ。乗馬は大好きですの」

「ソフィアは上手いですよ」

後ろから来たニコラ殿下が言った。

「早駆けでは敵わないくらいです」

「まあ、そんなにですか」

王子様に勝てるなんて。

「意外ですね」

感心したようにアリスがほう、と息を吐いた。

お淑やかでナイフとフォークより重いものを持ったことのなさそうなソフィア様が、乗馬が得意だなんて。


「あなたがアリス嬢ですね」

ニコラ殿下に声を掛けられて、アリスは慌ててスカートの裾を摘んだ。

「アリス・デュパールと申します。本日はお招きありがとうございます」

「ニコラです。今日は身内だけだから、そう畏まらなくていいですよ」

「……そのような場所に私などをお招きいただいて……」

「アリス嬢はリナ嬢の義姉になるのですよね、だったら身内も同然です」

「え、ええと、それは……」

「ところで、リナ嬢とアリス嬢は乗馬の経験は?」

ニコラ殿下は私を見た。


「私はありません。危ないからと馬に近づけさせてもらえなくて……」

「ああ、さすが過保護と評判の公爵家ですね。アリス嬢は?」

「私も初めてです」

「そう。今日向かうのは王家の直轄地で道も穏やかなので、初めての人でも楽しめますよ」

「そうなのですか」

「目的地は湖があって、中央の島に建つ神殿に渡れるようになっていて……」


「待たせたな」

ニコラ殿下に今日行く場所の説明を聞いていると、馬に乗ったエルネスト様とお兄様が現れた。

「二人乗りに良い鞍を探すのに手間取った」

エルネスト様の馬は真っ白い毛並みで、お兄様の馬は対照的に真っ黒。二頭ともに艶々の毛並みでとても綺麗な馬だ。

「はっ、リアル白馬の王子様……!」

アリスの呟きは聞こえなかったことにした。



「リナ」

エルネスト様が手を差し出してきた。

護衛の手も借りて馬の背へと上がり、横向きに座る。

「わあ」

初めての視界に思わず声が出た。

「高い……」

「怖いか?」

すぐ側でエルネスト様の声が響く。

「いえ……大丈夫です」

「リナは座っているだけでいいから」

「……はい」

「ほら、私に寄りかかって」

とん、と抱き寄せられた。


(うわあ、これは恥ずかしい)

ダンスなどで密着することはあるけれど……横向きに座っているので、耳がエルネスト様の胸のあたりに当たって。

鼓動と体温が……伝わってくる。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だから」

身体が強張るのに気づいたのか、そう言ってエルネスト様が腰へと手を回した。

落ち着こうと息を吐く。

(これは……アリス、大丈夫かな)

二人乗りというのがこんなに密着するものとは。

お兄様の馬に乗せられたアリスへと視線を送ると、かちこちに固まった顔が見えた。



「それでは、僕たちは先に行きます」

颯爽と馬に跨ったソフィア様と、ニコラ殿下が声を掛けてきた。

「遠回りして行くので、皆様はごゆっくり」

「リナ様、アリス様。湖でお会いしましょうね」


「わあ……」

馬の腹を蹴り、あっという間に駆け出し姿が見えなくなった後を見て思わずため息がもれる。

「ソフィア様って格好いい方だったんですね」

「意外とお転婆でね、子供の頃はニコラが良く泣かされていたよ」

「え……?」

「何をやってもソフィアに勝てなくて、悔し泣きだ」

「まあ」

想像して、くすりと笑ってしまう。

「緊張が解れたようだな。では我々も出発しよう」

そんな私に笑みを浮かべると、エルネスト様は手綱を握り直した。



なだらかな道が続く丘陵地帯を馬上から眺めるのはとても気持ちが良かった。

最初は密着するエルネスト様に緊張したけれど、それもやがて慣れた。


「この森を抜けると湖だ」

エルネスト様の言った通り、しばらく森を進むと急に視界が開け、前方に大きな湖が現れた。

「綺麗……」

「あの湖畔にあるのが王家の別荘だ。ニコラ達はもう着いているようだな」

エルネスト様が示した先に数頭の馬が繋がれているのが見えた。


別荘に到着すると、ソフィア様たちが出迎えてくれた。

「馬はいかがでしたか?」

「景色も良くてとても楽しかったです」

「……アリス様はそれどころではなかったようですわね」

ソフィア様の視線を追うと、ぐったりした様子で馬から降ろされるアリスが見えた。


「アリス! 大丈夫?!」

慌てて駆け寄ると、涙目が私を見た。

「無理い……ユリウス様と近すぎ……息が耳に……」

(刺激が強過ぎたかな)

私もエルネスト様と一緒に馬に乗るのは緊張したし、恥ずかしかったのだ。

アリスは尚更だろう。


「大丈夫か」

お兄様がアリスを抱き上げた。

「ひゃあ!」

「暴れると危ない」

反射的に逃げ出そうとしたアリスをしっかり抱き抱えると、お兄様は別荘の中へと入っていった。


「まあ……話には聞いていましたけれど。実際に見ると驚きますわ」

ソフィア様が話しかけてきた。

「あのユリウス様が、女性にあんなに積極的に……」

家でのお兄様を知っていると普通の態度に見えるけれど、外の顔しか知らないソフィア様にとっては不思議なようだ。


「我々も行こう。昼食を用意させてある」

エルネスト様に促され、私たちも別荘へと向かった。


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